本日も桃黄止血湯(とうおうしけつとう)加減治療をご紹介します。
患者:崔某 59歳 工場労働者
初診年月日:1973年11月29日
病歴:
慢性糸球体腎炎病歴があり、治療にて既に緩解していたが、尿中に微量の蛋白が持続していた。1973年11月26日、過労後に腰酸乏力、少腹痛、肉眼的血尿、紫色の血塊があり、尿道は時に閉塞したが、砂石の発現はなかった。某医院で膀胱検査を勧められたが、患者は同意せず、氏を受診した。
初診時所見:
排尿時に肉眼的血尿があり紫の血塊がある。時には濃いお茶のようでもある。下腹左側に隠痛があり拒按である。腰痛、手心熱、口干、納差、舌質紫、無苔少津、脈象滑、沈取有力。尿蛋白3+、RBC満視野/HP。
中医弁証:熱結下焦、迫血妄行
西医診断:慢性糸球体腎炎
治法:泄熱涼血止血
方薬:桃黄止血湯:
桃仁20g 大黄10g 桂枝15g 赤芍20g 甘草10g 生地黄30g 白茅根50g 小薊30g 側柏葉(涼血止血)20g
水煎服用、毎日2回に分服
(印象:桂枝の効能は通行血脈であり、桃仁を手伝って破血袪瘀するものと思います。桃仁 大黄の量が氏の通常量になりましたね。)
二診:12月3日
上方服用3剤後、肉眼的血尿消失、尿道の閉塞は解消された。大便一日に2回、不溏。尿RBC50個以上/HP。手心熱、腰酸、左側の少腹はまだ微痛、舌紫やや潤、脈象沈滑で前と異なり有力。熱証既に減、前方増減にて治療。
方薬:
桃仁20g 大黄10→7.5g 桂枝15g 生地黄30g 側柏葉→側柏葉炭20g 白茅根50g 小薊30g 蒲黄炭(活血化瘀止血)15g 甘草10g
水煎服用、毎日2回に分服
(印象:赤芍を去り、側柏葉炭、蒲黄炭を加味しています。炭剤を加え止血強化を図ったのでしょう。赤芍炭は聞いたことがありません。化瘀止血作用の強い蒲黄炭にしたのでしょう。)
三診:12月17日
服薬3剤、小便の色は転淡黄、少腹隠痛消失、大便2回/日。尿蛋白2+、RBC15~20個/HP。舌紅薄苔有り、脈象沈やや滑象有り。下焦熱減、血熱妄行初めて収まる。但し、患者は年齢からも陰虚の傾向があるので、前方から辛温の桂枝を去り、枸杞子を加味して滋腎陰した。
方薬:
桃仁20g 大黄7.5g 側柏葉炭15g 白茅根50g 生地黄30g 小薊20g 枸杞子20g 甘草10g
水煎服用、毎日2回に分服
四診:12月24日
前方9剤を服用、大便やや溏、腹部僅かに不快。尿蛋白±、RBC(-)、舌淡薄苔、脈象沈。停薬し観察するように話した。随訪既に全快。
ドクター康仁の印象
初診年月日:1973年11月29日→四診:12月24日で停薬と1月足らずで全快とは見事です。現代日本では慢性糸球体腎炎(IgA腎炎を含む)、急性腎炎症候群でもいわゆる「血閉」を来たすほどの肉眼的血尿は稀です。年代は1973年、広い中国のことですから、あらゆるタイプの血尿が存在し得るという程度でいいのではないかと思います。膀胱鏡は必須です。出血性膀胱炎の酷いものか、腎由来の肉眼的血尿なのかの判断に欠かせません。
古典に戻れば桃核承気湯(桃仁 大黄 桂枝 芒硝 甘草)から芒硝を除いた基本的配伍になっていることを付記します。
2014年2月22日(土)
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