癌で極度の消耗を来たしている患者さんには小生は迷わず人参を勧めている。しかし、値段が高いのが問題であり、正直言って、患者さんによっては経済的な負担が大きい場合には本物の人参は処方できない場合が多い。
人参(にんじん)には養殖人参と野生人参がある。
もちろん本物の野生人参が高貴薬であり、吉林省長白山で産出されるものが最良とされ、価格は一般の養殖人参の数十倍以上もする。現代中国の野生人参の国家等級の最低ランク5等級でも、
1gあたり400元(日本円で6000円)以上もする。全体で11g~15g以上の国家1等級の野生人参ともなると、
最低価格が600元(日本円で9000円)以上であり、例えば11gの人参は、単純計算で9万9千円が最低価格となる。つまり純金より高いのである。
野生人参は何ゆえに、かくも高いのかといえば、生産量が少ないという理由はもちろんのこと、その優れた薬効にある。
中国の長寿富裕層で万能薬として愛されてきた野生人参の効能は古来より次のように賛辞され、半ば信仰に近いものすら感じる。
人間の生命力を増強し、手術前 病中 病後の体力増強 回復に優れ、免疫力の増強(防癌 抑癌 制癌)はもちろんのこと、男性においては
性能力の維持 増強 回復(回春)に、女性においては早期更年期障害の改善(更年期が早く始まる女性に良い)に効果絶大であるという信仰である。
現代の薬理学による人参の分析は始まったばかりである。今までの知見をのべてみると、
1.ホルモン系を介する唾液腺の活性を高める
唾液腺の働きは単に消化液を出すにとどまらず、老化を防止する唾液腺ホルモンの働きが注目されており、
人参が唾液腺の働きを活発化させるという事実は、アンチエイジング(抗老化)の観点から注目されている。「よく噛んで食べろ」の教えは正しいのである。
2.動物実験で血糖を下げることが確認されている。
この作用は、生体の臓器の糖の利用を、人参が活発化させることと関係していると言われています。しかし、インスリンの絶対量が極端に不足している1型糖尿病では効果が薄いようである。
3.慢性炎症に伴う血液の過凝固状態を改善し、結合組織の増殖を抑える
この作用は、慢性の炎症性疾患の治療に人参が役に立つという可能性を示しているが、局所の熱がある場合には慎重に使用したほうがいいのが小生の経験である。
4.人参には造血機能を活性化させる成分が含まれる
古来より「気は血を生む」と中国漢方では言われており、
気を補う補気剤として代表的な人参は造血機能の改善を介して、
貧血や白血球減少に対する効果が優れている。この作用は、小生の経験では西洋抗がん剤による骨髄抑制からの早期回復に絶大なる効果をしめす。また、ある種の貧血症に対しても著効がある。
野山人参が高くて手が出ない場合には、仕方なく養殖人参を使用しているが、満足のいく効果が得られない。歯がゆいばかりであるが仕方がない。本場中国ですら、国民100万人に一人程度しか本物の野山人参は常用できないのが現実だからである。中国の人口を10億人と概算すると1000人の中国人が1日1gの野山人参を服用すると仮定すると、中国全体の野山人参の年間産出量をはるかに越えてしまうのである。