なんだ、この輪っかは?
湯島天神の茅の輪よ。
茅の輪?
茅草で作られた大きな輪をくぐると罪が祓われるらしいわよ。毎年6月に行われる行事なんだって。
湯島天神て、学問の神様かと思っていたけど、こういうこともやっていたのか。
連合赤軍の学生たちの中にも、学問が成就しますようにって、湯島天神に祈った人もいたかもしれないのに、この茅の輪はくぐらなかったのかしら。
もっと罪は深いってことだろう。
でも、最初の動機はきっと、世の中をよくしたいっていう、学生らしい純粋な動機だったのよね。なのに、あんな陰惨な事件に発展してしまって、不幸としか言いようがないわ。
1972年のできごとだから、36年前かあ。映画は、事件に至る経緯を安保闘争から始めて淡々と描いているんだけど、3時間10分という長尺にもかかわらず一時も目が離せない。
監督の若松孝二は、実際、連合赤軍とも関わりがあったらしいけど、自分の思いを伝えるというよりも映画のプロとしてきちんと事実を伝えようとするスタンスが見えていた。
当時観ていたら、一部の過激な学生たちが起こした特異な事件だと思っただろうけど、いま観てみると、いつの時代でも起こり得る、もっと普遍的なできごとだったって気がしてくる。
どういう意味?
思想や信条がどうかっていう以前に、世界から孤立した集団には独裁者が現れ、不条理な論理にとらわれたヒステリックな組織になっていかざるを得ないってことだ。
ヒットラー、スターリンから、チャウセスク、オウム、北朝鮮までを思い出させるもんね。
ああ、集団の大きさに関係なく、煮詰まった人間たちが集まると必然的にああ言う力学が働いていくんじゃないかって恐ろしくなった。
共産主義にかぶれたっていうより、世界から孤立していたってことが大きな問題だったのね。
その自覚が、集団の内部にいるとできなくなる。
そういう意味で、すでにあの連合赤軍はミニ共産国家になっていた。
「自己を共産主義化するために総括する」なんて言いながら、意味のない内部虐殺を繰り返すんだけど、その行為自体が、じゅうぶん共産主義化されているっていう、滑稽な構図が見えてくる。
「総括」なんて、じつにあいまいなことばを使って、客観的に見ると冗談にしか思えないんだけど、それを指摘できる空気がない。
学校のいじめと同じ構図だよな。自分たちだけで集団をつくって外界との接触がないから、何が正しくて何が間違っているのか判断できなくなってしまう。
高校生で連合赤軍に参加した少年が最後にひとこと叫ぶんだけど、あのひとことにすべてが集約されるわよね。
ああ、映画の主張らしきものが見えたのはあそこだけなんだけど、それだけに胸にジンと響く。
実際にああいうことを言ったのかしらね。
うん、いいセリフではあるんだけど、あまりに決まりすぎて、ほんとはあんなことは言ってないんじゃないかっていう疑問がふと頭の隅に浮かんでしまうのも事実だ。
あんな残虐な事件を起こしたのに、みんなひきしまったいい顔をしているっていうのも何か不思議よね。
俳優たちが本気で取り組んだってことだろうけど、きりっとした表情はシャキッとしない今の若者たちに見せてやりたくなる。
やったことは間違いだけど、世の中を変えようというエネルギーは否定されるものではないってことかしら。
いまの若者にああいう形で社会に対峙しろとは言わないけど、せめて年金問題くらい声を大にして怒ってもいいんじないのか。
あ、さすがは年金世代らしい発言。
おいおい、待てよ。俺はまだまだ年金世代には遠いぞ。昔の若者みたいに、自分のことより国家のことを心配しているんだ。
そんなこと言ってもだめよ。目じりのしわは、隠せないんだから。
それは、自分のことだろう。
それにしても、連合赤軍の映画といえば、「突入せよ!あさま山荘事件」があったけど、あれとははるかに違う映画よね。
あの映画は明らかにエンターテインメントをめざしていたからな。でも、あれは警察側から描いた事件、これは連合赤軍側から描いた事件と考えると、二本で全貌がわかるという言い方もできる。
どっちも実にくだらいことで内部論争をしていたりする。「実録・連合赤軍」でいうと、銃撃戦の最中にクッキーを食べた、食べないでもめたりして。
そういうのも含め、リアルな空気感が伝わってきて、胸が締めつけられる。
回想形式でないだけ、いっそう臨場感が増すわね。
なんといっても、悪しき戦争映画のように、現在年寄りになった人間が昔を回顧するっていうつくりにしなかったのが正解だった。
「男たちの大和」みたいに?
そう、そう。あさま山荘跡にたたずんであの頃を懐かしむ仲代達矢が出てきたりしたらどうしようと思ったけど、さすがそんな愚かなことはなかった。
これから湯島天神にお参りに来るような若者たちにこそ観てほしい映画よね。
二度と同じ過ちを繰り返さず、俺たちの老後を支えてもらうためにもな。
って、あなたの頭、やっぱり年金世代になってる。
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