コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

こくさいしゃかいについて 01

2013-04-04 18:32:00 | 政治
たとえば、顧客や取引先、あるいは社内から大クレームが起きるミスを、あなたもしくはあなたの部下が引き起こしたとする。進退を問われる厳罰が課せられそうです。さて、どうするのか。なんとかペナルティを軽減にして、引き続き取引や仕事を続けたい。そのために具体的に何をするべきか、あるいはすべきではないのか、クレーム対応の参考事例としても有益ではないかと思います。

サッカー:朴鍾佑のメダル、授与されない可能性高かった!?
-銅メダル授与の陰の立役者、米国人のジョーンズ弁護士に聞く
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/03/31/2013033100137.html

どうでしたか。もちろん、「銅メダル授与」を勝ち取った弁護士の「手柄話」である以上、じゅうぶんに割り引いて読む必要があります。伏せられた事実があるかもしれないし、過小に扱われたり誇張されている事柄もあるでしょう。しかし、IOCというひとつの国際社会に対して、どんなロビー活動や交渉が行われたか、そのためにどのような組織で周到な準備がされたのか、学ぶべきものは多いはずです。

予想される質疑応答を50パターン以上準備してIOC懲罰委員会に臨んだところ、委員会で質問された15個の質問のうち14個がぴたりと当たった。準備はほぼ完璧だったといえる。

体罰問題で女子柔道日本代表監督が辞任したときの記者会見では、岡田監督の応答に、記者との想定問答を練り上げ予習した様子がほとんどみられませんでした。全柔連の「努力の足りなさ」と、問題の解決について「誠意がない」ことを明らかにする場になってしまいました。能力がないのではなく、努力が足りず、誠意を感じられない場合に、体罰を下す名文になることが多いのですが。

かつてIOC委員を務めた朴容晟・大韓体育会前会長が人脈を総動員して現地のムードを探ってみると、銅メダルは授与されない可能性が高いことが分かった。

サッカー界だけでなく、韓国のスポーツ界を挙げて、現役だけでなくOBまで総動員した懸命の情報収集がうかがえます。その成果のひとつが次の背景情報の把握です。

われわれが心配したのは、来年のソチ冬季五輪を前にロシアで大きな問題となっているのが、チェチェン共和国の反対派による独立運動だということだった。ソチ冬季五輪で『チェチェン独立』などの政治的スローガンが登場しないようにするために、IOCは朴鍾佑の問題に厳しく対応する可能性が高かった。IOC委員たちがデリケートになっている状況で、朴鍾佑に寛大な対応を求めるための理由を提示しなければならず、非常に頭を悩ませた」

朴鍾佑のメダル授与問題に、ソチ冬季五輪で予期される「チェチェン独立」アピールが背景として影響しているとは初耳でした。もちろん、話半分かもしれませんが、ソチ五輪まで視野に入れて、それほど重大に考えているというアピールは有効でしょう。東京五輪招致運動に悪影響を及ぼす可能性について、当初、想定外に置いて処分を決めていた全柔連とは対照的といえます。また、IOCという国際社会は、「チェチェン独立」の声を認めない、既存の国民国家の集合であることがわかります。

韓国社会では漠然と「真実や誠意は通じる」という言葉が通用するが、現実はそうでないケースが多い。事前に真実や誠意が通じる条件をつくり上げておかないと、相手に跳ね返される。

このあたり、日本でもそのまま当てはまりそうです。私が私であるように、あなたから見えているか、そう見える事実を積み重ねなければ、それはただの怠慢な言い訳に過ぎないということでしょうか。

委員たちは、韓国よりはるかにスポーツ外交に強い日本が激しく反発している朴鍾佑問題について、日本が納得しないような理由で処罰を軽くする可能性は低い。自身の経歴に汚点を残したくないからだ

にわかに頷けないところが多いのですが、そのとおりだとすれば、IOCという国際社会は韓国と日本の二国間問題だと認識していたことになります。すると、日本側はIOCに「厳罰」を求めたのか、そう働きかけたのか、あるいは韓国側から日本にとりなしを頼んだのか、日本側は「メダル授与」裁定にどう納得したのか、気になる点がいくつもあります。日本のメディアは、これらについて報じたのでしょうか。

カナダ人弁護士が「われわれが教えてはいけないのだが」とちゅうちょすると、ジョーンズ弁護士は「大丈夫。私たちは透明に、誠実にやるから」と言って、答えを催促した。するとカナダ人弁護士は「分かった」と言って、問題点を指摘してくれた。

できすぎたおもしろい話には注意が必要です。もちろん、極秘情報の入手は大きな得点ですが、決定的とはいえません。実際の組織では、知り得た情報を採用考慮して計画や進行を組み直すということは、むしろ、されない場合の方が多いものです。情報の重要度より、情報の取捨選択を左右するトップや組織の風通しに、つねに問題があるわけです。

ここに一つの資料が追加で提示された。朴鍾佑選手が、ぼうぜん自失の表情でピッチに座り込んでいた日本の選手を慰める場面だ。それは、3位決定戦の日本戦の終了直後、朴鍾佑選手が日本代表の大津祐樹に近付き、慰めながら体を起こしてやるシーンだった。(中略)「ジョーンズ弁護士は「このとき委員たちが感動しているのを見て、90%は大丈夫だと思った」と語った。

よく情理を尽くすといわれますが、この記事自体がそうであるように、ジョーンズ弁護士のプレゼンは、いわば同情作戦であったようです。韓国(サッカーとスポーツ界)と韓国人(朴鍾佑)へ、IOC委員の同情を呼び起こすために冷徹に考え、具体的な証拠集めに注力したのでしょう。クレームには情で対抗するのがセオリーですが、情にも説得力のある裏づけが必要なのです。また、情に訴えるために理が組み立てられるのであって、その逆ではないということです。

(敬称略)

この項続く