コタツ評論

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今週の明言…、

2020-01-02 10:44:00 | 政治
「これで有罪が前提で差別がはびこり、基本的人権が否定されている、不正な日本の司法制度の人質ではなくなる」

レバノンから日本の司法批判をしたゴーン声明について、記者たちから問われた弘中惇一郎弁護士は、

「思い当たる節は多々ある」

と認め、「たとえば…」と具体的に列挙した。

どちらも当事者にしかできない明言だが、後件については、なぜかほとんどの新聞・TVはとりあげていない。

もう一つ忘れてはならないメディアの迷言は、「無断出国」だ。今後は「不法入国」ではなく「無断入国」というべきだろう。もしかすると、「無断出獄」もありか。たしかに、「すみませんが」と断れば、たいていのことは通るところが日本社会にはある。

在日外国人が最初に覚える言葉は、「すみません」だそうだ。「邪魔だからどけよ」というより、「すみません。ちょっとそこ空けてくれませんか」のほうが摩擦が起こらないに決まっている。一見、英語の Excuse me に近い用法だから、在日外国人にも使い易いのだろう。

ただし、「すみませんが…」と一拍置く場合は、そう軽々しい頼みばかりではない。「すみません」と謝っているように、下手に出ているように思わせて、「が」という接続助詞に、「…」を加えて、これから話す内容を是認するか、行為に従うようにうながしているものだ。

「すみません。会社を辞めてください」とはいわない。「すみませんが…、会社を辞めていただけませんか?」と言うだろう。実際には、こんな直截な言い方もあり得ないが、問題はそこではない。「すみませんが…」には説明を省略して、服従を迫る態度を表すだけでなく、発語した者に正当性が付与されている言葉なのだ。

したがって、「すみませんが…」と対手が話しだしたら、「すみません。ちょっと待ってください」と腰を折り、「どういうお話なのか、最初からきちんとご説明を願います」と言わなければならない。黙って聞いていれば、同意したと受け取られかねない、かなり「ヤバイ」話なのだ。

いずれにしろ、「すみません」「すみませんが…」は謝罪の言葉というより、謝罪するのを避ける目的で使われているといえる。一方的に是認や服従を求め、しかも同意を前提としていると告知するための言葉といえる。そこでは、発語する「私」の責任主体はどこにもない。「私たち」や「我々」を背景にしているかといえば、それすらない場合も珍しくない。

「言葉の綾だよ」では済まないのは、この責任が霧散霧消しているからだ。

ゴーンの「無断出国」について、取り囲んだ記者から「弁護士としての責任を感じないか」という質問が出た。この場合の「責任」とは、弁護士としての職務範囲における「責務」ではなく、あきらかに「国民の皆様」へ謝罪したらどうかという誘導質問だった。

日本ではPC上の最上位に位置する「国民の皆様」へ、頭を下げなくては話が収まらないからだ。弘中弁護士は、「想定外の出来事なので、責任といわれても…」とそれまで明解に話してきたのに、さすがに口を濁した。

「国民」は明確に定義されている。「皆様」も可視できる人々と実感を持つことはできる。しかるに、「国民の皆様」が合わさったとき、たんなる丁寧な言葉遣いを越えて、「国民」や「皆様」を後景に退かす「呼びかけ」となる。

「ご迷惑・ご心配をおかけした」と「謝罪」し、「自らの任命責任」と「責任」を認め、「今後は真摯に対応していく」と「対策」を約束する。しかし、まず自らの進退は棚上げする、結局、何も対策しないか、改善するどころか、むしろ改悪してしまう。そんな安倍的な「責任の取り方」として、これまで7年間、通用してきたという現実がある。

通用させてきた「国民の皆様」という実体とは、そうした7年間に乏しくなった「国民」や「皆様」の内実に、反比例するかのように増大した、無責任意識の集合ではないか。国民生活が劣化・悪化すればするほど、内閣支持率は堅固に維持されるのは、「国民の皆様」がいわば疑似共同体のように、「国民」と「皆様」に共有されているからではないか。

疑似であれ共同体とすれば、その「地縁」とは「地政学」のようにもっともらしい「嫌韓」であり、その「血縁」とはいうまでもなく「桜を見る会」にみられる縁故主義であり、その「友情」とは劣情としての愛国心といえるだろう。

名付けるなら無責任共同体という語義矛盾を冒さざるを得ない。

「すみませんが…、責任は取れませんし、取るつもりもありません」「そうですか…、すみませんが…、私たちも同じなんです。意見が合いますね」

Ethel Ennis - My Foolish Heart


(止め)


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