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大泉康雄『あさま山荘銃撃戦の深層』(上下巻、講談社文庫)

2018-02-28 | 書評「お」の国内著者
大泉康雄『あさま山荘銃撃戦の深層』(上下巻、講談社文庫)

一九七二年、日本中を震撼させた連合赤軍。その幹部に吉野雅邦という男がいた。小・中学校の同級生で事件直前まで吉野と家族ぐるみで親交を深めていた著者が、事件後の往復書簡を含めてその心の遍歴を辿りながら、裁判記録や関係者からの聞き取りを重ねて、かつてないアプローチで「あの事件」に迫る。(「BOOK」データベースより)

◎吉野雅邦ノートの第1弾

大泉康雄『あさま山荘銃撃戦の深層』は以前に単行本(小学館2003年)で読んでいます。大泉康雄は雑誌「女性セヴン」の編集長をしていました。私とは『点影』という同人雑誌で、小説を発表してきた仲間です。

大泉康雄の実質的なデビュー作は、『氷の城・連合赤軍事件・吉野雅邦ノート』(新潮社1998年)となります。本書は文庫化されるにあたり『「あさま山荘」籠城―無期懲役囚・吉野雅邦ノート 』(祥伝社文庫2002年)と改題されています。文庫化するにあたり、多くの貴重な資料が追加されました。著者と吉野雅邦は幼なじみであり、親友でもあります。

吉野雅邦を、あの事件に駆り立てたのは何だったのか。あの時代とは何であったのか。大泉康雄は彼にしか得られないバックグランドから、それらを解き明かします。吉野雅邦からの書簡や裁判資料、インタビューを通じて、時代の真相に迫ります。

あさま山荘または連合赤軍に関する作品はたくさん存在しています。代表的なのは佐々淳行『連合赤軍「あさま山荘」事件』(文春文庫)、久野靖『浅間山荘事件の真実』(河出文庫)、立松和平『光の雨』(新潮社)などです。

本書がこれらと決定的に違うのは、吉野雅邦にスポットをあてて徹底検証している点にあります。この作業は、誰にもできるものではありません。本書は著者のライフワークです。この作品は、そのゴールではありません。まだほんの一歩を踏み出したにしかすぎません。現役のサラリーマンが仕事以外に追い続けた、執念の作品をぜひ読んでいただきたいと思います。

◎服役中の吉野雅邦の現在

大泉康雄『あさま山荘銃撃戦の深層』(上下巻、講談社文庫)は、著者のライフワークの完結編となります。膨大な資料を駆使した本書は、著者の「あさま山荘」ものの集大成と言えます。構成は第1部「あさま山荘の十日間」、第2部「あさま山荘銃撃戦の深層」となっています。

第1部の方は、テレビに釘付けになった人が多い場面です。著者は、ここに全体の6分の1のみしかページを割いていません。あとはすべて、その深層に迫るものです。前記のとおり、大泉康雄は実行犯の吉野雅邦とは幼馴染です。殺害された妻・金子みちよも知っています。その強みを存分に活用した作品が、前作『氷の城』(単行本のタイトル)でした。

その後、著者は膨大な供述調書、裁判の判決文などを読み漁ります。関係者へのインタビューを実施します。吉野雅邦やその家族から情報を集めます。そして歴史のねじを巻き戻してみせたのです。

大泉康雄は極力自らの声を抑え、冷静に資料を提供しています。映像で繰り返し流され「あさま山荘」からは、うかがいしれない世界を垣間見せてくれました。
 
服役中の吉野雅邦の現在。赤軍派に関連した人たちの心境。そして吉野や金子の家族。著者はやさしい視点で、それらの人たちの「いまの声」をまとめあげています。印象的な1箇所を紹介したいと思います。永田洋子と長く一緒に活動してきた、天野勇司の「指導者論」です。

――「質の悪い指導者が組織をどうしようもないところへ追い込んでいく」のではなく、「堕落した組織がそれに相応しい指導者を生み出していく」というものである。(本文P585より)

これって、現在の政党にあてはまります。

大泉康雄は、吉野雅邦の釈放を心待ちにしています。しかしそれは永遠に実現しないかもしれません。
(山本藤光:2003.05.02初稿、2018.02.28改稿)

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