PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、排卵障害による不妊症の原因のひとつで、卵胞が比較的多く育つのに成熟卵胞がないために排卵が起こらない病気です。
PCOSの症状
最も特徴的な症状は、排卵がおこりにくいことによる生理不順や無月経です。不妊症の原因になります。未成熟卵胞では、男性ホルモンが作られるため、血液中の男性ホルモンが増加し、生理不順をひきおこす原因のひとつになります。この場合には、毛深くなることもあります。肥満を合併することもあります。無排卵では排卵後に分泌されるはずの黄体ホルモンが分泌されにくく、月経過多や、出血がとまらないなどの症状が起こりやすくなります。おこしやすくなります。その他の症状として、ニキビなどがあります。
PCOSの原因
現代西洋医学的に原因が特定されていません。
視床下部-脳下垂体-卵巣の機能失調によるものであることは
確かなようです。高プロラクチン血症の原因ともなります。
卵巣の形態的変化として画像検査で卵巣の腫大と未成熟な卵胞が数珠上に卵巣表面に並んでいるのが確認できることが挙げられます。
PCOSによる不妊症の排卵誘発法
クロミフェン療法では排卵が起こらないことが多い一方、HMGを用いて排卵を誘発すると多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こしやすい病気です。
外科的には卵巣の表面に小さな穴をたくさんあけ、排卵を促すと方法も行われることがあります。腹腔鏡下手術で行います。
PCOSの漢方治療
中国婦人科漢方医学では、PCOSは「月経不調」「不妊」「癥瘕(ちょうか)」の3分野の領域から、治療を開始することになります。
おもに、腎 脾 肝の相互の調和を改善することが大切な要素です。
腎は泌尿生殖器 性ホルモン 水分代謝と関係し、脾は消化吸収能力と水分代謝に関係します。肝は情緒変化から来る自律神経の機能や、血を貯蔵する働きと関係します。PCOSでは腎 脾 肝の不調が見られることが多く、これらを改善していくことがPCOSの治療です。
PCOSの漢方処方例
ここでは具体的に5つの処方例を示し、それぞれの特徴を述べます。
温陽化痰湯
附子 穿山甲 貝母 肉桂 熟地黄 補骨脂 皂角刺 石菖蒲 黄精
上海の婦人科学会での標準的な方剤です。肝腎を強化し、陽気を補うことを主眼とします。
温腎?痰湯
鹿角片 巴戟天 淫羊藿 穿山甲 山楂 防己 黄耆 胆南星 半夏 貝母
炙甘草
浙江省中医学院学報に発表された方剤です。
排卵を誘発し、基礎体温表で、一相性がほぼ前例で2相性になったと報告がありました。
浙江省産の貝母は浙貝母あるいは象貝母と呼ばれ、清熱 散結作用が強いのが特徴です。四川省産の貝母は川貝母と呼ばれ止咳 化痰作用が強く、呼吸器疾患で用いられます。
化痰散結湯
三棱 莪朮 象貝母 穿山甲 山慈姑 胆南星 夏枯草 皂角刺
湖北省中医雑誌に掲載された方剤です。
三棱や莪朮などの破血調経が特徴です。
当帰黄耆消嚢湯
当帰 炙黄耆 仙霊脾 菟絲子 生姜 大棗
気血両虚タイプのPCOSに用います。
加味固冲湯
黄耆 白朮 山薬 山茱萸 白芍 茜草 棕櫚炭 海螵蛸 五倍子 鍛牡蠣 鍛竜骨
沖任不固といい、生理出血が多い脾気虚のPCOSに用います。収斂止血作用を持つ生薬が特徴です。
全体を通していえることは、PCOSを腎虚として捕らえていることです。したがって補腎薬の配合が欠かせません。また「痰」「淤血」の関与から、化痰薬、祛淤薬の配合があります。また、症例に合わせて、補気養血薬、収斂止血薬の配合と、イライラしやすい、胸の張った痛み、腹が張る、ガスがたまる、ゲップが良く出るなどの「気滞症状」がある場合には、柴胡を中心とする疎肝剤と理気薬が加味されています。また、軟堅散結の考え方は全体に共通しているようです。
処方する漢方医、そして何よりも服用する患者さんの立場からは、やや面倒ですが、PCOSの治療に月経周期療法を行う場合があります。基本処方は患者さんの体質に合わせ、各周期にはそれぞれの生薬を併用します。
多嚢胞性卵巣症候群の漢方治療は、妊娠まで、およそ最長2年ぐらいの期間がかかります。あせらず、治療をしていただくことが肝要です。
婦人病の漢方治療のお問い合わせは下記URLより
漢方専門医院 岡本康仁堂クリニック
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