citron voice

詩人・そらしといろのブログ~お仕事のお知らせから二次創作&BL詩歌まで~

南北シンメトリー *北の都の話*

2006-11-15 22:17:07 | つくりばなし
昨日の晩から降り始めた雨は、今朝も止まない。
カーテンを開けて窓に寄った。指でそっと硝子を辿ると、まだ空っぽの僕の身体に
外の寒さが凍みこんだ。
濃紺のダッフルコートを着込んで、対照的な雪白のマフラーを首に巻きつける。
それから抹茶色の手袋をはめて、冬支度は完璧だ。
けれど、玄関に居るだけで手足がかじかむ。外に出ればもっと。
学校に行く日も残りわずかだ。冬休みが近い。

元々ここは雪深い町で、ここ近年で珍しくなってしまった雪景色を求めてやってくる人々が大勢居る。今年もそんな頃合になった。

傘を差して体と鞄が濡れないように、ゆっくり歩いた。
冷たくて重たい雨粒が傘を滑り落ちていく。吐き出す息はただただ、白い。
こんな雨がこれから1週間降り続いた後、透明な雨粒が白色に染まって舞い落ちる。
頭上でバサバサと大きな羽音がした。
見上げると、数え切れない渡り鳥の群れ。

四季がなくなった世界に混乱しながら、渡り鳥は南へ渡っていく。

この町は秋と冬という季節に似た環境なのだと学校で教わった。
南は夏という季節に似ているそうだ。
僕は南には行った事がない。南も観光産業で有名らしい。
僕が毎日見ている海はちょうどこのコートに似た色で、暗くて冷たいものだ。
けれどこの前写真で見た南の海は、空のような青だった。
少しうらやましい。

気まぐれに左手の手袋を外して、氷に似た空気を掴んでみた。
爪の間から入り込んだ冷気は全身を駆け巡る。
手袋をはめなおしても左手は冷たさを保っていて、それが心地よかった。

そうか、南の人はこの冬の寒さを知らないのだ。

この町が一年の中で一番寒く冷たくなると、一番美しくなる。
一日でも早く、手の平に掴めないほどの冷たい空気になればいい。
雪の結晶がきらきらと光る朝を待ち焦がれている僕が居た。