コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

最近、購入した100円本

2008-05-20 17:34:25 | ブックオフ本
『オイディプス王・アンティゴネ』(ソポクレス 福田恒存 訳 新潮文庫)

ソポクレス。いやにさっぱりした名前である。前後に何も付かないのであるか。アリストテレスやソクラテスも、それだけの名前なのか。しかし、アリストテレスやソクラテスはまだいい。プラトンとはどうだ。タロ、ジロと変わらぬではないか。アンティゴネがおもしろい。

翻訳したフクダコーソンのコウがほんとはもっと変な字なのだが見つからない。厳格な人だったそうだから、申し訳ない気がする。ツネアリと読むそうだが、吉本隆明を誰もヨシモトタカアキと読まないように、偉い人の名前は訓読みではなく音読みになるのである。著名な政治学者もマルヤマシンダンと読まれていた。ところで、福田恒存の顎は長い。羽仁五郎や伊藤雄之助も長かった。最近では俳優の嶋田久作が長い。

『ダブリンの市民』(ジェイムズ・ジョイス 高松雄一 訳 福武文庫)

アイルランドでは、きっと山田太郎みたいな名前ではないか。ジェイムズとはジェームス、あるいはジェームズとも表記される。どれが正しいのか。統一してほしいものだ。ジェームズといえば、「あなたの名前は?」「ボンド。ジェームズ・ボンド」という名科白がある。なぜ、最初から、「ジェームズ・ボンドです」といわないのだろう。

『貧しき人々』(フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー 北垣信行 旺文社文庫)

『カラマーゾフの兄弟』の殺されて当然のお父さん、フョードルと同じ名前だとは知らなかった。ロシアの小説が読みにくいのは、登場人物の正式名の他に、幼名やら、呼び名やら、綽名やら、呼びかける人の関係性や親しさの度合いに応じて変わるからだとよくいわれる。たしかに、実際にロシア人が呼びかけているのを聴いたことがあるが、「ズイズイズッコロバシーチ」とか、やたらZ音が多くて何回繰り返してもらっても聴き分けることはできなかった。

『私説博物誌』(筒井康隆 新潮文庫)

博物館長の息子が書いた本。私は日本の文豪の一人に数え上げている。早く、ジョイスやドストエフスキーのように、「筒井」とだけ筆者名が表記されるようになって、フルネームの夏目漱石や三島由紀夫を超えてほしいものだ。

『面目ないが』(寒川猫持 新潮文庫)

万葉集の編纂者といわれる大伴家持(おおとものやかもち)の子孫なのか。いずれにしろ、猫持(ねこもち)という名前は秀逸である。たしかに、猫ほど飼うという言葉からほど遠い存在はない。あれは持つ、持っている、ものかもしれぬ。

尻舐めた 舌でわが口舐める猫 好意謝するに余りあれども

寺山修司の「マッチ擦るつかの間~」と並び、私が人知れず涙した歌である。

この本にも、猫の歌がいくつもある。

遅くまで 物書く吾(われ)を蒲団から 顔だけ出して猫が見ている

電球の 下の猫より煙出て カチカチ山になった慌てた

にゃん吉よ おまえが死ねばボク独り なんでんかんでん死なねでけろ

手も足も ちゃんとあるのに口だけで 物食う猫の可愛ゆてならぬ

日曜が 降ろが晴れよがオッサンと ネコのお二人どうでもよろし

猫の歌というより、猫と暮らしている中年男の歌である。が、猫もまた、とある中年男と暮らしている、とある猫の歌を詠んでいるのではないか。

謝る男
http://moon.ap.teacup.com/applet/chijin/200109/archive

(敬称略)





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