Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 中恵菜 ヴィオラ・リサイタル

2023年11月08日 | 音楽
 東京オペラシティのB→Cシリーズに、新日本フィルの首席ヴィオラ奏者で室内楽活動も活発な中恵菜(なか・めぐな)が登場した。

 1曲目はバッハの無伴奏チェロ組曲第3番のヴィオラでの演奏。一音一音をしっかり鳴らす演奏だ。原曲がチェロ用の曲だからそのような鳴らし方になったのかと、プログラム後半のヴィオラのオリジナル曲の演奏を聴きながら考えた。

 2曲目はブリテンの無伴奏チェロ組曲第3番のヴィオラでの演奏。バッハとブリテンの違いだろうか、元来はチェロ用の曲だということをあまり意識せずに聴いた。それはともかく、この曲の多様式ともいえる構成は圧倒的だ。バッハ風の音楽の出現もさることながら、パッサカリアの深さと(ブリテンのパッサカリアはどの曲も特別だ)、それに続く3つのロシア民謡の出現の意外さ。

 プログラム後半は現代曲が4曲。まず細川俊夫の「哀歌――東日本大震災の犠牲者に捧げる」。細川俊夫には珍しいくらい鋭角的な音型が多用される。作曲時期が2011年なので、東日本大震災の衝撃が反映されているのだろう。いま聴くと直接的すぎるような気がしないでもないが、それは時が経過したからだろう。東日本大震災の記録として特殊な位置を占める曲だ。

 次はペンデレツキの「カデンツァ」。1984年の作品。東川愛氏のプログラムノーツによると、ペンデレツキが1983年に書いたヴィオラ協奏曲をもとにした曲で、その縮小版のようなものらしい。細川俊夫の「哀歌」が我を失ったような動揺を感じさせるのと対照的に、安定した書法が印象的だ。演奏も手の内に入っていた。

 次はガース・ノックス(1953‐)という作曲家の「フーガ・リブレ」。未知の作曲家の未知の曲だ。ガース・ノックスはアイルランド生まれ。アンサンブル・アンテルコンタンポランやアルディッティ弦楽四重奏団のヴィオラ奏者を務めた人らしい。「フーガ・リブレ」はヴィオラの多彩な音色を駆使する曲だ。とくにハーモニクスの多用が印象的だ。ペンデレツキのような濃さよりも、風通しの良さが感じられるのは、世代の差か。演奏も目覚ましく、わたしには当夜の白眉だった。

 最後に野平一郎の「トランスフォルマシオンⅢ」。バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番のフーガの断片が浮き沈みする曲だ。小休止(?)の後に出てくる唄が魅力的だ。演奏も水際立っていた。アンコールにバッハの無伴奏チェロ組曲第1番からプレリュードが演奏された。ヴィオラだからか、冒頭の音型が蝶のように軽やかだった。
(2023.11.7.東京オペラシティ・小ホール)

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