風竿の「人生の達人」烈伝

愛すべき友、仕事・趣味の磯釣り・ゴルフ・音楽、少しの読書などにまつわるあくまで「ヒト」に重点をおいたブログです

二番目の母のこと

2011年10月01日 23時17分59秒 | 風竿日記

私には二人の母が居る。

産みの母は僅か32歳という若さで、私が小学1年の3学期に亡くなってしまった。

亡くなった人は美しいというものの、それを差し引いても本当に綺麗な母であった。・・・・僕は親父似なんであるが・・・・。

そんなもう52年も前に亡くなった母に良く似たレリーフの写真が見つかったので、ご披露。

背中でぐっすり、母の体温を感じながら眠っているのは私

実際こんな感じであったのだ。

とても厳しくて、しかしとても優しい母であった。

 

そして父の再婚で、後添えとして嫁いできたのが今の母親なんである。

中学の国語と家庭科の教諭をしていた母は、プライドも高く、毅然としていて、そのせいかあまり家庭的な優しい母親ではなかった。

それでも母親の最も必要な時に、突然出現した母に戸惑いながらもどこか嬉しかったことを覚えている。

雨の日など傘を二本持って母の帰りをバス停で待っていたものだ。

父と夫婦喧嘩が絶えなかった頃には、「家庭新聞」などを自分で作って両親に見せたこともあった。

ちゃんと四コマ漫画も入れた本格的な新聞だったんである。

 

教師をしていた関係もあるのだろうか、授業参観にも運動会にも一度も来てくれたことは無かった。

その母に子供が誕生した。私の下の弟がそうである。

彼は両親や親戚の寵愛を一手に引き受け、同時に私と真ん中の弟は、いつしか家庭の蚊帳の外に追いやられていた。

小学3年生の頃だったろうか、幼い弟を連れて家に帰らなかったこともよくあった。

その頃は近所にもあった田んぼの藁こ積みの中で眠ったものである。

 

そんなこんなで社会人になると、儀礼的で表面的なお付き合い程度で、段々と足が遠のいていたのも紛れも無い事実。

そんな不幸な蓄積の中、いつしか私は還暦を迎える歳となり、そして先日、忽然と母の最も愛する一番下の弟が黄泉の国へ旅立ってしまったのである。

認知症で介護ホーム暮らしの母の哀しみが一体どれほどのものか、想像しただけで私は憂鬱になり、、

自分がお腹を痛めて生んだ唯一人の子供が亡くなった事実を母はちゃんと理解できるのだろうかと、心から心配した。

母が実家に帰りつき、変わり果てた我子の姿を見たときに、まず迷惑をかけたであろう周りの人々に対して、涙ながらに感謝の言葉を搾り出すように云った後、彼女は遺体に頬ずりをしてただひたすら泣いたのであった。

そこにはいつも冷静沈着でクールだったかっての母は存在せず、ただ我子の病死を悼む一人の平凡な母親が居た。

その瞬間から私は過去の母の呪縛から解き放たれ、現世の母を唯一の母親として逆認知したのである。

弟の死を受けて、母の現状を踏まえ、頼れる長男として実家を支え母を支えていくという一般的には、至極当たり前のことを当たり前にきちんとやらなければと思った。

それから時間を見つけては、なるべく母が暮らしているホームに面会に出かけることにした。

弟の代わりに私が母のことに関する責任者になったこともあるのだが、そればかりではない自分に気づいたからだ。

前にも訪問はしていたものの、それは儀礼的なものでしか無かったように思える。

弟を亡くして打ちひしがれてはいないか・・・・。

ショックで認知症が酷くはなっていないか・・・・。

そんな気持ちで訪問していると、想いは伝わるもので、元々寡黙だった母が、次から次へと思いもよらない話をしてくるようになった。

人に冷たかった自分を責めていた話、少女時代の話、父の死についての話。

新米教員の時の大野原中学校の話、父と知り合う前の大学時代の初恋の話、etc・・・・

それは私が今まで知らなかった、知ろうとしなかった母の人間らしい側面の垣間見える、まさに新大陸発見だったのである。

ただ、同じ話を何回も何回も聞いて上げないといけない煩わしさはあるのだが、それでも頷きながら相槌を打って付き合うことにしている。

私には二人の母親が居て有難いと思い始めている。

そしてこのことは、私の人生においてコペルニクス的大転換なんである。

 


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2 コメント

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Unknown (タケタク)
2011-10-02 22:04:59
短いような長いような・・そんな人生を通じて少しわかりあえたような気もする・・。その情感に涙す。そしてそれが・・相手が生きている間に・・迎えられれば一番なのかも・・。
あまり簡単には言えないけど・・身近な方を亡くされたことに対し心よりお悔やみ申し上げます。
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ありがとうございます (タケタクさま)
2011-10-03 00:13:13
いつも教えられるためにあるような私の人生です。そして、このところ私小説ブログとなっていますが、まあ自分史のようなものでして、赤裸々にありのままを書いております。
お許し下さいませね。
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