Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マヌリ:室内楽ポートレート

2024年08月28日 | 音楽
 サントリーホールサマーフェスティバル2024のテーマ作曲家フィリップ・マヌリ(1952‐)の室内楽ポートレート。1曲目は弦楽四重奏曲第4番「フラグメンティ」。全11楽章の各々短い音楽からなる曲だ。演奏はタレイア・クァルテット。若い女性たちの弦楽四重奏団だ。第1楽章の激しい出だしから気合が入っていた。

 藤田茂氏のプログラム・ノートによると、この曲は2016年にアルディッティ弦楽四重奏団によって初演された。そのアルディッティ弦楽四重奏団が来日している。演奏会にはメンバーの何人かが聴きに来ていた。もちろんマヌリ自身も聴いている。そんな中での演奏は緊張しただろう。タレイア・クァルテットには良い経験になったのではないか。

 2曲目は「六重奏の仮説」。以下に述べる6人の奏者の目の覚めるような演奏だ。こんなに難しい曲を指揮者なしでよく演奏できるものだと感嘆する。演奏者を列記すると、フルート:今井貴子、クラリネット:田中香織、ヴァイオリン:松岡麻衣子、チェロ:山澤慧、マリンバ&クロタル:西久保友広、ピアノ:永野英樹。ベテランの永野英樹が入ったことが大きいかもしれない。

 3曲目は「イッルド・エティエム」。ソプラノ独唱とリアルタイム・エレクトロニクスのための曲だ。ソプラノ独唱は溝渕加奈枝。中世の異端審問官と魔女(とされる女)の二役を歌う。異端審問官の威圧的な歌唱パートが恐ろしい。溝渕加奈枝の渾身の歌唱だ。リアルタイム・エレクトロニクスは今井慎太郎。そこにサウンド・ミキシングでマヌリ自身が加わる豪華版だ。エレクトロニクスは教会の鐘の音になったり、女声合唱になったり、ソプラノ独唱の声を増幅したりする。それらのサウンドが聴衆を取り巻く。

 余談だが、中世の魔女とは、男たちの女性にたいする怖れと、それが故の女性への抑圧衝動が生み出したものではないかと想像した。新国立劇場が2012年に上演したアーサー・ミラーの演劇「るつぼ」にも魔女騒動が出てくる。魔女は20世紀のアメリカの一部でも信じられていた。「イッルド・エティエム」は昔の話ではない。

 3曲目の後に休憩が入った。休憩中はずっとエレクトロニクスの教会の鐘の音が鳴っていた。その音が高まると、照明が落ち、ステージに永野英樹が登場して、4曲目の「ウェルプリペアド・ピアノ(第3ソナタ…)」が始まった。永野英樹のピアノ、今井慎太郎のエレクトロニクス、マヌリのサウンド・ミキシングによる演奏だ。エレクトロニクスは教会の鐘の音になったり、リズム楽器になったり、またピアノの音を変形し、さらには装飾を加えたりする。ピアノとエレクトロニクスの対等なデュオのようだ。この曲は2021年にバレンボイムがベルリンで初演した。
(2024.8.27.サントリーホール小ホール)
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