通導散との比較
いつごろかは知らないが、便秘を伴う女性の冷えの治療剤として桃核承気湯や通導散が紹介されるようになった。多分、漢方医のどなたが言い始めたことによって、薬局の薬剤師さんらも患者さんに勧めるようになったのかもしれない。便秘、肩こり、不安感、のぼせ、不眠などがあって、なおかつ足腰の冷えがあるような場合に桃核承気湯が有効であると紹介している製薬会社のホームページも存在する。
私自身は「冷え」の解消目的に桃核承気湯や通導散を使用したことはない。果たして「冷え」に有効なのであろうか?こうした疑問を持つ場合には、私はまず方剤を構成している生薬から判断することにしている。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう) 漢代 「傷寒論」
桃仁 桂枝 大黄 芒硝 炙甘草 が組成である。傷寒論では下焦蓄血証の代表方剤とされる。下焦蓄血証に関しては論が複雑になるので、その発生病理は省略するとして、
大黄 芒硝 甘草の「調胃承気湯(ちょういじょうきとう)」から発展した方剤である。大黄 芒硝はそれぞれ苦寒、咸寒の代表的な下剤であり、大黄には活血作用もあり、瀉熱駆瘀、瀉下軟硬の作用をもち、熱による燥邪が原因の便秘を下す寒下熱結剤である。従って体を冷やす方向に作用する。
桃仁は瘀血を除く活血化瘀に作用する。薬性は平である。
唯一、辛温薬の桂枝が含まれる。桃仁の活血化瘀の作用を助け通行血脈の作用を持つ。
含有される量は一般に大黄と桃仁が最も多く、通常は桂枝と芒硝はほぼ同量である。体を内部から温めるような温里散寒剤は配合されていない。
傷寒論原文では桃核承気湯証として、兼表症あるいは無表症、発狂あるいは如狂、消穀善飢、小便自利、少腹急結あるいは鞕便、舌質紫、脈沈渋とある。決して冷えなどを示唆する文言は無い。熱邪と血が腸において結する蓄血証であるから、冷えという症候は無いのである。
現在の臨床応用は、下焦蓄血症に対して使用され、瘀血の関与する子宮筋腫や婦人科痛経、消化管出血などである。
現代エキス漢方で言われている桃核承気湯の効用
ところが、時代が変遷して、とくに桃核承気湯が保険収載されてからは、いろいろな有効症状が報告されてくるようになった。「冷え」とか「ニキビ」などである。
大まかに言えば次のような報告がされている。「のぼせ 月経困難 精神不安 皮膚が赤黒い 左の下腹部に圧痛がある、固太りタイプであり、のぼせがあるが手足は冷える、ニキビもある。」という具合である。
確かに便秘気味でニキビが多い女性はいるが、便秘があればすべてニキビにつながるわけではない。また、瘀血証があって、ニキビに青い芯が出来やすい女性が要ることも確かであるが、桃仁のみでニキビが軽快する例は少ない気がする。おそらく大黄の清熱解毒作用や活血作用が相乗効果をもたらして、ニキビの赤みや取れにくい芯の色素沈着を軽減するのかもしれない。
しかし、手足の冷えが改善したという症例は私自身では皆無のような気がするが、、、
通導散(つうどうさん) 明代 万病回春
組成は大黄 芒硝 枳実 厚朴 当帰 陳皮 木通 紅花 蘇木 甘草である。大黄 芒硝 枳実 厚朴 甘草は寒下方剤の代表である大承気湯(だいじょうきとう)であり、陽明腑実症の熱結便秘に対する峻下熱結剤であり、承気湯類では最も寒下作用が強い組み合わせである。それに、理気剤の陳皮、通絡剤の木通、活血化瘀の当帰 紅花、活血消腫の蘇木を加味したものと理解できる。
万病回春には「大小便不通、瘀血不散、肚腹膨張、上亢心腹、悶乱致死」と打撲性の重症内出血に使用するとある。
しかしながら、現代では便秘しがちな生理不順 生理痛 更年期障害 腰痛 打撲 頭痛、眩暈、肩こりなどの高血圧症の随伴症状に保険適応がある。広く気滞血淤証に便秘を伴う場合に使用されている。冷えが主症の一つである場合には、もっと有効な方剤があることは言うまでもない。通導散には桃核承気湯に含まれている通行血脈作用をもつ桂枝は含まれていない。
マトメ
以上を総合すれば、桃核承気湯や通導散は両者共に寒下剤である調胃承気湯、大承気湯に、活血化淤剤を加味したものと理解できる。
日本女性には寒症と便秘が多い。その便秘の治療剤として承気湯類の寒下剤は内寒を悪化させるのでふさわしくないと考えられる。
また、寒が原因の寒凝血淤の症例も日本女性に多い。それに対しては、温薬である当帰、莪朮、紅花、川芎、延胡索などの理血剤が適しているように思われる。
いずれにしても、巷の雑誌にあるような「冷えに対する効果」は、桃核承気湯 通導散の両者には期待できないと思われる。
続く、、
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