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大塚ひかり『竹取物語・ひかりナビで読む』(文春文庫)

2018-03-02 | 書評「お」の国内著者
大塚ひかり『竹取物語・ひかりナビで読む』(文春文庫)

日本最古の物語にして成立年、作者ともに不詳という謎につつまれた古典の名作を、人気古典エッセイスト大塚ひかりが全訳。いきいきと躍動する現代語が作品の魅力を現在に呼び覚ます。姫の犯した罪とは? 作者は誰なのか? 作品にまつわる数々の謎に迫る解説も必見。古典世界をさらに楽しむための珠玉のエッセイを厳選収録。(「BOOK」データベースより)

◎川端康成・星新一・大庭みな子・田辺聖子

本稿を書くにあたり、書棚から『竹取物語』を抜き出してきました。文庫だけをならべてみます。

♦角川書店編『竹取物語・ビギナーズ・クラシックス日本の古典』(角川ソフィア文庫)
♦川端康成『現代語訳・竹取物語』(河出文庫)
♦川端康成『現代語訳・竹取物語』(新潮文庫)
♦大庭みな子『竹取物語/伊勢物語』(集英社文庫)
♦田辺聖子『竹取物語/伊勢物語』(集英社文庫)
♦星新一『竹取物語』(角川文庫)
♦脚本・高畑勲・坂口理子『かぐや姫の物語』(角川文庫)
♦大塚ひかり『ひかりナビで読む竹取物語』(文春文庫)

このなかから『竹取物語』のナビゲーターとして、大塚ひかりのものを選ぶことにしました。大塚ひかり『ひかりナビで読む竹取物語』(文春文庫)は、寝転がってでも読むことができます。実に楽しい1冊です。

大塚ひかりは若手の日本古典エッセイストとして、幅広い活躍をしています。またブログ「ポポ手日記・相も変わらず恥ずかしい人生。でも案外楽しい」を公開しています。おもしろいので、ぜひアクセスしてみてください。

『ひかりナビで読む竹取物語』の楽しさは、逐語訳にそえられた解説にあります。解説は、〇のなかに「ひ」といれた記号で、紹介されています。逐語訳の意味は次のとおりです。

逐語訳:(文脈を無視して)原文の一語一語を機械的に解釈・翻訳などすること(三省堂『新明解国語辞典』)

『竹取物語』には、しばしば掛け言葉が用いられています。それをいかに訳すのかが、訳者の腕の見せどころになります。

◎掛け言葉をいかに訳するのか

冒頭の文章に秘められた、掛け言葉の部分を比較してみたいと思います。お爺さんは光っている竹を発見します。中をのぞいてみると、小さな女の子がいました。お爺さんはその子を連れてかえります。そのあとの展開を並べてみます。

【角川ソフィア文庫・古文】
手にうち入れて家へ持ちて来ぬ。妻の嫗(おうな)に預けて養はす。美しきことかぎりなし。いとおさなければ籠(こ)に入れて養ふ。

【角川ソフィア文庫・口語文】
手のひらに、そっと包みこむようにして、わが家につれて帰った。さっそく、妻のばあさんにわけを話して、二人でたいせつに育てた。まったく、その子のかわいらしさといったら、たとえようがない。ただ、体があまりに小さかったので、竹の籠に入れて育てた。

【川端康成訳】
その子を手の中に入れて家へ帰った。――翁が今ここで「そなたはわしの子になるべき人じゃ。」と云ったのは、その「子」というのを「籠」(こ)に掛けてあるのである。元来爺さんの職業は野山には入って竹を取ってその竹から籠などを作るので、その竹を取りに行って、「籠」(こ)ならぬ「子」を見附けたというわけである。――爺さんはそれを婆さんにあずけて育てさせた。ところがその子の美しいこと――なにぶんにも非常に小さいので、籠の中に入れて育てた。

【星新一訳】
両方の手のひらで包むようにして、家へ連れて帰った。妻のおばあさんに、わけを話して育てさせた。ずっと子に恵まれなかった老夫婦。それに、あいらしく美しいのだから、心の込めかたがちがう。竹の製品は、お手のものだ。ゆりかご用の小さな籠、留守中にネズミが近付いたりしないように、かぶせる籠。いろいろ頭も使った。

文字数の関係で、すべてを紹介することができません。ただし、川端康成訳を見ていただけば、苦労のほどがわかるというものです。その点、大塚ひかり『ひかりナビで読む竹取物語』は、掛け言葉の説明を本文からはずしてありますので、リズムよく読むことができます。

◎ひかりナビ連発

【大塚ひかり・逐語訳】
てのひらにそっと入れ、家へ持ち帰りました。妻の<嫗>(おうな)に託して育てさせます。それはそれは愛らしく、とても小さいので、<籠>(こ)に入れて養います。

このあと「ひかりナビ」が連発されます。

――『竹取物語』は、<今は昔>ということばから始まります。これは、『落窪物語』や『今昔物語集』でも用いられている、物語を始めるに当たっての常套句。読者を、非日常の世界に誘う呼び水の役目を果たします。

――この<子>には、すぐあとに出てくる竹から作る<籠>が掛けてあります。

大塚ひかりは、随所にこのような解説をほどこし、楽しく物語の世界を広げてくれます。『竹取物語』を読む場合は、まず本書を手にしてもらいたいと思います。

大塚ひかりのお勧め本を、いくつ書き出しておきます。興味があればぜひ読んでください。いずれも腹を抱えて、笑いながら読みました。

『源氏の男はみんなサイテー』(ちくま文庫)
『愛とまぐはひの古事記』(ちくま文庫)
『女嫌いの平家物語』(ちくま文庫)
『快楽でよみとく古典文学』(小学館101新書)
(山本藤光:2014.03.18初稿、2018.03.02改稿)

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