机の上

我、机の上に散らかった日々雑多な趣味(イラスト・劇画・CG・模型・HP・生活)の更新記録です。

マンガ50年外伝

2010-06-07 12:49:00 | 楽描き
マンガ画家はめちゃくちゃ尊敬すべき人々である。
何となれば、「絵を書く」「物語をつむぐ」、
全く異なる二つの才能を有するから。

その中でも、谷口ジロー氏は特別である。

いま世界一絵のうまいマンガ画家、と評しても、多くの人が頷いてくれよう。

五月九日付のY新聞の書評欄
「歩く人PLUS」
谷口ジロー著
光文社刊

の冒頭の書き出しである。

と、いう事で、谷口ジロー氏の思い出を。
(いつもながら記憶で書いているので間違っている事もあり、その辺御容赦願いたい。)

1970年代半ば頃だったと記憶する。

今までの劇画作家とは違う雰囲気のアクション劇画に遭遇する。

当時、劇画は皆、ある種の共通点があった。

登場人物は眉毛が太くつり上がり、眼光鋭く、顔の筋肉は緊張し、いつも怒っている様だった。

その中にあって谷口ジロー氏の作品に登場する人物のまなざしは今までの劇画とは画一しない新型に感じられた。

一重瞼で男も女も哀愁をおびたその瞳の虜になった。

初めて見た作品は男性週刊誌に連載された音楽をテーマにしたものだった。

多分、
「ライブ・オディッセィ」
「青の時代」



タイトルも内容も忘れるほど、時間がたっている。

二冊共蔵書しているが残念ながら手元にはない。
(多分、実家の書棚に今もあると思う)

手元にある一番古いものは
「海景酒店」
「西風は白い」
「リンド3」
そして「初期短編集」
(それとて記憶が定かでない最近は本棚を隅から隅まで見る事はない。)
初期の頃は画風が一瞬、上村一夫氏に似ているなと感じた。

はたして後年、略歴に上村一夫氏のアシスタントをしていたと記述がありなるほどなと思った。

だからなのか描かれている女性は艶っぽく先に述べた通りまなざしは哀愁をおび、幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた、気丈で勝気な雰囲気さえ漂う、所謂「いい女」が登場する。

それは男性にもあり、ハードボイルドな作品では今までに見た事がないキャラクターで、本物の人生を演じて見せる登場人物に狂喜した。

そういう男と女がめぐり会い、起こる事件。

それを表現する絵の力。
一生、ついて行こう。

と、思ったが金銭的理由であまり熱心なファンとは言えない。

1990年代から、氏の作品は変容していく。

書評の締めくくりに、

一切ムダがはぶかれて、すべてはマンガ本来の絵のみによって構築される。

それはまるで雪舟の「破墨山水図」や長谷川等伯の「松林図」を見る様だ。

確かに最近の氏の作品は昔、描かれたアクション物とは違い描線もゆるやかで、枯れ山水のおもむきがあるのは否めない。
名作「歩く人」は3年前にアメリカのアイズナー賞にノミネートされた。
まさに「世界の谷口ジロー」なのだ。

と、ある。

今、手元に「晴れゆく空」がある。

そこから他の受賞歴も列記する。

   1992年
「犬を飼う」小学館漫画賞

   1993年
「坊ちゃんの時代」日本漫画家協会賞

   1998年
「坊ちゃんの時代」第2回手塚治虫文化賞

   1999年
「遥かな町へ」第3回文化庁メディア芸術祭優秀賞

   2001年
「神々の山嶺」第5回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞

   2002年
「父の暦」第3回全仏キリスト協漫画審査委員会賞(フランス)

   2002年
「父の暦」(3っつの)スペイン国際漫画賞(スペイン)

   2003年
「遥かな町へ」第30回アングレーム国際漫画フェスティバル“ベストシナリオ賞”“優秀書店賞”2部門(フランス)

   2004年
「坊ちゃんの時代」アッティリオ・ミケルッツィ賞・外国部門賞(イタリア)

   2004年
「神々の山嶺」第32回アングレーム国際漫画フェスティバル“最優秀アート・ワーク賞”(フランス)





----
「晴れゆく空」は所有するモノの中で一番新しい作品である。

奥付に2005年12月24日(第1刷発行)
とある。

この本を書店で見た時、絶対に買わなきゃ、と思った。

帯のキャッチコピーにもそそられもしたが、それ以上に表紙絵からかもしだされる優しさに感銘した。

買わなければ、買って読まなければ、後で後悔する。

何度も鞄に入れて持ち歩くものだからボロボロになってしまった。

作品の内容についてはこの次に委ねよう。

原作物の多い氏にとってはオリジナルである。

帯の一文を転載する。
そこから本の内容を想像していただきたい。

「なんとよい話だろう。おれは泣いたよ。
谷口ジローという描き手が日本にいることの幸福をしみじみと感謝したい。ー 夢枕 獏」

谷口ジロー氏のマンガは映画、小説、ジャンルを越えて歴史に残ると信じている。

(写真はその表紙絵)