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生理痛の漢方治療 続編

2007-01-15 16:23:34 | うんちく・小ネタ

肝腎不足が原因の生理痛

男性にはうかがい知れない女性の生理痛について、

①「冷え」が原因となる場合

②「冷えと湿」が原因となる場合

③「ストレスによる肝気郁結」が原因となる場合

④「肝気郁結が肝郁化火に変化」して「熱」が原因となる場合

⑤「熱」と「湿」の「湿熱」が原因となる場合

⑥気血虚弱が原因となる場合

  について前稿でお話しました。 本稿では

肝腎不足(肝腎虚損)が原因となる場合

  についてお話します。最も根の深い、治療が困難なタイプです。

腎虚証のある生理痛は、調肝湯(ちょうがんとう)で補益肝腎するのが原則です。

肝腎不足(かんじんぶそく)とは?

中国医学を知らない人には聞き慣れない用語です。また、たとえ漢方にある程度の知識を持っていても、なにやら漠然としか把握できない病態であることも事実です。

腎は精を蔵(蔵精)し、肝は血を蔵(蔵血)する」「精血同源」「肝腎同源」という中国医学の考えがあります。そこから理解を進めることにしましょう。

腎は精を蔵する」の精は「腎精」を指します。腎精は「先天の精(気)」と「後天の精(気)」の二者から成り立ち、その機能の意味から「広義の精気」と「生殖の精」とに分けて考えます。

「先天の精」とは、両親から受け継いだ生命の始まりに関係するもので、現代医学で言えば遺伝情報や胎内での母体から受けた精ともいえるものです。

人体は気 血 津液により生命活動を維持します。

気は第一に先天の精気であり、第二は後天の精により生成されます。後天の精気は脾、胃より吸収される水穀精微物質と、肺から吸収される自然界の清気です。気は血を生み、気は血に養われ、気と血は互いに依存する関係です。さらに、津血同源といい、津液と血は互いに同源とする中医理論があります。

「広義の精気」とは「邪気盛んなれば即ち実、精気奪わるれば即ち虚」と中国古典の素問通評虚実論にあるように、人体の病邪に対する抵抗力を意味します。即ち「正気」と同意です。

「生殖の精」とは現代医学的に言えば、人体の生長 発育 生殖をコントロールする生長ホルモン、性腺ホルモンにかかわる内分泌システム全体を指しています。

中国漢方医学では、これらの精(気)を腎は「蔵する」と考えました。この概念は、現代医学での腎臓の機能と共通する部分もあります。

理解を進めるために腎の機能についてまとめてみました。

腎の臓腑学説

西洋医学からの腎の機能

西洋医学の腎臓の機能は、抗利尿ホルモン(ADH)、アルドステロン、心房性Na利尿ペプチドの関与の下に、尿の生成と排泄、電解質のバランスに関与し、体内の老廃物質を体外に排泄することによって、体液の量と電解質を正常に保つことです。またホルモン分泌器官としての機能もあり、傍糸球体装置よりレニンを分泌することでアンギオテンシン-アルドステロン系に関与して、血圧と尿量を調節し、尿細管ではエリスロポエチンを分泌し、骨髄での赤血球の産生を促進するという造血ホルモン分泌の作用があります。

副腎の機能

副腎は腎臓の上部に接している小さな内分泌器官です。鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド、副腎皮質ホルモン、性ホルモン、主に男性ホルモンであるアンドロゲンを分泌している副腎皮質と、血管収縮、血圧上昇にかかわるエピネフリンかノルピネフリンを分泌している副腎髄質に大別されます。

伝統的中国医学の腎の臓腑学説

古来より中国医学では腎は気の本(もと)、封蔵の本と言われてきました。

腎は精を蔵し(貯蔵し)、生長、発育、生殖を司り、骨を司り、髄(ずい)を生じる。腎は水液を司り、耳と二陰に開竅する。膀胱と表裏関係にあるとされます。

(1)腎は精(せい)を蔵する

腎に貯蔵されている精気を腎精といいます。腎精は人体の生長、発育、生殖と、他の内臓の正常な生理機能を維持する基本的な物質です。広義の精とは先天的な精と、脾胃が吸収する水穀精微物質の精を意味します。腎は広義の精を蔵すると考えます。狭義の精とは生殖活動にかかわる精のことです。腎精は生後徐々に充実されますが、加齢に伴い消耗し衰えます。

腎精が衰えると、老化現象である白髪、脱毛、歯の動揺、骨格の老化、生殖能力の衰えが出現します。腎精は骨の成長と発育と修復にかかわります。腎は脳、骨髄に深く関与し、脳では記憶力や思考力に関わり、骨髄では造血機能と関わります。

(2)腎は水を司る 

腎の気化作用により膀胱は尿の貯留と排泄を正常に行います。全身性の水腫(浮腫)の発生原因として、古典的中医学では次のように説明されています。

脾の昇清作用が損なわれた時、および肺の宣発粛降作用が損なわれた時に浮腫が出現する。腎の気化作用が損なわれた時には下半身の浮腫が出現する。従って、慢性腎炎に伴う浮腫の治療原則は、健脾利湿(けんぴりしつ)という脾の運化昇清を強め湿(しつ)をとる治療方法と、補腎利水(ほじんりすい)という、腎の気化作用を強め尿量を増加させる治療方法を一緒に行うこととされています。

(3)腎は気を納める臓である 納気の蔵である 

西洋医学的には理解しにくい概念ですが腎は気の根元であるとする理論です。肺に吸入された清気を受納する腎の働きとも言えます。肺は気の主で、腎は気の本で、肺は出気を司り、腎は納気を司る。陰陽相交わり、呼吸すなわち和すと呼吸にかかわる腎の関与が中医学では想定されています。腎の納気作用が減退すると、気短、喘息などの「腎不納気」の症状が出現します。非常に感覚的な概念ですが、腎の気の根元がしっかりしていないと気が浮くとされています。たとえば、小児は腎気が完成していないので、喘息などが多いとされ、老人は消耗の結果、腎気が不足して、老年性慢性気管支炎などが多いと考えます。補肺腎に働く補気薬である冬虫夏草(とうちゅうかそう)が喘息や慢性気管支炎の寛解期に使用される理論的な根拠とされます。

(4)腎精が充実していれば耳の機能も正常であり、また便の排泄も正常に調節され、性機能の維持がなされ、骨格や歯も丈夫に保たれる。恐れや驚きなどの情志変化は腎を傷害する。腎は髄をつかさどることから、情志変化が造血機能や、脳髄に与える作用があるとします。腎の在志は恐、驚、在液は粘っこい唾、在体は骨であり、 髄を生じ、華は髪、歯は骨の余(あまり)、耳と二陰(尿を排泄する陰部と便を排泄す肛門部の意味)に開竅すると中医学は説いています。加齢とともに唾液の減少が起こったり、唾液自体が粘っこい性状になってくることにも腎気(腎精)がかかわりを持ちます。

人の成長過程で、腎の精気が一定の程度に充足すると体内に生じる性ホルモン様物質を中医学では天癸(てんき、中国語でtiangui)と呼び、二次性徴を司り、生殖機能を調節するという理論があります。

 次に肝の機能についてまとめてみました。前稿でも述べましたが、記憶を新たにするために再掲します。

肝の臓腑学説

中国伝統医学の肝の機能観

肝は疎泄(そせつ)を司り、蔵血機能により血の量を調節し、血を収摂(しゅうせつ)し、筋(すじ)を司り、目に開竅し、胆と表裏関係にある。中医基礎理論が説く肝の機能です。

(1)             肝は疏泄(そせつ)を司る臓である。

疎泄(そせつ)とは、発散、昇発という意味です。あるいは疎通、発泄の意味です。

疎泄とはめぐりをよくすると単純にとらえてもいいかも知れません。何のめぐりを良くするのかといえば「気」と「血」と「情緒」と考えてください。身体の各機能が傷害無く正常に活動するためには「気」の運動である「気の昇降出入」{これを中医学では気機(きき)と呼びます}が滑らかで滞り無く行われる必要があります。「気機」を正常に維持するのが肝の疎泄作用の一つです。気の推動作用により脈管を流れる血の流れも肝の疎泄作用により、円滑に行われているとイメージすることが可能です。また臓の気の流れも良くするとともに、腑、特に胆の機能も円滑にして、胆汁の分泌、排泄を円滑にするのも肝の疎泄作用の一つです。肝の疎泄作用は、臓気としての肝気の働きですから、「肝の疎泄作用」の部分を「肝気の作用」と入れ替えても問題は無いように思います。

疎泄作用として、情緒を円滑にするという中医基礎理論には、西洋医学だけを学習してきた人間にとっては受け入れがたいものかもしれません。前述したとおり、


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