男女機会均等法などによる一定の制約はあるが使用者の「採用の自由」が原則<うちの社長と血液型が相性が悪い/B型は協調性なしなど>
ひと頃、血液型占いがはやり、いまでは落ち着いてはいるようだが、いまでも時々話題にはのぼっている。そのはなやかなりし頃、あの会社は血液型で社員の採用を決定するというような話があった。血液型うらないによれば、それぞれの血液型には性格上特徴がある(とされている)ので、それぞれの血液型を取り混ぜて採用を試みることになれば、不公平感はないのだが、社長と相性が悪いのでAB型は採用しないということになれば、AB型の人にとって、それは不公平ではないかということになる。そもそも何が不公平かということになれば、後に述べるように、そんな科学的に不確かなもので判断されるということになれば、たまらないということであろう。血液型占いを信じる人にとっては、それはそれで人間関係が悪くなるという点で信頼関係に立つ日本企業にとっては重要なポイントになるということだろう。(しかもせいぜい十数分の面接では血液型で判断の方がよっぽどいいということになる。)
法上はどうなるのか。まず、企業は、職業選択の自由(憲法22条)や財産権に対する不可侵(憲法29条)に支えられて経済活動そのものは自由であり、そこで、いかなる者を採用するかも自由であるという「採用の自由」が大原則である。
原則として、どのような者をどのような条件で雇うかは、企業が自由に決定できるのであるが(選択の自由)、今ではそれぞれの法律で一定の制約があるのも事実である。性別を理由とした募集・採用差別を禁止した男女雇用機会均等法、労働者の募集・採用について、原則として年齢にかかわらず均等な機会を与えなければならないとした雇用対策法や障害を理由とした募集・採用を禁止した障害者雇用促進法、労働組合から脱退することを雇用条件としてはならないとした労働組合法(*注1)があるので、これらの法に違反しないようにしなければならない。このように、憲法に保障された使用者の「採用の自由」が原則的にはあるのだが、その一方でそれぞれの個別の法律により、社会的要請からこのように、一定の制約が課されているところである。
これ以外の理由による採用、例えば、この血液型や、家族構成、容姿など、法律上明文で強行的に禁止されてはない理由による採用については、適法なのだろうか。
今までの議論を最初から整理すると、原則として、使用者の「採用の自由」が一番に来るところであるが、ただ個別の法律により明確な項目の差別はダメとされているところである。それ以外の項目による採用、ここでは「血液型による採用」については、使用者の「採用の自由」に対して労働者の「人格権」(憲法13条、「国民は、個人として尊重される。」)が対比されるが、その憲法上の人格権や公序良俗違反等(*注2)の観点から問題にならない限り、無効や法違反とはいえないと思われる。人格権・公序良俗違反等の観点から問題ならない限りはという点であるが、今だ裁判になった例は聞いておらず、後に述べるように、思想信条の問題でさえ最高裁で採用時点ではこの事由で採用を決めても法違反ではないとの判断が出てる現状では、人格権・公序良俗の観点から問題があるとの結論は困難であろう。(科学的根拠なしの観点からいえば、血液型だけで不採用というのは、公序良俗違反の疑いはあるのだが・・・。血液型による採用・不採用の不公平が裁判に勝てるかとなると、非常に微妙では・・・。いっそのこと、公平な労働市場「法」の観点から、血液型による採用は、駄目と言うことにするとはっきりするのだが・・・これも企業をそこまで束縛するかという点から実現しそうにはないと思われる。)
血液型占いは、科学的には全く根拠がないということがいわれているが、いまだに当たっているという御仁もいるところである。世の趨勢を見る限り、いまだにその信頼性を信じている人もいる。(私も根拠はないと感じるところではあるが、一方で信じている自分もいる。) それゆえ、一つのある企業の社長が血液型占いを信じ込み、AB型を採用しなかったからといっても、それはそれで仕方がない。世の中、いろんな企業がいろんな基準で採用しているのも事実であり、血液型もその一つであるとすればうなずける。一方大部分の企業においては、社会的には、一般的に相応の適切な方法でもって採用しているのも事実であろう。
なお、従来から問題になっている思想・信条を理由とする採用の問題がある。労働基準法第3条の規定は、国籍・信条・社会的身分を理由とする労働条件差別の禁止をしたものであるが、これは採用後の労働条件差別について適用されるものであり、採用段階では適用にならないとされている。したがって、労働基準法上はなんら問題なく、使用者の「採用の自由」という大原則を根拠として、思想・信条を理由とした採用については、違法になるとはいえないとされている。(三菱樹脂事件判決、ただ学説的には反対あり)
(*1)労働組合員を採用に当たって不利に扱うことは不当労働行為になるのではないかという議論があるが、労組法7条1項(組合員を不利益に扱うことは不当労働行為として禁止)は、採用段階では適用なしとされている。(JR北海道・JR貨物事件・最一小判平成15)
(*2)「等」としたのは、法上保護される利益侵害に対する不法行為(不法行為であれば損害賠償請求)といえるものがあるかもしれないからである。
参考 労働法第6版 水町勇一郎著 有斐閣
・この本では、事例として、鬼塚商事において、採用面接の際に次のような秘密文書が出回っていたとして、その中で「次に該当する者は、原則として採用不可とする」とし、採用について血液型やその他企業で取り上げられるような微妙な項目が挙がっている。
ひと頃、血液型占いがはやり、いまでは落ち着いてはいるようだが、いまでも時々話題にはのぼっている。そのはなやかなりし頃、あの会社は血液型で社員の採用を決定するというような話があった。血液型うらないによれば、それぞれの血液型には性格上特徴がある(とされている)ので、それぞれの血液型を取り混ぜて採用を試みることになれば、不公平感はないのだが、社長と相性が悪いのでAB型は採用しないということになれば、AB型の人にとって、それは不公平ではないかということになる。そもそも何が不公平かということになれば、後に述べるように、そんな科学的に不確かなもので判断されるということになれば、たまらないということであろう。血液型占いを信じる人にとっては、それはそれで人間関係が悪くなるという点で信頼関係に立つ日本企業にとっては重要なポイントになるということだろう。(しかもせいぜい十数分の面接では血液型で判断の方がよっぽどいいということになる。)
法上はどうなるのか。まず、企業は、職業選択の自由(憲法22条)や財産権に対する不可侵(憲法29条)に支えられて経済活動そのものは自由であり、そこで、いかなる者を採用するかも自由であるという「採用の自由」が大原則である。
原則として、どのような者をどのような条件で雇うかは、企業が自由に決定できるのであるが(選択の自由)、今ではそれぞれの法律で一定の制約があるのも事実である。性別を理由とした募集・採用差別を禁止した男女雇用機会均等法、労働者の募集・採用について、原則として年齢にかかわらず均等な機会を与えなければならないとした雇用対策法や障害を理由とした募集・採用を禁止した障害者雇用促進法、労働組合から脱退することを雇用条件としてはならないとした労働組合法(*注1)があるので、これらの法に違反しないようにしなければならない。このように、憲法に保障された使用者の「採用の自由」が原則的にはあるのだが、その一方でそれぞれの個別の法律により、社会的要請からこのように、一定の制約が課されているところである。
これ以外の理由による採用、例えば、この血液型や、家族構成、容姿など、法律上明文で強行的に禁止されてはない理由による採用については、適法なのだろうか。
今までの議論を最初から整理すると、原則として、使用者の「採用の自由」が一番に来るところであるが、ただ個別の法律により明確な項目の差別はダメとされているところである。それ以外の項目による採用、ここでは「血液型による採用」については、使用者の「採用の自由」に対して労働者の「人格権」(憲法13条、「国民は、個人として尊重される。」)が対比されるが、その憲法上の人格権や公序良俗違反等(*注2)の観点から問題にならない限り、無効や法違反とはいえないと思われる。人格権・公序良俗違反等の観点から問題ならない限りはという点であるが、今だ裁判になった例は聞いておらず、後に述べるように、思想信条の問題でさえ最高裁で採用時点ではこの事由で採用を決めても法違反ではないとの判断が出てる現状では、人格権・公序良俗の観点から問題があるとの結論は困難であろう。(科学的根拠なしの観点からいえば、血液型だけで不採用というのは、公序良俗違反の疑いはあるのだが・・・。血液型による採用・不採用の不公平が裁判に勝てるかとなると、非常に微妙では・・・。いっそのこと、公平な労働市場「法」の観点から、血液型による採用は、駄目と言うことにするとはっきりするのだが・・・これも企業をそこまで束縛するかという点から実現しそうにはないと思われる。)
血液型占いは、科学的には全く根拠がないということがいわれているが、いまだに当たっているという御仁もいるところである。世の趨勢を見る限り、いまだにその信頼性を信じている人もいる。(私も根拠はないと感じるところではあるが、一方で信じている自分もいる。) それゆえ、一つのある企業の社長が血液型占いを信じ込み、AB型を採用しなかったからといっても、それはそれで仕方がない。世の中、いろんな企業がいろんな基準で採用しているのも事実であり、血液型もその一つであるとすればうなずける。一方大部分の企業においては、社会的には、一般的に相応の適切な方法でもって採用しているのも事実であろう。
なお、従来から問題になっている思想・信条を理由とする採用の問題がある。労働基準法第3条の規定は、国籍・信条・社会的身分を理由とする労働条件差別の禁止をしたものであるが、これは採用後の労働条件差別について適用されるものであり、採用段階では適用にならないとされている。したがって、労働基準法上はなんら問題なく、使用者の「採用の自由」という大原則を根拠として、思想・信条を理由とした採用については、違法になるとはいえないとされている。(三菱樹脂事件判決、ただ学説的には反対あり)
(*1)労働組合員を採用に当たって不利に扱うことは不当労働行為になるのではないかという議論があるが、労組法7条1項(組合員を不利益に扱うことは不当労働行為として禁止)は、採用段階では適用なしとされている。(JR北海道・JR貨物事件・最一小判平成15)
(*2)「等」としたのは、法上保護される利益侵害に対する不法行為(不法行為であれば損害賠償請求)といえるものがあるかもしれないからである。
参考 労働法第6版 水町勇一郎著 有斐閣
・この本では、事例として、鬼塚商事において、採用面接の際に次のような秘密文書が出回っていたとして、その中で「次に該当する者は、原則として採用不可とする」とし、採用について血液型やその他企業で取り上げられるような微妙な項目が挙がっている。