風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

終活

2012-02-13 12:46:46 | 俳句、川柳、エッセイ
      天下国家への愁いはあるが、我が身ひとつに限れば、
     さしあたり平穏無事である。
 
      いずれ限りある命だから、苦痛さえなければ、
     いつ死んでもいいと、悟ったふうな境地である。
 
       ただし、ひとつだけ心残りがある。
     風子ばあさんは、片づけ下手で、いつも散らかして暮らしている。
     服はぶら下がり、靴は脱ぎぱなっしのテイタラクである。

        ばあさん、案外、見栄っ張りだから、
       これでは死ねない。

      葬式でひとが集まったときに、このざまは見せられない。

      まず、押し入れの整理から……と思いたち、
    首を突っ込んだら、独身時代からのアルバムが積み上げてある。

     捨てるべきは捨て、遺すべきは薄いアルバムに貼り直すことにして、
   とりかかり、もう3日たったが、まだ終わらない。

      若かった風子、マンザラでもなかったなあと、秘かに眺め、
    懐かしいあの人、この人の顔を見ていると、なかなか仕事がはかどらない。
 
     ついには、飽きて、もうこのまま放りだしたくなる。

       手こずっていて思い出したのは、
     風子と同じ年で、引っ越しを目前にしている友だちの顔である。

       偉いなあ、彼女、頑張るなあ。
    押し入れくらいで音を上げられないなあ、と思い直して、
    また、しぶしぶ格闘しているのである。