Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴォルフガング・リームの逝去

2024年08月02日 | 音楽
 ドイツの作曲家のヴォルフガング・リーム(1952‐2024)が7月27日に亡くなった。昨年はフィンランドの作曲家のカイヤ・サーリアホ(1952‐2023)が亡くなった。わたしと同世代の作曲家が一人また一人と亡くなる。

 リームの名前は「新ロマン主義」という言葉とともに、素人の音楽好きにすぎないわたしにも比較的早い時期から(1970年代だったと思う)伝わった。だが、就職したばかりで仕事に追われていたわたしは、リームの音楽を探して聴く余裕がなかった。

 初めてリームの音楽に向き合ったのは、2003年10月の読響の定期演奏会でゲルト・アルブレヒト(当時の常任指揮者)が「大河交響曲に向かってⅢ」を演奏したときだ。ダイナミックな音のうねりに目をみはった。上掲のCD(↑)は別の指揮者とオーケストラの演奏だが、それを聴くと、アルブレヒトと読響の演奏を思い出す。

 そのころからリームの音楽を聴く機会が増えた。そして決定的な経験になったのは、2015年のザルツブルク音楽祭で「メキシコの征服」を観たことだ。スペインによるメキシコ征服を扱った音楽劇だ。台本は断片的かつ抽象的な言葉が並ぶだけ。それをどう舞台化するかは演出家に委ねられる。

 ザルツブルク音楽祭では、ペーター・コンヴィチュニーが演出を担当した。瀟洒な家にメキシコのアステカ王朝のモンテスマ(リームの音楽では女声が当てられる)が住む。そこにスペインの征服者のコルテスが現れる。親しく語らう二人。だがコルテスがモンテスマの体を求めると、いさかいが起きる。あっという間に激しい戦いになる。その戦いは会場のフェルゼン・ライトシューレの大空間いっぱいに飛び交うコンピュータ・ゲームの映像で表現される。モンテスマの家は無残に破壊される。指揮はインゴ・メッツマッハー。巨大な音響を見事にコントロールした演奏だった。

 「メキシコの征服」が驚くほどおもしろかったので、「ハムレット・マシーン」も観てみたくなった。その機会はすぐに訪れた。2016年1月にチューリヒ歌劇場で上演予定があったので、それを観に行った。「ハムレット・マシーン」はハイナー・ミュラーの戯曲だ。日本語訳が出ているので、事前に読んだ。断片的で錯乱した言葉が並ぶ。それをどのように上演するかは演出家に委ねられる。チューリヒ歌劇場ではセバスティアン・バウムガルテンの演出だった。詳細は省くが、ファシズムに抵抗するハイナー・ミュラーが敗北する‥という演出だった。指揮はガブリエル・フュルツ。引き締まった演奏だった。

 チューリヒ歌劇場にはリームが来ていた。大男だ。元気そうだった。カーテンコールではステージに上がり、出演者に盛んに拍手を送っていた。
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