先日、町田市国際版画美術館に行ってきました。今まで全くノーマークだったのですが、ここ国際版画美術館は世界でも数少ない版画を中心とする美術館で、(バブル経済が始まる直前の)1987年に開館しています。奈良時代から現代まで古今東西にわたる所蔵作品は、現在2万点を超えているそうで、これには驚きました。
美術館は駅から徒歩15分の閑静な芹ヶ谷公園の一角にあり、鑑賞後は公園内の緑とせせらぎに置かれている彫刻を鑑賞しながら散歩するのも楽しく、大変気に入ってしまいました。批判の矢面に立たされている「箱モノ」だけれど、こうした「箱モノ」なら大歓迎ですね。企画展示展&常設展示展は頻繁に様変わりするそうなので(何しろ2万点もあるのだから・・・)、これからしょっちゅう通うことになるかも?(アオガエル君で行けば、1時間かからずに着ける)
ひと口に「版画」といっても、版の素材と技法によって多種に分類されますが、大まかにいうと、凸版(木版画など)、凹版(エングレーヴィングやエッチング等による銅版画など)、平版(リトグラフ=石版画)、孔版(ステンシル、スクリーンプリントなど)の四つに大別されます。左の版画は、版画で刷られた植物図鑑の最高傑作とも言われている『フローラの神殿』(1800年頃)に収められている「夜の女王」の図で、微妙なグラーデーションが作り出せるメゾチント(凹版直刻法の一つ)という技法で版が作られ、非常に手のかかる多色刷(一部手彩色)で印刷されています。右の版画は、1493年!に刊行された『年代記』より「死者の踊り」という図絵で、木版で彫られています。
18世紀には多くの解剖図鑑が刊行されましたが、こちらの奇妙な図絵は、オランダの解剖学者フレデリック・ルイシュの著作集に収められた銅版画です(エッチング&グレーヴィング)。生物の臓器や組織がオブジェのように飾られています。ハンカチを眼窩にあてて泣いている骸骨は何を意味しているのでしょう?
この図に限らず、この時代の解剖図鑑では、内部組織や筋肉がむき出しになった人物や骨格標本が、モデルのようにポーズを取っています。どうして?
今回、18世紀の解剖図鑑の第一人者であるゴーティエ=ダコティの図絵が8点展示されていました。残念ながら、「解剖学の天使」と呼ばれている有名な図絵は見られなかったけれど・・・。
町田市国際版画博物館のエントランスです。なかなかいいですね~♪
9月23日まで開催されている今回の企画展は、版画の世界の奥深さを知ってもらうために、解剖図、動物図鑑(一角獣やドラゴンまで)、植物図鑑、怪異な空想絵図、ダンテ『神曲』の挿絵本、だまし絵、ナポレオンが作らせた『エジプト誌』などを、15~18世紀のヨーロッパで流行した「驚異の部屋」にならって展示させたとのことで、現代のオフセット印刷では絶対再現できない多色刷銅版画の精微な美しさにも、驚異の目をむけることになるでしょう。圧巻は、『エジプト誌』の挿絵になる「フィラエ島の神殿内部」と「テーベのメムノニウム神殿」。版画にこめられた情報量の多さにびっくり! ここまで描かれたら、もう笑うしかない?
多色刷木版画&銅版画の魅力を教えてくれたのは、澁澤龍彦、荒俣宏、鹿島茂の三氏でした。今回展示されているソーントン編『フローラの神殿』も、ナポレオンの『エジプト誌』(全26巻。19年かけて刊行)も、『人体構造の解剖陳列』も、ヨンストン『動物図鑑』も、ショイヒツアー『神聖自然学』も、ミルトン『失楽園』やダンテ『神曲』地獄篇の挿絵本などは書物なので、古書店やオークションなどで手に入れることが可能です(荒俣さんは全部持っておられますね・・・)。もしも宝くじが当たったら(買っていないので、当たるわけないけど)、メーリアン女史の『スリナム産昆虫の変態』と、ル・ドゥーテの『薔薇図譜』を手に入れたいな~♪
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