わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ニューエイジによる新感覚の恋愛群像劇が誕生「知らない、ふたり」

2016-01-15 14:56:46 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 今泉力哉監督・脚本の「知らない、ふたり」(1月9日公開)は、新世代によるユニークで斬新な青春ラブ・ストーリーです。同監督は1981年生まれ。音楽ドキュメンタリー「たまの映画」(10年)で商業映画デビュー。恋愛群像劇「こっぴどい猫」(12年)が海外の映画祭で上映。「サッドティー」(14年)では、男女の一筋縄ではいかない恋愛模様を描いて注目された。本作では、韓国のアーティストと日本の若手俳優をかみ合わせて、巧みなアンサンブルを奏でています。いまを生きる等身大の男女7人の複雑な恋愛模様。愛の純粋さ、不確かさ、思い込みといった感情の起伏をリアルに、そして軽やかにつづっていきます。
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 靴職人見習いの韓国人青年レオン(レン)は、以前、自分につられて信号無視した男性が車にはねられるという事件に遭遇し、以来自分を責めて心を閉ざしている。ある日、彼は公園のベンチで酔って寝ている若い女性ソナ(韓英恵)に絡まれる。ソナの靴修理を頼まれたレオンは彼女が忘れられず、毎日彼女のあとをつけるようになる。レオンと同じ店で働き、彼に思いを寄せる日本人女性・小風(青柳文子)は、若い女性の後をつける彼の後を追う。更に小風は、ソナと同じコンビニでアルバイトをしている青年サンス(ミンヒョン)からラブレターを貰う。サンスは、ソナの彼氏ジウ(JR)とともに日本語学校に通っている。そこの講師・加奈子(木南晴夏)は車椅子生活をしている荒川(芹澤興人)と付き合っていたが、彼こそレオンが関わった事故で怪我をした男だった。ジウは、この加奈子先生にも恋心を告白。こうして、7人7様の思いが絡み合い、愛のロンドを織り上げていく。
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 ドラマは、自然な会話のテンポと、異なる時間軸を並行させた語り口で進行する。ソナが公園でレオンに絡んだ際にヒールが折れてしまい、その修理を頼みに来たのがサンスであること。ソナの後をつけるレオンを、更に小風がつけるくだり。日々繰り返されるこのシーンは、画面に不思議な効果を与える。また、酒場でサンス立ち会いのもと、ジウがソナに加奈子先生のことも好きだと伝えたことから起こる混乱。困惑したソナは酒を飲み過ぎて、気付いたときには公園のベンチで横たわっていたという具合。そのくだりが、冒頭のレオンとの出会いに結びつく。また、小風からフラれたサンスは、ひょんなことからソナと小風と3人で、ソナが気になっているという、公園で出会った男性(=レオン)を探す羽目になる。
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 こういう風に、簡単なプロットの紹介だけで、映画の内容が伝わるだろうか。要は、互いの思いを“知らない”7人の男女の愛の交錯。7人それぞれの愛・関係・出会い・すれ違いを、時間軸をずらせて重ねていくという独特の手法。それ故、一瞬、人物の出入りが分かりにくくなる部分もあるけれど。加えて、登場する男女が、それぞれの思いや感情の推移をナマの形でストレートにぶつけ合う。とりわけ、韓国系の出演者たちのやりとりが軽妙だ。なかでもNU’EST(ニューイースト)のメンバー、レンが演じる心を閉ざした青年像が印象に残る。昼になると、靴墨で汚れた仕事着のまま、公園で黙々と手製のおにぎりを食べるシーン。また、彼の同僚・小風を演じる青柳文子はファッションモデルで女優、どことなく茫洋とした風貌が記憶に残る。愛の不可解さをサラリとスケッチしつつ、最後にはホンノリとした結末を用意。ニュージェネレーション、今泉監督がつむぐ愛の輪舞曲です。(★★★★)



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