Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

リゴレット

2013年10月17日 | 音楽
 新国立劇場の「リゴレット」。10月3日のプレミエ以来5回目の公演なので、ほぼその完成型を観ることができたのではないかと思う。

 「リゴレット」は本年7月にチューリヒでも観ることができた。舞台にあるのは会議室用の机と椅子だけ。衣裳もスーツまたは普段着。究極の低予算だった。低予算だったけれども、頭を使っていて、面白く観ることができた。会議室で演じられるかのようなこの公演が、十分に「リゴレット」になっていた。

 それにくらべると、新国立劇場の「リゴレット」のなんと贅沢なことか。衣裳と装置にたっぷりお金をかけ、また歌手にもお金をかけていた。美しい舞台と壮麗な音。お金をかけただけのことはあると思った。

 リゴレットを歌ったマルコ・ヴラトーニの存在感がすごい。ほぼ出ずっぱりなのではないか――必ずしもそうではないのに――と思うほどの存在感だ。やや暗めの声質なので、イタリアオペラ的ではないが、リゴレットとしての説得力は並外れている。

 ジルダのエレナ・ゴルシュノヴァは細めの、クールな声質の持ち主で、旋律線がきれいに出る。そのくっきりした旋律線が、リゴレットの暗く、太めの声質と絡み合うとき、ヴェルディがこのオペラで目指したであろう光と影の絡み合いが実現したと感じられた。

 マントヴァ公爵のウーキュン・キムは「椿姫」以来だが、今回のほうがその実力がわかった。たんに甘い声だけではなく、ドラマティックな力強さを持ち合わせている人だ。

 指揮はピエトロ・リッツォ。イタリアオペラ的な解放感よりも、ドラマを掘り下げ、引き締め、メリハリを付けるタイプだ。暗くこもった音から薄い透明な音まで、多彩なパレットをもっている。この公演を成功に導いた立役者の一人だ。

 演出はアンドレアス・クリーゲンブルク。前回の「ヴォツェック」はこの劇場のオープン以来、トップクラスの公演だったと思うが、今回の「リゴレット」も真摯にドラマを追求した公演だ。ディテールは省略するが、そのコンセプトも個々の場面の作り方も、なるほどと納得する点が多かった。

 余談になるが、この日は早朝、台風26号が接近し、風雨が強まった。交通機関の乱れが予想されたので、5時に家を出て職場に向かった。なので、寝不足気味だったが、オペラのあいだは眠らずに済んだ。それだけ優れた公演だったと満足して帰宅した。
(2013.10.16.新国立劇場)

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 権代敦彦のオペラ | トップ | ラザレフ/日本フィル »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (猫またぎなリスナー)
2013-10-17 21:33:51
お久しぶりです。私は初日を聴きましたが、ヴラトーニャはパワー全開とはいかなかった模様です。回を重ねるごとに良くなる歌手、お疲れになってしまう歌手、いろいろいらっしゃるので難しいですが初日というのはやっぱり賭けというか、リスクがあるようです。大好きな四重唱でジルダ・マントヴァ公・マッダレーナ、いずれも絶好調なのにリゴレットがちょっと及ばずだったので、貴兄のブログを拝見して、今回はちょっとしくじったかなと思いました。
返信する
猫またぎなリスナー様 (Eno)
2013-10-18 12:26:41
関西生活、まだ不慣れなことが多いと思いますが、いかがですか。関西にも面白そうな演奏会が沢山ありますので、貴兄のレポートを読ませていただくのを秘かに期待しております。仕事が軌道に乗ったら、ブログのほうもよろしくお願いします(笑い)。
返信する
Unknown (猫またぎなリスナー)
2013-10-19 00:28:20
もともと関西からの単身赴任でしたので久しぶりに元の生活に戻ったというのが真相です。そうですね、関西は確かにオペラこそ少ないですが、コンサートやリサイタルはけっこう個性的なものがあります。ぼちぼちとやっていきますのでよろしくお願いします。
返信する
Unknown (charis)
2013-10-19 06:22:33
こんにちは。私は6日でしたが、今回の≪リゴレット≫、とても良かったと思います。現代に場面を移す演出も成功している。なるほど、リゴレットとジルダの声の「光と影の絡み合い」というのは、その通りですね。貴兄のご指摘によって、理解が深まりました。
返信する
猫またぎなリスナー様 (Eno)
2013-10-19 13:13:55
関西ご出身だったんですか。地元に戻られたのですね。ますます今後のレポートが楽しみです。
返信する
charis様 (Eno)
2013-10-19 13:21:32
コメントをいただいて恐縮です。いつも勉強させていただいています。今回のリゴレットも、ちゃんとユゴーの原作を読まないといけないなと反省させられました。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事