桂枝湯 桂枝加附子湯との関係
冷えの治療に桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)が使用されている症例も多い。エキス剤になっているためでもあろう。
桂枝加朮附湯 江戸 吉益東洞(よしますとうどう)
江戸中期、傷寒論を手本とする「古方派」の一人で「万病一毒説」で異彩を放つ吉益東洞の考案した方剤である。張仲景とその著『傷寒論』のみを師表としたという。桂枝加朮附湯の組成は
桂枝 白芍 生姜 大棗 炙甘草 ?朮 附子であり、「傷寒論」の桂枝湯に?朮と附子を加えたものである。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。
効能は、桂枝湯と同じく調和営衛に散寒祛湿の効能が加わる。
方剤論で言えば、桂枝湯類似証に寒湿による冷え、浮腫み、関節痛などが加わった病態に用いられると言えそうだ。なぜ確定的な理論が無いのかの理由は、この方剤そのものが江戸時代の日本産であり、漢日折衷の方剤であり、中国の方剤学の清書には解説がされてないからだ。経験的に寒湿による冷えや関節痛に用いられる。附子は桂枝の通陽を補助し寒を除く。?朮は燥湿健脾作用にて湿邪を除く。浮腫み、眩暈などの水湿の症候が著明であれば利水滲湿の茯苓を加えてもいい。この場合は桂枝加苓朮附湯という。また、背部の筋肉の強張りなどを伴う場合には、桂枝湯に代えて葛根湯を用いた葛根湯加朮附湯も効果的である。
エキス剤桂枝加朮附湯の適応症
さて、現代のエキス剤の桂枝加朮附湯の適応症として、メーカーの説明書きによれば、悪寒を覚え、尿が快通せず、四肢の屈伸が困難なもので、急性および慢性関節炎、関節リュウマチ、神経痛、偏頭痛に用いると述べられている。これでは何のことやらわかりずらい。寒気のある神経痛、偏頭痛はまだしも、寒気があって、尿の出が悪い急性関節炎あるいは慢性関節リュウマチでは甚だ使い勝手が悪い。
おそらくは傷寒論の「桂枝加附子湯」の方証の中の「その人悪風し、小便難く、四肢微しく急し、もって屈伸し難きもの」をそのまま引用している間違いから生じているものと考えられる。理解を進めるために、桂枝湯、桂枝加附子湯の順で整理する。
桂枝湯証とは?
張仲景の「傷寒論」の「太陽病証」の「中風」に出現してくる。「中風」といっても、現代の脳血管疾患ではなく、「風寒(ふうかん)」の邪気に中る(あたる)という意味である。
太陽病の主証は原文では、脈浮、頭項強痛、悪寒の3つであり、さらに、現代中国医学で「太陽中風表虚証」とされる悪寒、発熱、悪風、頭痛、脈浮緩、自汗、鼻鳴、乾嘔、身痛などの諸証がいわゆる「桂枝湯証」である。
「表虚」と「表実」の違いは、ある意味、中国医学の習慣的な呼称であり、有汗を「表虚」、無汗を「表実」と単純に覚えても構わない。
ごく単純に言えば、カゼを引いて寒気がして、熱があり、たらだがぞくぞくして、頭が痛く、体の節々が痛く、鼻水や鼻づまりがあり、オエーっと空吐きがあり、かつ汗がでるような場合を「風寒表実」といい、「桂枝湯」が適応になる。いっぽう無汗の場合は「麻黄湯」が適応になる。
桂枝湯の方薬理論(方剤学)
辛温解表剤の桂枝が君薬で、通陽散寒によって風寒を発散させて除く。白芍は益陰斂営に作用し多量の発汗を抑える。生姜は桂枝の作用の補助と胃気を下降させ吐き気を抑える。大棗、炙甘草は白芍とともに酸甘化陰によって養陰に働く。生姜と大棗は脾胃を強化し、以って営衛を補充させる。炙甘草は諸薬を調和するとともに、辛味の桂枝、生姜とともに辛甘化陽により、営衛の調和を為す。
以上のような方薬理論(方剤理論)は張仲景自身が「傷寒論」中で述べたものではなく、後世永きにわたって中国医学の独自の理論によって解説が加えられたものである。
滋陰和陽 営衛調和 解肌発汗の作用を持つ桂枝湯は仲景群方の魁(さきがけ)であると称されている。
中国医学に慣れ親しむには独自の四文字熟語に慣れ親しむことである。
桂枝湯証を発生病理学的に解説すれば、、
「風邪襲表し腠理(そうり)が開いて衛強営弱による営衛失調が病理である。」と中国の漢方医は答えるのであるが、西洋医学で何十年も凝り固まった私のような頭には当初は何のことやらわからなかった。中医基礎理論を学んではじめて感覚的にとらえることが出来るのである。
外邪が体表を侵襲すると、気の中の防御作用を司る衛気(えき)が体表部に集まって外邪と争いを始め、衛気の働きが盛んになる。これを「衛強」という。一方、腠理(そうり)(毛穴)が開いて血管内の営気(主として津液、血が血管外に漏れ出ないように固摂する気)が弱くなり、汗となって失われる。これを「営弱」という。ここまで来ると「衛強営弱」が感覚的にとらえられるようになる。この衛強営弱は営衛不和ともいう。衛気と営気の正常のバランスが崩れた状態だからである。決して仲が悪い意味ではない。
また、衛気(陽に属する)が体表に集まり、営気(陰に属する)が汗となりうしなわれるので浮陽陰弱とも言うわけである。
中医基礎理論では気の作用として、固摂作用があり、血液、津液の血管外への流出を防ぎ、汗、尿、精液などの分泌を調節しているとする。また、いったん大量の発汗があると気随津脱といい、気もまた失われると説いている。つまり、気の固摂作用の低下は異常な発汗を起こし(自汗)、その発汗のためにさらに気も失われる。これが「営弱」であると私は理解した。
桂枝加朮附湯の前に桂枝加附子湯がある、、
桂枝加附子湯は桂枝湯に附子を加えたものである。
傷寒論原文には「太陽病、汗を発し、遂に漏れ止まらず、その人悪風し、小便難く、四肢微しく急し、もって屈伸し難きものは、桂枝加附子湯これを主る」とある。
表証に対して発汗させすぎたため、津液とそれに伴う気の外泄までもおこり、陽気外泄のために陽虚による寒がりがおこる。衛気が不足して、腠理(そうり)(毛穴、汗腺)の調節機能が失われ、開きっぱなしの腠理から発汗がますますひどくなって止まらなくなる。そのために寒がりはますます強くなる。西洋医学的には脱水傾向が出現するために尿量が少なくなる。陰液不足のために手足の筋肉の引きつり、こむら返りなどが起こる。いわゆる脱水と電解質異常が生じるための「四肢微しく急し」である。この場合に、桂枝湯による調和衛営とともに、附子で失われた陽気を回陽し、衛気を実して汗を止め、温経復陽、固表止汗させる。
桂枝加附子湯に?朮を加える目的と、方意は?
?朮は燥湿健脾に働き、湿を除く。元来、脱水傾向のある多汗者、陽虚者に桂枝加附子湯を用いるのだから、これに?朮を加えた方剤である桂枝加朮附湯は、方証はおのずと異なってくるはずである。なぜならば、?朮を加味することによって、脱水、四肢部微急の症候の改善は得られず、むしろ悪化させる可能性もあるからだ。
従って、桂枝加朮附湯は、桂枝加附子湯証である「汗を発し、遂に漏れ止まらず、その人悪風し、小便難く、四肢微しく急し、もって屈伸し難し」プラス「湿邪による諸症」に対する方剤ではない。
桂枝、附子と?朮により通陽散寒祛湿作用により、寒邪による痛みを軽減することが主たる目的であると思われる。従って、桂枝湯証の自汗も、桂枝加附子湯証の小便難も必要な方証ではない。
寒湿による冷えや関節痛に用いられると単純に理解しても構わないだろうし、そのような使用方法でも副作用は無いと思われる。
附子は生姜とあいまって、桂枝の通陽を補助し寒を速やかに除き、?朮は燥湿健脾作用にて湿邪を除き、以って寒湿による「痛み」に使用されるのである。
続く、、
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます