風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

長生き

2012-09-21 13:51:00 | 健康

                  友だちのお母さんは、もうすぐ100歳になる。

                     有料老人ホームに入居したころから、

                    友だちがお母さんのお金の管理をしている。 

                 「年金だけでは足りないけど、多少の貯えを崩していけば、

                         十年くらいはもつと思うのよ」

 

                あれから十数年、いや、そろそろ二十年近くが経とうとしている。

                  「そろそろ預金が底をつくけど、まだまだ元気なのよ」

                    親の長生きを喜ばぬ娘はいないが、複雑である。

                            こちらも返事に困る。

 

                   信じがたいことに、お母さんの歯は至極丈夫そうだが、

                        奥歯が一本、ぐらぐらしてきたそうである。

                    ホームの主任は、家族が歯科へ連れていけというらしい。

                           

                        「ほっとけば抜けるのと違う?」

                        「風子さんは呑気でいいねえ」

                   人質同然だから、ホーム側に言われれば、

                    家族はハイハイと連れていかねばならないのだという。

 

                 近くの歯科へ連れていったら、高齢だから何があるかわからない、

            うちでは抜歯できないので、大学病院へ連れていけと言われたそうである。

                   「もう入れ歯はいらないでしょう、紹介状を書きます」

              卒倒でもして訴えられたりするのを恐れ、年寄りを診たくないのだろう。

                

                         入れ歯の儲けもないもんねえ。

                        子供のお口の方が可愛いしねえ。

 

                    大学病院となると一時間も二時間も待たされる。

              100歳の老人が、抜歯一本でばかばかしい話だがこれが現実のようである。

 

                    超高齢化社会で、「死ぬまで生きる」のはなかなか難しい。


自作自演

2012-09-05 11:38:34 | 健康
               かかりつけのクリニックへ行った。
                 すぐに心配な持病はないが、
               骨粗鬆症の予防のためのビタミンDや、
              食べ過ぎたときの胃薬などを処方してもらう。

             長い付き合いだが、愛想もこそもない先生である。
            何年かかっていても、いっさいの検査をすすめられたことがない。

                  血液や尿のいわゆる健診さえも、
              こちらが言い出さないかぎり何年でも実施されない。

              人にすすめられて、よそのクリニックに替えたことがある。
                 そちらは、親切、熱心、万全の検査、検査。
                

             今月も来月も、心電図を、レントゲンを、血糖値を、etc、で、
          一年もしたらくたぶれはてて、愛想もこそもないいつもの先生が恋しくなった。

            浮気は一年だけで終わり、薬も出し渋りにこりともしない先生のもとに戻った。

                 なぜか、毎度血圧だけは測定してくださる。

                 昨日。
                 「100と、58」
                 とだけおっしゃった。

             ほかに何もおっしゃらないので、風子は自分で
             「低いですねえ」と言った。
                  

             答えがないので、
             「お酒でも飲んでみますかねえ」
             自作自演である。
   
             先生は、相変わらずの仏頂面で、
             「好きにしなさい」
             とだけおっしゃった。


ピンピンコロリ

2011-10-09 11:06:14 | 健康
    うちのお向かいの奥さんは、いつも忙しそうである。
   風子ばあさんちの台所から、日に何度も車が出入りするのが見える。
   自営業のご主人をよく助けているのだろうと思っていた。

    ところが、今日聞いたところでは、
   実家でひとり暮らしをしているお母さんが倒れたのだそうである。

    自宅療養のお母さんの様子を見るために、
   朝食前の早朝から車を走らせ、いったん戻って自宅のことをする。
   それからご主人の仕事場へも行く、そんな暮らしなのだという。

    お向かいの奥さんは風子ばあさんよりだいぶお若い。
   多分、倒れたお母さんは風子と同じ年くらいだろう。
   人ごとではない。

    大変ですね、と立ち話のあと、所用があってバスに乗ったら、
   葬式に行く途中という別の知人に会った。

   「マア、お葬式、大変ねえ」
   「いえいえ、友だちのお母さんなんだけど、もう90過ぎててねえ、
   友だちは、これで長い介護から解放されるって、ほっとしてましたよ」
   この知人もお向かいの奥さんと同じで風子よりだいぶ若い。

   年寄りの風子ばあさんは、肩身が狭い。
  長生きするのも大変だが、
  では早く死にたいかと言えば正直もう少し生きていたい。

   ピンピンコロリは、子にとっても親にとっても切なる願いである。

尊厳死協会 会報

2011-10-07 09:22:38 | 健康
    風子ばあさんは尊厳死協会の会員である。

   延命措置のお断りと、
  緩和医療のお願いなどを明記した宣言書のカードは、
  いつも財布に入れて持ち歩いている。 

   会員には年4回、会報が送られてくる。
  先日、秋号の会報が届いた。
  会員の投稿欄もある。

   その中のひとつに
  「私の尊厳死」という75歳の男性の記事があった。
  よりよい尊厳死を目指したいというご意見が述べられたあと、
  「終末期を見守ってくれる家族と良好な関係を築いておく。
  ちなみに私は以前から、すべて妻の言いなりである」 としめくくられていた。

   すべて妻のいいなりである、のところまで読み、
  思わず一人でくすりと笑った。

   あなたは偉い!

   そうなんです、若いときにさんざん威張っていて、
  最期だけ優しくしてもらおうなんてのは虫が良すぎるのです。

   世のご亭主よ、すべて妻のいいなり……、見習いましょう。
  よく覚えておいて、最期はあたたかく見守ってもらいましょう。

   どっちが先かわからないけど。

ヘッドスパ

2011-10-02 17:41:27 | 健康
   美容院へ行った。
  いつもより閑散としていた。

   福岡の街は、昨日ソフトバンクが優勝したので、
  どこも優勝セールまっただ中である。

   みんな、美容院に行かずに、
  優勝バーゲンセールにデパートへ行ったと思えば納得がいく。

   イケメン美容師は、パーマのあと、風子ばあさんに、ヘッドスパなるものをすすめた。
 「頭皮を刺激して傷んだ髪を回復させる、気持ちいいんですよお、是非おすすめ」
 
   風子ばあさん、こう見えてあんがい気が小さい。
  ひとにすすめられると断れないたちである。

   案内されたヘッドスパ室は、ほの暗い個室である。
  コニョコニョと地肌をマッサージしてくれるのはいいが、
  個室にイケメン氏と二人きりは、なんだか気づまりである。

   お値段は、普通のシャンプーの数倍したが、
  どこが、どう違うのか、よくわからぬままに30分ほどで解放された。

   つまりヘッドスパとは、暇な美容室の売上げに協力することだったのかしら……、と、
  年寄りはすぐにひがむ。 悪いくせである。

   いや、いや、美しく艶やかな髪を取り戻したはず。
  そう思うほうが、精神衛生上にもよろしいようで。
 

ずぶ濡れ

2011-08-24 10:46:22 | 健康
   それにしても昨日はよく降った。

   雨が小やみになったのを見計らって、近所のクリニックへ向かった。
  途中で土砂降りになり、なぜかスカートの後ろ側だけがびっしょり濡れた。
  しぼれるほどだった。

   今さら引き返せないので、そのままクリニックへ行った。

   先生の前で、椅子が濡れては悪いので、失礼します……と断り、
  スカートをぐるりと回して、濡れていない前側をお尻のほうにして座った。

   先生は、あはははは……と大きな声で笑った。

   痛い人や気分が悪い人が来るのだから、
  お医者さんはあまり笑ったりしないほうがいいのにと、
  頭痛気味の風子ばあさんは、ちょっと恨めしく思いながら、
  あ~ん、と口を開けさせられた。

熱中症

2011-07-24 22:41:01 | 健康

  今年の夏は、テレビでも新聞でも熱中症に気をつけましょうとやたらに騒ぐ。
  ごもっともではあるが、いくらか大きなお世話という気がしないでもない。

  気をつけましょう……と言って気をつける人たちは、ほっといても気をつける人たちだ。
  気をつけない人たちというのは、どんなに報道されても、カンカン照りに草むしりをするだろう。

  あるいは、風子ばあさんの知人で、
 「わたし、熱中症で死にたい」などと言う人もいる。

 「あまり苦しまないで、暑くてぼうっとしているうちにすっと逝けるなんて、よさそう!」

  目の前で倒れた人をほっとけとはいわないが、
  人はそれぞれだから、あまりお節介が過ぎるのもどうかと思う。

  お年寄りはことに気をつけましょう……というが、
  90も100にもなって、草むしりをしていて熱中症で死んだからと言って
  そう大騒ぎしないでも、よかろうに。

  年寄りのことはほっといていいから、子供と若者の健康を脅かす放射能のことをもっと論じた方がいい。

紙おむつ

2011-07-23 10:45:09 | 健康
  齢をとるとトイレが近くなる。
 旅行の際など、もっとも気がかりなことのひとつである。

  旅好きな友だちが一計を案じた。
 紙おむつの着用である。

 「それがね、よかったのよう! なにがいいってね、つけ心地……。
 ふっかふっかで気持ちいいの。思わずウフフって嬉しくなっちゃった」

  ほう! である。

  人のすることなら何でも真似してみたい風子ばあさん、
 シルクロード旅行のときに早速試しに穿いてみた。

  う~ん? 
 ふっかふっか……というより、モゾモゾだなあ。
 穿き心地 × だった。

  せっかくの試着だから本来の用も足してみようと気ばってみたが、
 気温40度の砂漠のまんなか。
 塩を吹くほどの汗をかいているから、ほかからの水分排泄はゼロだった。

  あのとき買った紙おむつが、まだ押し入れの一画をふさいでいる。
 邪魔だから捨てようと思ったが、永久にご縁がないとは考えられない。
 それどころか、そろそろ出番が近いかもしれないので、
 手前の取りだしやすい場所に移動させた。

 さあ、ばあさん度アップ! 用意万端、こわいものないぞ!

皮膚科の名医

2011-07-08 22:26:14 | 健康
  風子ばあさんの仲間うちで、ちょっと知られた皮膚科の名医がいる。
 ある美人が手の湿疹を診せたら、
 「すました顔で隠してもダメ、足に水虫があるだろう」
 と、二コリともせずに見破ったそうである。

  さて、昨日、べつの仲間が、
 お尻に茶色の湿疹が出来て受診した。
 
  先生の診たてでは、
 皮膚の下、お尻の内部で骨格や筋肉、その他もろもろの老化や変形が進んでいるそうである。
 その結果が表面に出てきたと言うことらしい。
 
 「どうしたら治るのでしょうか」と彼女が訊いたら、
 先生いわく、
 「老人をやめなければ治りません」ですって。

  当ブログ、カテゴリー「健康」内に、
 この先生の「珍」診断を綴った「名医」および「名医の続き」があります。
 興味ある方はこちらも合わせてごらんください。

  受診してみたくなること請け合いです。

出張治療

2011-06-19 22:24:40 | 健康

   盲目のマッサージ師が
  美しい女性に手を引かれて、我が家のチャイムを鳴らした。

   訪問治療の勧誘である。
  腰の悪い風子ばあさんは関心をもって彼の話を聞いた。

   検討して必要なときは、またお電話しますねと言い、
  足もとの覚束ない彼を見送った。
 
  彼は我が家のお向かいさんも勧誘すべく、チャイムを鳴らそうとしていた。

 「あ、いまお留守ですよ」と教えてあげた。
  ついでに、
 「そちらは、整形外科のお医者さんのお宅です」
  というと、
 「あ、それはいかん……」

  何が、いかんのか、わからないが、白衣のマッサージ師は退散した。

   しかし、お向かいの整形外科の老先生も、
  近ごろは、どうやら腰をいためておいでのようで、
  車からの乗り降りの際など、かなり難渋しておられる。

  あんがい、いかん、ことはないのかもしれない。