コタツ評論

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暴力を手放す

2012-02-10 01:49:00 | レンタルDVD映画
これは拾い物のカナダ映画「small town murder songs」

田舎町の警察署長が自らの暴力性向を抑制しようと悩みながら、ストリッパー殺人事件の捜査をしていく。殺人鬼や殺し屋を演らせたら、右に出る者は世界に3人くらいしかいないというピーター・ストーメアが署長だから、いつキレるかハラハラするのが見どころのひとつ。聴きどころは、PVかと思うほど全編に流れるブルース・ペニンシュラの演奏だろう。

1時間10分という短い上映時間の濃度を上げたのは、宗教色の強い田舎町の風景とあいまって、このカナダのバンドの力強いサウンドにちがいない。だみ声のブルースボーカルと女声コーラスのコール&レスポンスが、だんだんウォルター署長の独白と天上から呼びかけの声に聴こえてくる。

トロントとシカゴの映像の区別がつかないが、田舎町となるとアメリカとカナダのどっちか、ほとんどわからない。しかし、たとえカナダをまったく知らなくても、この映画が非アメリカの町を描いていることが、やがて、観終わってからは、はっきりわかる。

ウォルター署長が兄や父親と話すときは、ドイツ語(?)を使う移民の息子であり、兄は南米からの出稼ぎ労働者を雇って農場を経営している。農林業をおもな産業とする町の人々はキリスト教の小宗派の熱心な信徒で占められている。

平穏ではあっても退屈な田舎町で、暴力衝動を抑えかねている警察署長が主人公なら、これがアメリカ映画であれば、移民や出稼ぎや宗教間の軋轢から、不穏な空気が高まり、人々の疑心を呼び込み、ふとしたきっかけで憎悪が噴き出し、暴力が炸裂するクライマックスに向かうものだ。

が、そうはならない。暴力や血が流れるシーンはごくわずかに過ぎない。私たちは欧米の基準をどうしてもアメリカに拠りがちだが、アメリカが異様異常なのであって、非アメリカがふつうなのだとあらためて思う。暴力は抑え込まれるのである。きわどいところで。

登場人物は少なく、筋立ては単純、カメラワークも単調で、クライマックスも小事件に過ぎない。ただし、少し考えてみると、この small town が地球の縮尺のように思えてきた。暴力は抑え込まれるのである。暴力に嫌悪感を抱く人々と個人の意志の力で。

Crabapples (live) Bruce Peninsula


AS LONG AS I LIVE


(敬称略)
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