コタツ評論

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政治的に正しくない2作

2010-09-15 01:21:00 | レンタルDVD映画


シャッターアイランド

デカプリオ×スコセッシの新作。コントラストの効いたカメラは凄いが、いかに過去の設定とはいえ、精神病院の描写が、「キチガイ部落」(政治的に正しくないどころか、まったくの差別表現だが)の「ロボトミー手術」には、鼻白む。謎解きミステリの娯楽作品なのだから、類型的なのはお約束じゃないかと、逆に当方に鼻白む向きもあろうが、今日、少なからぬ寝たきりや痴呆老人が、特養のベッド数が足らないために、精神病院に入院させられている日本の現状もあるわけで、精神病院への予断と偏見を助長するような「娯楽映画」を観せられれば、鼻も赤くなろうというもの。また、アメリカ映画ファンなら、「カッコーの巣の上で」によって、非人間的な「ロボトミー手術」について知っているはず。「死刑」を受け入れるがごとく、「ロボトミー手術」に向かって歩いてゆく後ろ姿でよいのか。

スコセッシもまた、ミロシュ・フォアマン監督と同様に、アメリカンニューシネマの旗手の一人として台頭したはず。ヒチコックへのオマージュや先祖帰りといえば聞こえはよいが、ヒチコックはこうした脳内妄想そのものをモチーフとはしなかった。妄想と現実を峻別して観せた。探偵以外にニュートラルな登場人物を配さず、犯人との関係性の有無や濃淡を伏線の背景とした。だから、思わせぶりなショットが効いた。それはヒチコックのルールだった。ヒチコックが学び、題材を得た推理小説のルールだったからだ。観客に探偵と同じく手がかりやヒントを与えるルール。そのルールを文法として駆動させて物語る。その手段であるべき撮影術(カメラワークやカメラアングル)を美学として引用するなら、オマージュどころかただのパクリではないか。

もちろん、ヒチコックの映画文法を無視した新機軸はあってよい。それならば、この手の謎解きミステリの娯楽映画としては、「アイデンティティ」のほうが、ずっと上出来だったと思う。だいたい、なんにでも出演するベン・キングスレイはともかく、あの名優マックス・フォン・シドーに何の見せ場もないとは。スコセッシ、アカデミー賞もらって、トチ狂ってやしないか。



ハート・ロッカー

かつて、日米戦争のとき、アメリカ側は日本の戦意昂揚の映画や新聞記事、小説、軍歌などを収集分析して驚いたそうだ。アメリカの基準でいえば、戦場の残酷、従軍の辛さ、兵隊の苦しみを率直に扱っていて、戦意昂揚どころか反戦や非戦の意図があるとしか思えなかったからだ。この映画は、戦意昂揚映画として、かつての日本のレベルには達している。イラクとおぼしきテロが横行する国で、爆弾処理に従事する兵士の恐怖の毎日を追いながら、誰にとっても危険でしかない爆弾の除去という「責務」に焦点を絞ったのが功を奏して、「娯楽作品」としても楽しめる。なぜ、イラクにアメリカ軍がいるのかという疑問を抱かず、アメリカ軍の戦死者より、イラク国民の犠牲者の数が圧倒的に多数だという知識さえなければだが。


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