◇アートスペースからふる施設長 妹尾恵依子さん40
今年のバレンタイン商戦では、鳥取大丸などで販売されたチョコ「ショコラ・ドゥ・アイ」のパッケージが注目を集めた。昨年開所した作業所「アートスペースからふる」で活動する障害者の作品。アートを就労の選択肢にしようという全国的にも珍しい取り組みで、すでに信用金庫のカレンダーや県のパンフレットにも採用されている。施設長の妹尾恵依子えいこさん(40)に狙いや展望を聞いた。
――活動のきっかけは。
「県立白兎養護学校で講師をしていた際、大学で学んだ美術教育を生かした支援活動をしたいと考えたことです。退職後に、以前から友人が障害者向けに開いていた音楽教室を参考に、美術でもできるかもしれないと思い立って、2005年、個人的に美術教室を開きました」
――当初から就労につなげようと意識していたのですか。
「最終的には、自立のための収入につなげたいと考えていました。しかし、絵を描いたからといって、すぐに買い手が見つかるような甘い世界ではありません。当初の生徒は1人だけ。まず、アートを楽しんでもらおうと、紙を絵の具やクレヨンで汚してもらうことから始めました」
――作業所に発展させた決め手は。
「昨年開かれた第14回全国障がい者芸術・文化祭とっとり大会『あいサポート・アートとっとりフェスタ』で障害者の芸術活動に光が当たり、この流れに乗ろうと思いました。定期開催している展覧会で、ギャラリー関係者や画家の先生、来場者から評価され、鳥取市の美術展などで入選する生徒も出てきたことから、作業所として仕事を請け負えると感じました」
――開所から1年あまりたちました。手応えは。
「挑戦の連続です。モデルの押切もえさんとの共同制作がありましたし、作品を披露するための展示会の回数も増えました。また、制作スタイルも変わりました。教室では、生徒と1対1で取り組んでいましたが、作業所になってスタッフが増え、複数の利用者が一緒に制作するようになりました。互いに刺激を受け、新しい分野に挑戦する人もいます。利用者のリクエストに応えられるよう、道具や材料も充実させました」
――収入は上がっていますか。
「まだまだ、難しいところはあります。多くの人に知ってもらい、もっと仕事を増やしていきたい。利用者の多くは、ほかの作業所と兼業しています。制作にあたるのは週1回、半日程度で、作品が仕上がるまでには時間がかかります。うちは副業的な『セカンド事業所』でいいと思っています」
――今後の目標は。
「良い作品ができれば、それだけ収入を得られ、多くの人に褒めてもらえます。作品が色んなところに使われるようになれば、さらに需要が高まり、アートで収入を得るという動きが広がる。障害者が自立して、自信を持って生きていけるように力になりたいです」
メモ 鳥取市出身。鳥取大教育学部中学校教員養成課程美術専攻で、美術教育を学ぶ。卒業後、和紙工房などを経て、県立白兎養護学校の講師を務めた。2009年から同大で特別支援教育の外部講師。昨年9月に長男を出産し、現在は育児に専念している。活動内容は、NPO法人「楽」のホームページ(http://npo-raku.or.jp/)でも紹介している。
2015年03月09日 読売新聞