風竿の「人生の達人」烈伝

愛すべき友、仕事・趣味の磯釣り・ゴルフ・音楽、少しの読書などにまつわるあくまで「ヒト」に重点をおいたブログです

大阪の夜は甘美でほろ苦かった

2010年09月12日 23時40分55秒 | 風竿日記

第二章 『ビビルおじさん』

 

タクシーの親切そうな運転手さんに案内された大阪は北新地の、某ラウンジからの話なんである。

店内は50人ほども入れるだろうか、割と広いお店で、店内にはバーカウンターに隣接してグランドピアノが置いてあり、とてもいい感じなんである。

店内はほぼ満員の大盛況、4人のおじさんツアーは、案内されるままにとりあえずカウンター席に腰をおろす。

出されたオシボリで顔をふきながら、優雅に「ワインでも飲みたいなぁ・・・。」などと呟きながら、念のために料金システムを聞いたんである。

「2万円からになっております・・・。」

「うーん安いね・・・。」

余裕の表情を浮かべながら4人で顔を見合わせて、内心ホッと胸を撫で下ろす。

「いえいえ、お客様お一人2万円のセット料金になっておりますです。ハイ!」

「×××××××××××××××!」

空気が一瞬にして凍りついた。

一瞬しまった・・・と思いつつ、もう坐ってしまったことだし、オシボリまで使ってしまったし・・・・今更逃げ出すのも格好がつかないではないか・・・・。こんな時、あの太っ腹のボスが一緒だったらなどと頭の中をボスの大きなお腹がよぎるのだが後のまつり。

隣のH常務H常務である。Hな常務ではない)にコソコソと耳打ちした。

「やばい・・・トイレに行くフリして、ズラかろうぜ!」

「4人一緒にトイレには行けませんぜ。それにコンプライアンスもあるし・・・。」

「まだ一滴も呑んどらんけん・・・・。」

などとヒソヒソ話をしていると、バーテンダーさんが「お飲み物は何に致しましょうか?」と尋ねてきた。

「と、と、とりあえず水下さい。酔いが回っていて苦しいので・・・。」

本当は一人2万円と聞いて、とっくに酔いは醒めていたのに・・。

再び飲み物のオーダーを聞いて来た時に、私はおもむろに立ち上がりそのバーテンさんに深々と頭を下げて、

「実は九州の田舎から出てきた安サラリーマンで、ポケットには3千円しか入っとらんのよ・・・。何とかまけて貰えんやろかぁ。」

と臆面も無く懇願したのであった。

「それではハウスボトルを呑んで頂いて、出来るだけ2万円ポッキリに致しますので・・・・。」と笑いながらのご返答。

こうまで云われては拙者とて武士のはしくれ・・・・。

「ウーン」と唸り四人で顔を見合わせてから、腹を決めた。

「よーし呑もう。一人2万円分呑んだらよかたーい・・・。」

「どうしようも無かったら、皿洗いでも何でもやればよかたーい。」

ということで4人のおじさんは、グラスが割れるほどに高らかに

「かんぱーい」の雄叫びを挙げたんである。

二次会までで相当呑んでいた私達は、こうして、ちょっとやけ気味な太っ腹になり、杯を重ねる毎に次第に北新地の常連みたいな顔で、見事にその店の空気に同化したんであった。⇒写真はその常連らしく、妙にどっしりした顔した同僚Sちゃん・・・。

やがて暗闇に目が慣れてくるが如く、あたりを見回すと、ごく普通のサラリーマンのおじさんが普通に呑んでいるではないか。

「大阪のサラリーマンってお金持ちバイね・・・。」とか何とか言いながら、私達は半分ヤケ酒みたいな感じでグイグイと山崎ウイスキーのボトルを飲み干したんである。

傍についたお姉ちゃんもガバガバ呑みだしたが、「もうどうとでもなれい!」という開き直りモードで、「どうぞどうぞ、あんたぎょーさん呑みなはれ・・・・。」と景気をあげる。

そのうち常連のお客さんが、ピアノの伴奏でスタンダード・ジャズ・ナンバーを唄いだした。酔いが回っていた私のトロンとした目がピカリと光る。

そう、どーしようもない音楽大好き人間の私なのだ。しかも酔っているから今夜はブレーキをホテルの部屋に忘れてきている。

よーしそれなら拙者とて武士のはしくれ、歌の一曲なりと披露せねばなるまい。

フラフラと立ち上がり、プラターズの「Smoke get's in your eyes」を軽くぶつけてやったら、店中から割れんばかりの大拍手の嵐となった。

これで調子付いた私は勧められるままに、ピアノを弾いて3曲ほども唄いだしたんである。

すると今度はちょっとイキなお姉さまが、私が歌うからピアノ弾いてよということになり、2曲おつきあい。

    

この店のママさんからは最上級の賛辞を受けたので、内股で「お勘定安くしてねぇ・・・」と両手を摺り合わせてお願いする私。

結局そんな懇願が効いたのか、良心的だったのだろう。女の子の呑み代は取られずに、セット料金2万円×4人分だけで事なきを得たんである。

何せ田舎でサラリーマン暮らしを長くやっていると、ゴージャスで甘美な世界などとは程遠く、月のうちの相当をノミュ二ケーションに費やしているとはいうものの、殆どが居酒屋さんかスナックであり、予算も一人5千円もあれば、充分の世界で暮らしてきた。

そんな私たちに、今回の北新地はとてもいい、社会のお勉強になりました。

お店を出るときに「また来て下さいねーっ」とお見送りの声が背中から襲ってきたんであるが・・・・、

「退職金貰ったら来るねぇ」と云って逃げるようにその店を立ち去ったんである。

帰りに博多ラーメンの店に立ち寄ったのだが、まさかと思いつつもオーダーする前に値段を確かめたのは言うまでも無い。

本当に男ってバカですよねぇ・・・。ああーぁ。               「おしまい」