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ループス腎炎 漢方 (腎病漢方治療191報)(周仲瑛氏医案 中医雑誌2002年第11期より)

2013-10-12 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

2002年の中医雑誌の医案ですが、既に1990年代からループス腎炎として診断治療を受けていた症例です。

風毒痺阻 下焦湿熱 肝腎虚損案

患者:李某 32歳女性

病歴と初診時所見

狼瘡性腎炎の病歴7年、嘗てシクロフォスファミドの静脈内投与で脱毛が加重したことがある。

初診時、プレドニゾン15mgを維持量としていた。抗核抗体(+)、抗二重鎖DNA抗体(+)尿蛋白定性(4+)。眩暈、空腹時胃部不快感、腰酸、尿は泡立ち白い沈殿がある、大便は通常、満月様顔貌、最近帯状疱疹を再発、苔薄黄、脈細。

中医弁証証は風毒痺阻、下焦湿熱、肝腎虚損に属する

薬用

生地黄12g 淫羊藿10g(別名 仙霊脾 いかり草:温腎助陽 袪風除湿) 土茯苓20g(別名 山帰来:清熱解毒) 苦参10g(清熱燥湿 袪風止痒殺虫 利尿) 

地膚子15g(清熱利湿 止痒 蒼耳子10g(袪風湿、通鼻、解表袪風止痛) 黄精12g 黄蓍15g 青風藤15g(袪風湿 通経活絡 散瘀消腫 利小便) 炒蒼朮10g 黄柏10g 鬼箭羽15g(涼血活血化瘀) 7剤 プレドニゾン15mg/d

二診

眩暈、空腹時胃痛は既に消失、労累に耐えず、腰酸、尿には混濁沈殿あり、食欲は正常、大便正常、苔淡黄、脈細、再度補益肝腎、祛風化湿、清熱解毒の方薬を与える。原方に山茱萸10g 丹参12gを加え、14剤。プレドニゾン10mg/d

三診

尿混濁減軽、近来左側歯肉が痛み、顔面、額に波及。面部潮紅、腰酸は著しくなく、外陰部に潰瘍あり、白帯下が時に下りる、苔黄膩、舌質黄、脈細。尿検査再検で蛋白(+)、WBC(2+)。

証は腎虚、湿熱下注に属する。

薬用

粉萆薢15(清利湿濁 袪風湿 膏淋の用薬) 土茯苓20g 苦参12g 黄柏10g ?尾草15g(清熱利湿 涼血解毒 解毒止痢) 生地黄15 玄参10g 炙烏賊骨15(収斂止血 固精止帯 制酸止痛 収温斂瘡) 鬼箭羽15g 白薇15(清熱涼血、利尿解毒通淋、退虚熱) 知母10g 法半夏10g 陳皮6g ?10g。14剤。

補記:

墓?回

別名は臭脚跟で、敗醤科敗醤属の多年生草木。秋季に根を採取し、婦人科系の抗癌生薬として用いられているようです。日本での流通はありません。苦 微酸、渋 涼で脚が汗臭い匂いがすることで、臭脚跟、脚汗草の別名があります。

清熱燥湿、止血、抑癌の効能があります。

中成薬で治帯片? 蒼朮 知母 苦参 金桜子からなる錠剤)があります。

治帯片の帯は帯下の意味であり、婦人科の帯下病に対する中成薬です。

四診

歯肉痛は寛解、面部潮紅は不著、尿黄泡立たず。経血少色淡、苔黄膩、脈細。尿WBC(+)。原方から炙烏賊骨、墓?回を除き、地膚子15g 車前草12gを加味する。プレドニゾンは5mg/dに減量。

経過

上方服用半年、病情安定、尿検査(-)、ステロイドは既に中止、なお中薬を継続し治療効果を固めた。

評析

狼瘡性腎炎はSLEに合併する免疫複合体性の腎炎であり、SLEの主要な合併症であると共に、主要な死亡原因でもある。中医はそのメカニズムを研究するに、肝腎虚損と熱毒亢盛以外に無いとする。周氏は本病を肝腎虚損、陰血耗損を本として、風毒痺阻、絡熱血瘀を標とすると認識し、治療には培補肝腎の品を多用し、血分の熱証にも留意し、肝腎の陰を保護する。風毒、瘀熱も重要な病因として、故に、袪風解毒、清熱化瘀の品を選択することは無論のことである。雷公藤、鬼箭羽、青蒿、蜂峰房、烏梢蛇のような品である。標本兼顧を堅持する用薬が特徴であり、中薬と西洋薬(ステロイド)ホルモンを併用配合することを重視する。

ドクター康仁の印象

周仲瑛氏の医案は以前紹介しました。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130312

一般人には初めて目にする生薬名も多いでしょうが、上記の記事にはほぼ似たような配合が見られますので、御一見下さい。

周氏略歴は、1928生 前南京中医薬大学学長 国家級文化遺産伝統薬項目代表性という長い肩書きが付いています。

それにしても、「風毒」とは非常に観念的な病因用語ですね。氏が初診した時に帯状疱疹が残存していたのでしょうか?ヘルペスウイルスによる帯状疱疹の発生メカニズムは西洋医学的に明らかになりつつありますが、「風毒痺阻」とは難解過ぎますね。

氏が初診するまでにステロイド剤は既に7年間投与されていたということになります。思考実験になりますが、7年前に氏が初診したら、ステロイド、免疫抑制剤は、どのような投与方法になったのか?あるいは使用しなかったのか?評析には「氏は中薬と西洋薬(ステロイド)ホルモンを併用配合することを重視する。」と有りますが、直接的な証拠は無いようですね。

初診時の抗核抗体(+)、抗二重鎖DNA抗体(+)の記載ですが、通常は血清の希釈倍数などの半定量的な記載をすべきです。ただ陽性だっただけでは不十分だからです。氏の治療後に抗核抗体のパターンの変化があったのか?加えて、それぞれの抗体価は低下したのか、変化しなかったのか?貴重なデータなのですが、言及がありませんね。中医案の特徴がまた現れています。

専門的になりますが、SLEという自己免疫疾患の活動性はどのように変化したのかという問題なのです。中医学は定量性を欠くとよく言われますが反論できないのです。尿検査(-)という記載の仕方も、尿検査で異常なしの意味でしょうが、尿検査無しとも読める訳で、不正確ですね。

20131011日(金) 記


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