天下国家への愁いはあるが、我が身ひとつに限れば、
さしあたり平穏無事である。
いずれ限りある命だから、苦痛さえなければ、
いつ死んでもいいと、悟ったふうな境地である。
ただし、ひとつだけ心残りがある。
風子ばあさんは、片づけ下手で、いつも散らかして暮らしている。
服はぶら下がり、靴は脱ぎぱなっしのテイタラクである。
ばあさん、案外、見栄っ張りだから、
これでは死ねない。
葬式でひとが集まったときに、このざまは見せられない。
まず、押し入れの整理から……と思いたち、
首を突っ込んだら、独身時代からのアルバムが積み上げてある。
捨てるべきは捨て、遺すべきは薄いアルバムに貼り直すことにして、
とりかかり、もう3日たったが、まだ終わらない。
若かった風子、マンザラでもなかったなあと、秘かに眺め、
懐かしいあの人、この人の顔を見ていると、なかなか仕事がはかどらない。
ついには、飽きて、もうこのまま放りだしたくなる。
手こずっていて思い出したのは、
風子と同じ年で、引っ越しを目前にしている友だちの顔である。
偉いなあ、彼女、頑張るなあ。
押し入れくらいで音を上げられないなあ、と思い直して、
また、しぶしぶ格闘しているのである。
さしあたり平穏無事である。
いずれ限りある命だから、苦痛さえなければ、
いつ死んでもいいと、悟ったふうな境地である。
ただし、ひとつだけ心残りがある。
風子ばあさんは、片づけ下手で、いつも散らかして暮らしている。
服はぶら下がり、靴は脱ぎぱなっしのテイタラクである。
ばあさん、案外、見栄っ張りだから、
これでは死ねない。
葬式でひとが集まったときに、このざまは見せられない。
まず、押し入れの整理から……と思いたち、
首を突っ込んだら、独身時代からのアルバムが積み上げてある。
捨てるべきは捨て、遺すべきは薄いアルバムに貼り直すことにして、
とりかかり、もう3日たったが、まだ終わらない。
若かった風子、マンザラでもなかったなあと、秘かに眺め、
懐かしいあの人、この人の顔を見ていると、なかなか仕事がはかどらない。
ついには、飽きて、もうこのまま放りだしたくなる。
手こずっていて思い出したのは、
風子と同じ年で、引っ越しを目前にしている友だちの顔である。
偉いなあ、彼女、頑張るなあ。
押し入れくらいで音を上げられないなあ、と思い直して、
また、しぶしぶ格闘しているのである。