わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ブラジル映画の新しい波「シネマ・ノーヴォ特集」

2010-12-04 15:58:43 | 映画祭

Img381 1950~60年代、世界中の新世代映画作家たちが新しい潮流を巻き起こし、以後の映画界に変革をもたらした。その好例が、ジャン=リュック・ゴダールを筆頭とするフランスのヌーベルバーグだった。時を同じくして、ブラジルでおこったのがシネマ・ノーヴォ(新しい映画)です。このとき製作された伝説的作品群は、反ハリウッド・モデルを特徴とするもので、一世を風靡。なかでも、グラウベル・ローシャ監督「黒い神と白い悪魔」(64年)などが印象に残っている。そのシネマ・ノーヴォ作品が、いままた世界的に再評価され、各国の映画祭でデジタル修復による回顧上映も行われている。今回、日本でも、3人の代表的な映画作家による計5作品が「シネマ・ノーヴォ特集」として上映されることになった。
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 そのうちの1作品、ジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデ監督の「マクナイーマ」(69年)を見てきましたが、これがトンデモナイ珍品で、思わずドキッとさせられます。ブラジル近代文学の代表として知られるマリオ・デ・アンドラーデの小説をもとに映画化されたものだとか。物語の冒頭、アマゾンの密林で黒人の中年男の姿をした赤ん坊が生まれる。不吉を意味する“マクナイーマ”と名づけられたその子は、魔法の泉の水を浴びて美しい白人の青年に変身。早速、彼は、兄弟たちと都会に出かけて行く。だが、そこで遭遇したのは、女性ゲリラや、人食い巨人の異名を持つ金持ちなど、常識を超えた人間ばかり。マクナイーマ一行は、次々と奇想天外な珍事・奇談の嵐に巻き込まれる…。
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 トロピカルでサイケデリックな色彩世界で繰り広げられる、ハチャメチャで幼児症的なドタバタ映画とでもいったらいいだろうか。加えて、映画作法の面でも未熟です。でも、その裏にうかがわれる不条理でグロテスクな世界には、都市文明や政治に対する痛烈な風刺や批判がこめられていて、一見に値する。このほか、同じデ・アンドラーデ監督の「夫婦間戦争」(75年)、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス監督の「リオ40度」(56年)と「乾いた人生」(63年)、グラウベル・ローシャ監督の「切られた首」(70年)が上映されます。いずれも、鋭い社会風刺や反権力の姿勢に満ちた作品。開催期間は12月4日~24日の期間限定ロードショー。開催場所は東京・渋谷の[シアター]イメージフォーラムです。


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