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二期会のオペラ「午後の曳航」

2023-11-25 10:44:17 | オペラ
11月24日(金)の昼に日生劇場で二期会のオペラ「午後の曳航」を見る。平日の午後だったこともあり、高校生の団体が入っており、1階席は埋まっていたが、2階席はかなりの空きが目立った。三島由紀夫の中編小説のオペラ化で、ドイツ語版。ドイツのハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲。日本での本格的な上演は初めて。現代オペラなので、やはり人気がないかも知れない。アメリカのメトロポリタンも、現代作品は人気がなく19世紀の人気作ばかり上演していたら、古典的作品に観客が入らなくなり、今は現代作品を多く上演するようになっているが、19世紀のオペラは厳選された作品が残っているのに対して、現代作品は玉石混交で、当たり外れが大きい。9割以上は外れだと感じる。今回の公演は午後2時開演で、25分間の休憩を入れて、午後4時15分に終わったので、上演時間としては丁度よかった。

宮本亞門の演出は凝ったもので、視覚的に面白く頑張った印象。最初は主人公となる13歳の登少年が学生帽の姿でクローズアップされる映像が映り、幕が開くと登少年が一人立っているのだが、これがどう見ても30代の中年男性の姿で、この時点でこの作品は失敗したように思えた。

13歳の少年は8歳で父を亡くし、今はブティックを経営する母との二人暮らし。港町で育った純真な少年は海に憧れ、母親と一緒に船の見学へ行く。そこで案内してくれた航海士の竜二は逞しい海の男で、少年はその凛々しい制服姿に憧れる。やがて、船乗りは少年の母房子と懇意となり、愛し合うようになるが、少年は母親の寝室を覗き穴から二人が求め合う姿を見て、船乗りの立派な肉体に惚れこんだ。ところが、船乗りと母が結婚して、憧れの海の男は陸に上がって母の経営するブティックを手伝うようになる。陸に上がった船乗りの姿に、少年の純粋な夢は打ち砕かれ、少年の夢を奪い取った男を許せなくなり、仲間たちと一緒に制裁を与えることにする。というのが物語のアウトラインだ。

日本では映画化できず、米国で映画版が作られて結構高く評価もされたが、英語版の原題は「海の美しさ(恩寵)を失った男」といった感じだった。映画では実年齢に近い少年が演じて、逞しい男性が海の男になればよいのだが、オペラ版ではそうした配役は望めないので、もう少し工夫する必要があるだろう。少年役はこうした場合、メゾ・ソプラノの女性がズボン役で演じるのが定番だが、大人のテノールを使ったため、何となく中年男が母親の寝室を覗いているようないやらしい物語に見えてしまった。海の男も、映画のようなわけにはいかないので、普通のバリトンが演じるのだが、少年が憧れて、それが裏切られる心理的な変化が舞台上では描けていない。

オペラでは台詞劇とは異なり、会話で表現すると長くなりすぎるので、各役の人物が心情吐露のアリアを歌い、その気持ちの変化を観客に伝える必要がある。このオペラでは会話主体の歌にしてしまったので、失敗している。海の男が長い航海に出る時に「退屈な航海」と心情を歌うが、それと同じように、少年や母親が心情吐露して、憧れたり、失望したり、愛したりということを描く必要がある。そうした点で、オペラは台本が重要だ。台詞劇をオペラにする場合には、台本を徹底的に見直す必要があるが、オペラに無理解な作者もいるので、「夕鶴」のように台詞劇をそのままオペラ台本とするような作品も多いのは困ったことだ。

宮本の演出は台本の不備を補うために、視覚的な表現を多用して観客が飽きないように工夫しており、それは一面成功している。母と海の男の情事を覗く場面や、各幕の終わりはスペクタクルに演出されている。各幕の終わりは静止して活人画のようにポーズをとって終わるが、こうした演出は、19世紀のフランスのグラントペラやメロドラマを連想させる。2幕終わりの母親のポーズは、何となく、アンドリュー・ワイエスの描いた「クリスティーナの世界」を思い起こさせた。しかし、こうした演出の行きつく先は、巨象を一瞬で空中に消し去るようなイリュージョンを見せるラスベガスのショーだろう。ブロードウェイでは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のミュージカル版が始まり、デロリアン号が一瞬で登場したりするのが評判になっている。

音楽はいかにも現代音楽で、難しい曲だがアレホ・ペレス指揮の新日本フィルはよく演奏し、覚えにくい曲を歌手陣もよく歌っていた。しかし、また聴きたいとは思わない。

集団鑑賞に来ていた高校生は、9割が女子高生だったが、こんなオペラを見せられたら、オペラ嫌いになるのではないかと思った。原作を知らないと単なる異常者の物語のようにも思える舞台なので、学校で感想文を書けと言われたら当惑するだろう。

帰りにスーパーで食材を買って、家で食事。牡蠣のアヒージョと海鮮パエージャを作る。飲み物はカヴァ。気を取り直すために、最初の一杯目にクアントローを入れた。






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