ドクター康仁流 黄耆の書き方。
黄芪、黄蓍、黄耆はいずれも同じ(おうぎ)です。本来は草冠が有りますが、現代日本では黄耆と記載するのが普通になってきました。現代中国では黄芪です。ことさら漢字に拘るなら黄蓍です。私は上海時代には黄芪、日本に帰ってきてからは黄蓍と黄耆は半々程度、最近は専ら黄耆ですが、時々黄蓍を使います。急ぐ場合は黄芪です。
①補気昇陽②益衛固表、(衛気の衛)③托毒生肌 ④利水消腫の効能は既に紹介しました。甘/微温で帰経は脾と肺です。ざっとおさらいしておきましょう。
①補気昇陽の特徴は、脾、肺の気虚に使用され、特に脾胃気虚、中気下陥(脱肛、子宮脱)に有効で人参と一緒に使用される。生黄蓍より炒黄蓍が補気昇陽作用が強い。補中益気湯の君薬が人参ではなく黄耆である理由です。
②益衛固表、(衛気の衛)の作用とは、
衛気を養い止汗作用、抵抗力を増加させる作用であり、
喘息や気虚の寒邪の風寒に(精気不足の人のカゼに)使用される。
有名方剤:白朮と共に「玉屏風散」小児の反復性扁桃腺炎の予防治療に効果的。
③托毒生肌の作用とは、熱毒が深い所にある瘡瘍に用いる。皮下の膿瘍を早く排出させる。非感染性の「貼骨疽」に用いる。感染性瘡瘍には早期には用いない。
虚症の寒邪の瘡瘍に用いる。
④利水消腫作用:
健脾利水が機序であり、脾虚による水湿停滞などに用いる。
ドクター康仁流 参耆の読み方。
同じく補気薬の代表である人参も帰経は脾と肺です。
私は中国語人参(レンシェン)の読みに慣れていて、参耆を(さんぎ)と読む習慣がありますが、市民講座につき、ここで日本流に参耆地黄湯(じんぎじおうとう)と改めます。
医案に進みましょう。
患者:于某、48歳 女性
初診年月日:2000年8月30日
病歴:
慢性糸球体腎炎病歴4年余、尿蛋白1~3+、軽重を繰り返し、2000年8月の検査にて、Cre179μmol/L(2.01mg/dL)、BUN9.1mmol/L(54.1mg/dL)、尿蛋白2+、血圧140/90mmHg。患者は病情加重によって精神的に緊張し、氏を受診した。
初診時所見:
腰痛腰酸、倦怠乏力、夜間尿2~3回、尿色清長、時に眩暈あり、大便溏、脈沈、舌淡胖歯痕有り、苔薄白。
中医弁証:脾腎両虚、固摂失司、精微外泄の証
西医診断:慢性糸球体腎炎
治法:益気健脾、補腎填精
方薬:参耆地黄湯加味:
熟地黄20g 山茱萸15g 山薬20g 茯苓20g 澤瀉15g 牡丹皮15g 肉桂7g 附子7g 黄蓍30g 党参20g 菟絲子20g 金桜子20g
水煎、毎日2回に分服。
二診
前方を基礎として加減治療2ヶ月、腰痛腰酸皆好転、全身有力、夜間尿は(やや減少し)1~2回、大便正常。尿蛋白―~±、腎機能検査は回復して正常範囲になる。血圧基本的に安定。本院自家製の清心蓮子丸を服用させ治療効果を固めた。
三診
2002年3月、尿蛋白±、血圧130/80mmHg、Cre106μmol/L(1.19mg/dL)、BUN6.6mmol/L(39.6mg/dL)。精神体力共に好転し、既に仕事に復帰一年余。
ドクター康仁の印象
熟地黄から附子までは桂枝を肉桂に変えてありますが、肉桂八味地黄丸で補腎陽に作用、さらに参耆で益気健脾(人参は益気養陰の党参を使用しています)、莵絲子は薬性が平ですが補陽、さらに固渋精気の金桜子の組み合わせです。
最終的には清心蓮子丸で益気養陰、清利湿熱で緩解に導くのは張琪氏の得意とするところですね。
細かいようですが、補腎填精の「填精」といえば血肉有情の動物性薬剤(阿膠、亀板膠、鹿茸、鹿角、鹿角膠、海馬、海参など)を指す場合が多いと認識していますが、本案では見当たりません。莵絲子を以って填腎精とするのは少し言いすぎではないのかと常々思っています。
2014年 3月5日(水)