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メトの「連隊の娘」

2017-08-18 16:16:50 | オペラ
ドニゼッティの「連隊の娘」を2008年4月に録画されたメトロポリタン歌劇場版で観る。ドニゼッティはイタリア歌劇の作曲家だが、この「連隊の娘」はパリのオペラ・コミーク座で初演されたので、初演はフランス語で、レチタティーヴォは使わずに地の台詞で語られるという、珍しい作品。その後イタリア語版も作られたので、イタリア語でも上演もあるらしい。

メトでの上演は、主役にフランス出身のナタリー・デセイを配したので、もちろんフランス語版だ。相手役にはファン・ディエゴ・フローレスで、近年まれにみる高音の美しいテノール。この二人が何といっても素晴らしい名唱を聞かせる。

もともとは18世紀末か19世紀初頭のチロル地方で駐在するフランス軍の連隊の話だが、メト版では20世紀のような感じに時代が置き換えられている。セットも地図を山のように見立てたものであり、ちょっと抽象的な感じもあるが、芝居を邪魔するほどの違和感はない。

ナタリー・デセイはちょっとおきゃんな感じの娘役を快活に演じているが、その恋人役のフローレスが驚異的な歌声を聞かせる。一昔前のパヴァロッティに勝るとも劣らない歌声だ。おまけにすらりとした体形でルックスも良い。そのフローレスがハイCといわれるテナーの最高音が9回も出てくるアリアを見事に歌い切ったので、メト全体が割れんばかりの大喝采で、ビデオで観ていても2分ぐらいは拍手が続いた。幕間のインタビューの話では、初日にはやはり大喝采だったので、アンコールに応えてもう一度このアリアを歌ったので、合計18回もハイCを出したことになる。劇中でアンコールに応えるのはメトでも珍しいことだ。おまけに、2幕最後のアリアでは、楽譜にないハイDフラットの高音で締めくくった。

これだけの高音の美声を聞かされると、歌詞も何もかも忘れて、その美声だけに聞き惚れてしまう。あまりにすごいので、フローレスのことばかりに気が行ったが、ナタリー・デセイもそれに負けないだけの歌声を聴かせた。まさに、歴史に残る名舞台といった印象。演出はフランスのロラン・ペリーで、オペレッタなどを得意とする演出家なので、軽妙でテンポの良い演出。指揮はマルコ・アルミリアート。

調べてみると、フローレスは今年のザルツブルグ音楽祭に出ているようなので、ちょっと見に行きたくなった。

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