平成7年11月13日九州ひぜん信用金庫山内支店は開店した。
そして、初代の支店長としてこの美しい田舎の町で、
色んなお客様と出会い、
ご縁を深めては、その都度、
金融人という道を、お客様から教えられてきたのである。
まさにオープンの日のこと。
全世帯をくまなく訪問して、
特に店周地区は12回、重点地区は7回、準重点地区は5回、
という徹底したローラー訪問の末に、
ある程度の勝算を胸に秘めて、「その日」を迎えたのであった。
本部や各支店から応援のスタッフがズラリと居並ぶ中、
町長さんらVIP御来賓のテープカットといった、型通りの開店セレモニーが終わり、
記念すべきオープンの玄関のシャッターが開く。
ワッとばかりになだれ込むお客様で、無事に「記念すべき開店の日」は順調な滑り出しを見せたのであった。
すべてが計算どおり、私はひとまず安堵の笑顔で、次長と軽いハイタッチを交わしたんである。
ところが前もって頼んでいた、開店セレモニーのサクラのお客様が 帰ってしまうと、客足はピタリと途絶えてしまい、店内には気まずい空気が漂い始めた。
なにせ本部から理事長を始めとして、匆々たるメンバーが狭い店内に集結しているのだ。
長い沈黙が続いた。空気は既に凍り付いている。
このまま誰も来てくれないのではないか・・・・・。
真っ黒な雲が私の脳裏を包み込んでいく。
思い余って外に出たのだが、通りは誰も歩いていない。
開店までの苦労の日々がやっと報われる筈の、一世一代の晴れ舞台なのに・・・・。
集まってくれている加勢の職員にも申し訳ないし、
これまでの地道な活動が、この町にかけるその想いが伝わっていなかったのか・・・・。
色んなことを考えては肯定と否定とを繰り返した。
この間10分間・・・私には1時間以上に感じられたのであるが。
やがて、近くにお住まいのYさんというおばあちゃんが、杖をつきながら訪れてくれた。
「尾形さん、約束通りに出てきたよ。開店おめでとう。」
私はけして大袈裟ではなく、このおばあちゃんが神様に思えた。
何度も何度も頭を下げているうちに、自然と涙が溢れてきたんである。
「お客様というものはこんなに有難いものなのか・・・・。」
そのことが痛いほど胸に染みた。
その後、まさに、このおばあちゃんは福の神であったことが証明された。
次々とお客様が押し寄せ、開店の二日間で1500人ものお客様にご来店頂いたんである。
私はオープンの日の、この空白の10分間を今でも心の原点に据えている。
もしこの10分間がなかりせば、本当のお客様の有難さが身に沁みこんではいなかったかも知れないのだ。
あれからもう15年の月日が経ってしまった。
今日はその山内支店の「15周年記念ご来店感謝デー」の日
朝から引きもきらぬお客様で店内は活気に包まれた。
忙しく動き回る支店長やスタッフの皆さんを見ていると、
15年前の自分が思いだされて仕方が無かったのだが、勿論、空白の10分間のほろ苦い思い出も、一緒に噛み締めていたのである。
月並みですが・・・・、山内町の皆さん15年間どうも有難うございました。
そして、信用金庫を今後ともどうかよろしくお願い申し上げます。
左端が新任の岩永支店長です。何でもご相談下さい。