東近江市の障害者支援施設あゆみ作業所が開発したスイーツ「湖のくに生チーズケーキ」が昨年末、世界に通用する土産を全国から発掘する観光庁の「究極のお土産」に選ばれた。各地の一般企業が応募した商品と同じ土俵に堂々と並び、審査員から味やアイデアを高く評価された。湖国では近年、障害者の働く事業所から高い市場競争力を持ったヒット商品が次々生まれている。
ほのかな日本酒の香りが特徴のチーズケーキは、県内の酒蔵会社6社の協力で誕生。各社の酒かすをクリームチーズと一緒に熟成させ、蔵元ごとの微妙な風味の違いを楽しめる。2012年、各地の障害者支援施設が手作り菓子を持ち寄る大会「スウィーツ甲子園」(兵庫県主催)でも準優勝。今では、全国から注文が相次ぐ人気ぶりという。
実は、同大会では滋賀県勢が上位の常連になっている。12年春は、黒ゴマを生地に練り込んだバームクーヘン「忍者バウム」(甲賀市・甲賀福祉作業所)、13年は、近江特産の丁字麩(ちょうじふ)を焼き菓子に仕上げた「丁子麩ラスク」(東近江市・RASHIKU)がグランプリを受賞。大会運営を担うNPO法人、兵庫セルプセンターの担当者は「どれも地域性をうまく商品に反映している」と話す。
実際、いずれもターゲットにする客層やストーリー性など細部にこだわり、取材をして何度も感心させられた。チーズケーキの場合、カップにおちょこを使うなどデザインを練り、数度のリニューアルを重ねている。「人気商品を狙って生み出す」という視点は、従来の障害者支援施設の製品にはあまり見られなかったのではないだろうか。あゆみ作業所職員の大野眞知子さん(62)は「利用者の工賃向上につなげるため、良い商品を、との思いが強かった」。
作業所で働く障害者の工賃は、県内の就労継続支援B型事業所で平均月額約1万7千円。厳しい状況を改善しようと、近年、NPO法人「県社会就労事業振興センター」(草津市)が、ものづくりを目指す事業所にビジネスノウハウを伝授して商品開発を支援してきた。マーケティングに精通したスタッフが研修会で、福祉のプロである事業所の職員に商品デザインやPR方法を指導。全国的にも珍しい一般企業とのビジネスマッチングフェアも2008年から毎年続けている。職員は製品の強み、弱みを細かく分析し、プレゼンの技術を高めてきたという。
市場で人気の商品が生まれると、直接的な工賃への還元だけでなく、利用者が地域参加する機会が増え、働く意欲向上やスキルアップにもつながる。地道な取り組みでヒット商品を生む下地は整いつつあり、今後も「障害者支援事業所発」の商品をサービスエリアや道の駅で目にする機会は増えるだろう。注目を続けたい。
濃厚な味に加え、おちょこをカップにするなどデザインも工夫を凝らした「湖のくに生チーズケーキ」
[京都新聞 2014年8月06日掲載]
ほのかな日本酒の香りが特徴のチーズケーキは、県内の酒蔵会社6社の協力で誕生。各社の酒かすをクリームチーズと一緒に熟成させ、蔵元ごとの微妙な風味の違いを楽しめる。2012年、各地の障害者支援施設が手作り菓子を持ち寄る大会「スウィーツ甲子園」(兵庫県主催)でも準優勝。今では、全国から注文が相次ぐ人気ぶりという。
実は、同大会では滋賀県勢が上位の常連になっている。12年春は、黒ゴマを生地に練り込んだバームクーヘン「忍者バウム」(甲賀市・甲賀福祉作業所)、13年は、近江特産の丁字麩(ちょうじふ)を焼き菓子に仕上げた「丁子麩ラスク」(東近江市・RASHIKU)がグランプリを受賞。大会運営を担うNPO法人、兵庫セルプセンターの担当者は「どれも地域性をうまく商品に反映している」と話す。
実際、いずれもターゲットにする客層やストーリー性など細部にこだわり、取材をして何度も感心させられた。チーズケーキの場合、カップにおちょこを使うなどデザインを練り、数度のリニューアルを重ねている。「人気商品を狙って生み出す」という視点は、従来の障害者支援施設の製品にはあまり見られなかったのではないだろうか。あゆみ作業所職員の大野眞知子さん(62)は「利用者の工賃向上につなげるため、良い商品を、との思いが強かった」。
作業所で働く障害者の工賃は、県内の就労継続支援B型事業所で平均月額約1万7千円。厳しい状況を改善しようと、近年、NPO法人「県社会就労事業振興センター」(草津市)が、ものづくりを目指す事業所にビジネスノウハウを伝授して商品開発を支援してきた。マーケティングに精通したスタッフが研修会で、福祉のプロである事業所の職員に商品デザインやPR方法を指導。全国的にも珍しい一般企業とのビジネスマッチングフェアも2008年から毎年続けている。職員は製品の強み、弱みを細かく分析し、プレゼンの技術を高めてきたという。
市場で人気の商品が生まれると、直接的な工賃への還元だけでなく、利用者が地域参加する機会が増え、働く意欲向上やスキルアップにもつながる。地道な取り組みでヒット商品を生む下地は整いつつあり、今後も「障害者支援事業所発」の商品をサービスエリアや道の駅で目にする機会は増えるだろう。注目を続けたい。
濃厚な味に加え、おちょこをカップにするなどデザインも工夫を凝らした「湖のくに生チーズケーキ」
[京都新聞 2014年8月06日掲載]