三夜連続のNHK特集、立花隆氏の番組を拝見しました。
BS1でのものでしたので、見なかったお方も居られたかとは思いますが、今日は私の予想を超えた展開でした。
何と昨日私がご紹介した野の花診療所の徳永進先生がご出演されていたんである。昨日のNHKに対する暴言は取り消し。
医は仁術を地でいく町医者先生なのだが、やっておられることは半端ではない。
武雄で言えば「かいぼー先生」のようなご風貌、とても素敵なドクターなのだ。
ここで、先生の素晴らしいエッセイを無断で転用、怒られたら鳥取まで謝りにいかねばならない・・・・。
最後のコーヒー 徳永進
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木曜日の午後は往診に行く。川口ナースと行った。あちこち回って五軒目が小学校の校庭の裏で二人暮らしの九十三歳の岸田宙さん。よく心不全を起こして入退院を繰り返し、スタッフとは顔なじみだ。 | |
往診の時は、いつも奥さんがコーヒーを出してくださる。「急いでますので」とか「前立腺肥大なので」とか言って断ろうとすると、「うそ、うそ。疲れ直しに一杯」とか言われ、ついついよばれることになる。時にはケーキ、和菓子、メロンやポテトサラダが出ることもある。おいしい。宙さんはその光景を静かにベッドで見守っている。 | |
ピンポーンと押して、そのままベッドに向かっていった。「あっ先生」と台所でテレビを見ていた奥さんのいつもの明るい声。ガスこんろの点火音がする。テレビが消される。「かゆみと大声、どうですか?」と聞く。「軟こうが効いて、夕べはよく眠りました。お昼は少し食べて、先ほどから寝だしました」「よかったですね」と言って、ぼくはベッドの端に腰を掛けた。 | |
岸田さんの耳の色、おかしい。肩も胸も動かない。呼吸、止まっている。角膜反射も消失。川口ナースも手を取り、うなずく。「奥さん、ご主人の息、」「はい、何ですか?」「息が止まってるようです」。川口ナース、奥さんの肩を抱き、「おなかはあったかいですよ」と奥さんの手を宙さんのおなかに乗せた。「温かい。ほんとに」「今だと思います。ついさっき。午後三時、です」 | |
沸騰音がして、奥さんがガスこんろの火を消し、戻って、宙さんのおなかに顔をうずめ、急におえつされた。 | |
昼間は枕元にいつも流れていたミサ曲が、まるでこの瞬間のためにあったかのように、二人を包み込んだ。黙とうして辞そうとすると、「コーヒーを」と奥さん。「いえ」と答え、そうだ、お別れは宙さんも好きだったコーヒーがふさわしいか、と思いついた。「でしたら今日買ったメロンとイチゴも」と奥さん。川口ナースがガーゼでメロンを搾り、枕元に三品が並んだ。「ごくろうさま」と奥さんが宙さんの口をぬらした。失礼しようとすると、「コーヒーを一杯。いつも通りが、動転した私の気が落ち着きそうで」、と涙声。宙さんが見つめる中、最後のコーヒーをいただいた。 | |
「すぐに死後のケアの用意して戻ってきますから」と川口ナース。岸田宅の玄関で一礼すると、校庭を走る小学生たちの声が五月の空に響いてきた。
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こんな素敵な先生なのです。この先生こそ「クオリティ・オブ・ライフ」を心底理解された素晴らしい医療を貫いておられます。
ドキュメンタリーの中で最後の時を迎えたガン患者さんが気にしておられた田んぼの稲の写真を撮りに走る先生の優しさ・・・・。
「がん哲学」という捉え方。今夜は感動ものでした。
先生には是非、一度武雄でご講演を賜りたいものであります。
私が先生を知るきっかけとなった本をご紹介させて頂きます。
詩人の谷川俊太郎さんとの共著です。とても素晴らしいご本ですので、強くお勧め致します。
朝日新聞社 定価760円 佳書中の佳書であります。