風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

月桂樹と彼岸花

2010-09-27 13:18:14 | 俳句、川柳、エッセイ
 能古島を愛し、ここに居住した高田茂広先生は、海事史、郷土史家として著名である。
 ご著書も多い。
 昨年逝去され、先生を慕う多くのひとたちに見送られた。

 風子ばあさんは、ちょっとしたことから先生と顔見知りになり、親しくしていただいた。

 もっとも、先生は、誰にでもそう思わせる達人で、だから、誰もが自分は可愛がられたと思ってしまうのである。
 
 能古島のお宅は広々と見晴らしのいい高台にあり、晩年の檀一夫が住んだ家と近かった。
隣に檀さんがいて、と先生はよく話された。
 隣と言っても、谷ひとつあるんですがね、と付け加えられた。
 
 その檀一夫から譲られたという月桂樹の木が先生のお宅の庭に植わっていた。
檀一夫は、佐藤春夫に譲られたものを東京からわざわざ移したのだという。

 はじめてお邪魔したとき、風子ばあさんが、厚かましくも、ひと枝切ってくださいませんかと、ねだったら、先生は、今は挿してもつかないよ、と切り惜しみをなさった。

 翌年お邪魔したとき、もう一度ねだった。
このときは仕方なさそうに鋏を出して来て下さり、切りながら、だんだん小者になるなあ……とおっしゃったので、思わず、ぷっと吹き出した。

 佐藤春夫、檀一夫、高田先生、風子ばあさん、なるほど、小者も小者だよねと、おかしかった。

 ほんとうは先生は人には切らせたくなかったのだろうと、愚かにも後から思った。

 挿し木して、大事に水やりをしたが、結局は小者の庭には根付かず、そのことを報告する前に先生は亡くなってしまった。

 お宅の庭の、たくさんの彼岸花も先生の自慢のひとつだった。
去年の今ごろ、もうどなたもいらっしゃらない庭で、ひとり彼岸花の花見をしてきた。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
良い話ですね (hiroko)
2010-09-27 22:33:31
月桂樹ってそんなに根付き難い木なのですか。
あれば便利ですが、育ちすぎて困る木だと思っていました。
無人の庭に咲いている彼岸花って、一番ふさわしい花に思えます。
返信する
月桂樹 (fuuko)
2010-09-28 17:14:31
hiroko様
たしかに月桂樹は丈夫なようですね。
風子ばあさんが嫌われたのでしょう。

彼岸花の季節ですね。
 地の底の朱をあつめて曼殊紗華
友達のご主人の俳句です。無断借用です。
返信する

コメントを投稿