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大阪都構想の否決のオケツ

2015-05-18 23:40:00 | 政治
僅差で「大阪都構想」は否決された。不必要な行政改革と思うが、この7年間に費消された夥しい時間と金が無駄であったとは思わない。橋下徹市長は記者会見で、否決の結果を出した大阪市民について、以下のように述べた。



本当によくいろんなことを考えていただいて、かなり悩まれたと思うし、非常に重い重い判断をされたと思うが、日本の民主主義を相当レベルアップしたかと思う。

投票率が高い上に僅差という結果は、賛成派と反対派が拮抗したにとどまらず、賛成とも反対とも決めかねた人が少なくなかったという背景を物語っている。そうした市民レベルで広汎な議論が交わされたことを踏まえて、「日本の民主主義を相当レベルアップした」と橋下市長は溜飲を下げたわけだ。

民主主義の核心を市民間の活発な議論におくというというだけでも、「右翼タカ派」と目される彼が原理主義的な民主主義者であることがわかる。「任期中は市民から独裁を託された。嫌なら次の選挙で落とせばよい」というかねてからの主張も、投票民主主義の一面を正確にあらわすものだ。

昨日曜日は、辺野古基地新設に反対する沖縄県民大会が催され、3万5千人もの人々が那覇市の野球場を埋め尽くした。初めて参加した翁長雄志沖縄県知事は、「道理と正義は私たちにある」と演説して、日米両政府に米軍普天間飛行場の閉鎖・撤去と辺野古基地建設取り止めを要求する大会決議を採択した。


会場となった沖縄セルラースタジアム那覇の定員は3万人である

橋下市長や翁長知事、安倍首相の支持率の高さは、直接民主主義への渇望という同じ根から生じているように思える。いずれも民主主義手続き論の立場からみれば、「横紙破り」と批判されてしかるべきだが、ほかの二人よりも、弁護士だけに橋下徹がいちばんその点に慎重な姿勢であるのは皮肉である。

橋下徹の幸と不幸は、彼の「大阪都構想」という「横紙」ではなかったか。翁県知事の「米軍基地県内移転反対」や安倍首相の「安保改定」や「憲法改正」という「横紙」に比べれば、「大阪都構想」はいかにも矮小で無意味にみえる。具体性に乏しくあいまいな改革イメージの先行にもかかわらず、いや、だからこそ、大阪府・市政において維新は第一党を占め、国政にも影響力をもつほど国会議員を擁する勢力に伸張した。

橋下徹をシングルイシューを掲げたポピュリズムの政治家と嘲笑するマスメディアや知識人、官僚・役人、労組幹部ら表立った政治占有者を蹴散らかし、国民の直接民主主義への渇望に独裁的手法をもって応え、現状打破イメージの火をつけること。そこに向かってすみやかに軌道を修正した安倍首相や翁長知事は、橋下徹の亜流と見なすことができる。


リンカーンセンター訪問のため、オバマ大統領の車に同乗した

戦前はいうまでもなく、それ以降も、「戦後」という留保付きのいびつな民主主義が続いてきた。とすれば、いま私たちはようやく、ファシズムを生むほどの民主主義に到達しつつあるといえよう。民主主義の成熟はその次の段階である。

(敬称略)



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