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玄参の臨床

2008-08-22 06:45:06 | アトピー性皮膚炎

養陰剤としての側面と涼血薬としての側面

玄参は元参とも書く。上海中医薬科大学では玄参と書く老師と元参と書く老師がほぼ半分であった。性味は苦 (中国語で塩辛い意味でシエンと読む。噛めば苦味とやや塩辛い)寒であり、肺 胃 腎に帰経を持つ。玄参は養陰生津作用があるので本邦の教科書では養陰剤に分類されている場合が多い。

一方、中薬学では清熱涼血薬に分類している。

清熱涼血薬は湿熱病中期の血分に熱邪がある場合に用いられる。血分とは清代に生まれた温病学の概念である。温病学の衛気営血弁証では、温熱病の進展していく過程の「浅深軽重」を4つのステージ分類する。温熱病邪は衛から気に、気から営に、営から血に伝わり、病状が段々重くなる。営血は同質であり程度の軽い状態が営分、重い状態が血分である。

営分に温熱病邪があると、高熱煩燥、舌赤脈数 斑疹隠隠(皮下出血)が起こり、さらに血分に入ると斑疹悪露が生じるとある。現代医学のように、血液生化学検査も病原体の概念も、ましてや血液培養などの検査もまったく無かった時代の漢方医のものの考え方と捉えていいと思う。従って、元来の「血分」の概念から離れて、玄参の有効性を利用するという立場はむしろ許容範囲に入ると私は考える。

他の清熱涼血薬との比較

生地黄は養陰剤としての側面が強く、清裏熱作用は玄参より弱い。一方、玄参は生地黄比較して養陰作用は弱い。牡丹皮は活血祛瘀作用に優れ、淤血性の疼痛に効果的である。赤芍は牡丹皮より清熱涼血作用は弱く活血作用もやや劣る印象がある。紫草は清熱涼血作用とともに、解毒透疹作用があるが、養陰作用は疑問である。中国では清熱涼血薬の組み合わせで玄参と紫草の組み合わせを多く見た。

玄参が配合される方剤は清代の温病学以降

清代の温病学の衛気営血弁証の中で玄参の使用が開始された。営(血)分の熱邪を衛分に「差し戻す」という考えを持った。これを「透熱転気(とうねつてんき)」と称する。 玄参を理解する上で、透熱転気の代表方剤である清営湯を省略できない。

清営湯(せいえいとう):治療対象:熱邪が営分に入り、傷陰(現代の医学用語では脱水に近い概念)の状態。症状は、発熱(特に夜間)心煩少寝、譫語(うわごと)全身性の斑疹 紅絳舌干(少苔あるいは無苔)脈細数で、効能は清営泄熱(清営透熱)滋陰活血である。組成は、水牛角 生地 玄参 麦門冬 金銀花 連翹 黄連 丹参 竹葉芯と全配合薬が涼寒薬になっている。構成を一覧にすると以下のようになる。

水牛角30g以上 生地黄

(清営涼血、解毒、止血消斑)    君薬

玄参 麦門冬

(生地と共に清涼血、養陰生津)  臣薬

以上で清解毒養陰生津

双花金銀花連翹

黄連 竹葉芯

解毒            佐薬

金銀花 ?? 竹叶は透熱転気

丹参

涼血祛瘀

丹参の意味 ①熱が原因の血流停滞による淤血を除く

      ②君薬臣薬佐薬ともに寒性であるから寒凝による淤血を防止

水牛角は本来、犀角(さいかく)であったらしいが、当時でも高価であり、現在ではワシントン条約で取引禁止になっている。涼血(血熱をさげる意味)止血(血熱妄行のによる出血を止める意味)瀉火(強力な解熱作用)、安神(精神安定作用)に優れる。安神目的では1-3gをそのまま粉末で冲服する、熱病で意識不明の時などは6gの極量を用いる。

水牛角であれば15-30gを他の煎じ薬に先んじて煎じる。水牛角には安神作用はない。現在使用できない薬剤について効能を述べても仕方ないが、当時のものの考え方を知る上で欠かせない。

清営湯中の玄参 生地黄 麦門冬の組み合わせは増液湯(そうえきとう)の組み合わせでもある。現代風に言えば、熱性疾患で脱水して口渇するものを治す生津止渇作用を持つ。増液湯に大黄と芒硝を加えたものが増液承気湯であり、温熱病による脱水が原因の腸燥便秘の方剤である。増液湯、増液承気湯ともに温病条件に記載された方剤であり、増液承気湯は後漢時代の傷寒論の六経弁証での陽明(温)病不大便に対する通便剤であり、増水行舟の代表方剤」とされる。玄参の位置を考えると、血熱により津液が損傷された状態の時に、血熱自体を清熱涼血作用により下げ、滋陰生津作用により乾きを癒すという言わば原因治療と対症療法にまたがる位置と判断できる。

  そもそも

「血熱」とは気血津液弁証の血病弁証中の概念である

中医学の難点は物質化、定量化できないところにある。数字化できないものは現代のデジタル思考では「あいまいなもの」「概念的」「抽象的」と捉えられやすい。しかし西洋医学の歴史を振り返っても「定量化」「数式化」が始まったのは近世19世紀末ぐらいからである。それ以前に「医学を独自の言語体系で理論化」したところに中医学の偉大さがある。さて、血熱とは血病中の血虚 血淤 血熱 血寒の大まかな4つの概念の中のひとつである。熱邪が血分に侵入する外感型、内傷雑病で血分に熱があり出血を伴う内傷型に分けられるが、その境界線はあいまいである。

外感熱病の血熱証の特徴は、発熱(夜間に盛ん) 口が乾燥 心煩躁狂 吐血 衄血(鼻出血) 血尿 皮下出血 月経過多 絳舌 細数脈であり、論治は清営泄熱、清熱涼血で、清営湯 犀角地黄湯を用いる。

内傷雑病の血熱証の特徴は喀血 吐血 血尿 衄血 絳舌 弦数脈とされ、論治はほぼ外感型と同じである。

「血熱」の定義は中医学ではある程度決定されているが、たぶんに感覚的なものであり、目で見て「赤」「腫脹」、触ってみて「熱」、たずねてみて「口渇」「便秘」などであり、皮膚科領域での診断と治療応用が多い。外感熱病に対する抗生剤、補液療法が発達している現代では、皮膚科領域の「血熱」は「感覚的」に捉えやすいと言える。

血熱型ニキビ

およそ、ニキビは肺熱型 胃熱型 血熱型 淤血型 気血不足型に大別される。玄参 生地黄 天花粉 麦門冬は滋陰清熱涼血の組み合わせであり、血熱型のニキビに効果がある。ニキビが赤く盛り上がっている、口や鼻、眉間の周囲に多い、赤ら顔である、普段香辛料を好む、便秘傾向があるなどの特徴がある。黄連解毒湯に四物湯を合わせた温清飲を基本として、玄参 生地黄などを加えると効果が良い。月経前にニキビが悪化するなどの症状がある場合は、柴胡疏肝散や丹梔逍遥散などを加味する場合がある。

血熱型アトピー

およそアトピー性皮膚炎は湿熱型がもっとも多く、血熱型は比較的少ない。血熱型が悪化し熱毒型に移行する場合もある。他に血虚型がある。見た目の違いでおおよその見当はつく。湿熱型は、顔面や頭皮に湿った病変、肘や膝関節部の苔癬化病変、胃もたれしやすい 悪心嘔吐 軟便下痢を伴う場合があるなどの特徴がある。陰股部の湿疹や、女性の場合、黄色の帯下がある場合もある。黄 黄連 山梔子 黄柏などの清熱解毒燥湿薬に、沢潟 車前子 竜胆草などの清熱利尿の作用がある薬剤を加味し、湿熱を尿から排泄させる。さらに、当帰 白芍 熟地黄 などの滋陰養血剤を加味し、?芥 防風などの風剤を配合し、痒みを除く。皮膚に水ぶくれや、かきむしったために糜爛などが生じている重症型には金銀花 馬歯 魚腥草などを加味する。問題の血熱型は、湿熱タイプに比べ、紅斑や皮膚の発赤が著しい場合であり、口渇や不眠を合併することもあり、女性の場合には月経先期なども合併する。黄 黄蓮 山梔子 黄柏などの清熱解毒薬に、生地黄 牡丹皮 玄参などの清熱涼血作用のある薬剤を加え、血熱を清める。さらに、熟地 川 当帰 白芍などの養血活血作用のある薬剤、あるいは涼血活血作用の丹参や益母草を加え、陰血を養い、淤血を除く。?芥 防風などの風剤を配合し、痒みを除くのは湿熱タイプと同じである。皮膚の乾燥傾向がある場合は滋陰作用のある天花粉、土鼈甲と同様に玄参も有効である。

血熱型脱毛

およそ脱毛は血熱型、血虚型、淤血型、肝腎陰虚型などに大別されるが、おのおのの移行型も存在する。典型的な血熱型の脱毛の特徴は、脱毛が部分的であり、脱毛部分の頭皮が赤く紅斑を呈し、出血点を観察することがあり、舌苔はやや乾燥した黄苔で、脈は頻脈気味で、頭皮以外の体表に赤い発疹を認めることがある。口が渇き、便秘傾向がある。黄連解毒湯、?芥連翹湯の合方を基本に、玄参 生地黄を配合すると効果がある。玄参 生地黄は清熱涼血作用の他に、滋陰潤燥の作用があるために局所を滋潤する作用がある。血熱型の特徴として頭皮の萎縮もあるが、玄参の滋潤作用と軟堅作用は局所循環を改善し、頭皮の萎縮を防止するのではないかと期待している。

四妙勇安湯は血熱型脱疽(だっそ)に有効

上海学派は血栓閉塞性脈管炎による脱疽に有効であると報告している。玄参金銀花当帰尾生甘草の組成から判断してみると、感染性の動脈炎による脱疽である。金銀花は清熱解毒薬、涼血止血作用がある。玄参は滋陰清熱涼血、解毒に作用し、ともに寒薬である。さらに玄参には清熱軟堅作用がある。当帰尾は活血に働き、血行の改善に寄与する。生甘草は瀉火解毒の作用に優れる。寒涼薬の牡丹皮、生地黄、同じく涼薬で活血薬の丹参、近代では血液凝固抑制物質であるヘパリンを含有する動物薬の水蛭などを加味する場合もある。つまり、四妙勇安湯は局所熱があり、腫脹を伴い、発熱やその他の熱証を伴うものである。もっとも近い臨床象は糖尿病性脱疽(とうにょうびょうせいだっそ)である。易感染性と動脈硬化がベースにあるからである。糖尿病性神経症による知覚鈍麻も感染を気づかせないで血管炎を悪化させる要因となる。もし糖尿病性脱疽に陥れば、現代医学ではドルナー、オパルモンなどの血流障害改善剤に加え、プロスタグランジンの注射、抗生物質の投与、鎮痛剤投与、全身管理と治療は多岐にわたる。四妙勇安湯は1日50g~60gの大量の金銀花、玄参を必要とする。病状の重さが見て取れる。ともかく血熱による血栓形成に対して清熱解毒涼血をはかるわけであるから、喫煙が大きな原因とされるバージャー病に代表される熱証を伴わない閉塞性動脈硬化症による脱疽に対する治療方剤ではない。

最後に

癌患者の大半は「気陰両虚」である。基本的養陰剤として玄参を欠かさずに使用している。玄参には軟堅散結作用があるからだ。

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北京五輪で女子ソフトボールチームがアメリカを破って優勝した。感動した。終戦から63年。日中戦争の当事者国の中国の首都北京で、太平洋戦争の相手国アメリカと競技する。 感慨深い。

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