4月8日(日)に、
耳猫風信社さん主催の読書会「『さくら、うるわし』を読む」が、国分寺の
くるみギャラリーさんにて開催され、無事に終了いたしました。
ご来場いただいた皆さま、どうも有難うございました。
当日は、ソメイヨシノはすっかり咲き終わり、代わりに八重桜がもわもわと揺れている、お釈迦様の誕生日でした。
読書会ということで、長野まゆみさんの小説『さくら、うるわし』をひも解いていくお話をしました。
長野さんとトークをしていた身としては、話すこと・聞くことの両方に集中していたものの、90分間のトークタイムが終わる頃には、何がどのように広がっていったか、定かではない部分もありますが、断片的にトークの内容を記しておこうと思います。
※『さくら、うるわし』の内容のネタバレにもなりますので、ネタバレが苦手な方はご注意ください。※
・犬の字のこと
『さくら、うるわし』の第1話「その犬に耳はあるか」をひも解く、犬の字のことについて。
現在使われている常用漢字では、例えば「突」や「器」の大の字の部分が、旧字体では犬の字であった。
ほかにもたくさんの漢字から犬が消えて、大の字、つまり人を表す大の字で構成する漢字が増えてしまった。
犬であることに意味があり、漢字の物語が成り立つ。
(漢字のなかに犬がいる場合の多くは、儀式の生贄として屠られた犬を表す。)
そのことを、漢字のスペシャリストである白川静さんの御本を紹介しながらお話ししました。
・柾のこと
「左近の桜シリーズ」に出てくる柾さんは、実は柾は本名ではない呼び名であることが明かされました。
この柾さんのお名前は、「真青木(マサキ)」というニシキギ科の植物に由来するとのこと。
「風土記」に登場する中国原産の「杜仲(トチュウ)」という植物の代用として、「真青木」は使われたそうです。
ちなみに、「杜仲」の和名は「はひまゆみ」だそうで、長野さんのお名前にも繋がります。
桜蔵が成長することによって、柾が持つあやかしを祓う力と桜蔵があやかしを引き寄せる力が拮抗してくるのでは、というお話しもありました。
また、桜蔵が『さくら、うるわし』では、柾の家に住む訳ですが、柾の家の描写がほとんどないのは、遠子さんの力のおかげであやかしが家に現れないため、ともおっしゃっていました。
・植物の桜にまつわるお話
桜で思い出す漢詩は、井伏鱒二訳の「勧酒」。
和歌は、在原業平の「さくらばなちりかひくもれおいらくのこむといふなるみちまがふがに」。
桜の古名は、「葉々香(ハハカ)」。現代に伝わる桜餅の葉のように、葉の薫りを楽しんでいたために呼ばれていたという説。
桜と言えば、ソメイヨシノ。その寿命は50年ほど。接ぎ木によって増えていく樹木のため、クローンであり、桜並木のトンネルができるのは、枝同士が互いを仲間だと認識するため。それが逆効果となって、自ら日照不足を招くことも。
・当日の花祭りにもちなんで「千早の歌」
「千早振る卯月八日は吉日よかみさけむしをせいばいぞする」という「千早の歌」。4月8日のお釈迦様の誕生日をお祝いして、お釈迦様の像に甘茶をかける行事があり、その甘茶で磨った墨で「千早の歌」を紙に書いて、お手洗いに逆さまにして貼ると虫よけになるというおまじない。今ではほとんど見かけなくなってしまった、江戸の風俗。
・墨と硯のこと
『さくら、うるわし』のなかでも、それ以外の物語でも、たびたび登場する墨と硯。
これは、長野さんが「紙に書く」という行為を意識しているため、繰り返し用いるモチーフだということでした。
また、良い墨は良い硯で磨らないとほんとうの良さが出てこないそうです。
・手紙にまつわるお話
中原中也が手紙魔であったこと。友人と話すはずの内容が、友人が来なかった際に手紙にしたためて送っていた。そのとき用いていたのが封緘(フウカン)はがき。三つ折りにして使い、はがきと同じ値段で送れる。送り先を間違えていようが構わず、自分から相手へ訪ねていって話を回収していたそう。
多羅葉(タラヨウ)の木の葉っぱには文字が書ける。葉に傷をつけるとタンニンが分泌され黒っぽい色が浮き上がる。これがはがきの始まり、という説もあり、昔の郵便局にはよく植えられている木だった。長野さんは子ども時代に、子ども会でレクリエーションをしてくれる年上のお兄さん、お姉さんから教わったそうです。
・詩集のこと
『さくら、うるわし』の第3話「ありえないことについての、たとえ」で、ブックカフェにて桜蔵は手に取った本を、一発で詩集だと判断できたのは、ページに余白が多いことや、本の造りの特徴を柾に教わっていたから、というお話し。
この詩集『緑の月』は、見る者によって詩集であるかもしれず、画集であるかもしれない、あやしい力を持った本かもしれない、というお話しもありました。
長野さんが学生時代の頃、「マリクレール」というファッション雑誌では、フランスやドイツの文学が紹介されており、外国の詩や文学に触れるきっかけになったとおっしゃっていました。
・海ほたるの思い出
『さくら、うるわし』の第4話「その犬の飼い主に告ぐ」に登場する、東京湾アクアラインと海ほたるの描写。桜蔵は海ほたるのエレベーターに乗ったことで異世界の浜辺へたどり着きます。長野さんに、「日常と異世界はすぐに繋がるものとしてお考えなのでしょうか」と質問したところ、そうではなく、長野さんが海ほたるへ行ったときが、たまたま濃霧のときで、ちょっと先も見えず、海に落ちてしまいそうな雰囲気が印象に強く残っていたから、というご回答をいただきました。
また、長野さんが子ども時代に房総半島へ海水浴に行く際は、その時に飼っていた九官鳥も一緒に連れていっての家族旅行だった、という思い出話もご披露してくださいました。
……私が思い出せる限りの、当日のトーク内容は以上です。
ほかにもきっと、こまごまとした寄り道のお話しがあったと思いますが、それらは桜の花のように散って崩れてしまいました。
第1回の読書会だったので、いつかまた、第2回の開催があるかもしれません。
長野さんが年内の開催は難しいとおっしゃっていましたが、いつかの第2回読書会の開催を、私自身も楽しみにしています。