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「辺境」日本の世界史的な意味(5)相対主義の強み

2020年04月20日 | 相対主義の国・日本
「普遍的な文明」の絶対的な理念や中心軸、宗教をそのまま自文化の中に持ち込めば、自分たちの根底にある相対主義の文化が脅かさるから、無意識のうちに拒む。しかし、その相対主義を脅かさないかぎりでは、他文明の個々の成果をためらいもなく受け入れ、それをいつの間にか自分に合うものに造り変えてしまう。そこに日本文化のユニークさと不思議さがある。

日本文化の特異さのひとつは、「普遍的な文明」の「世界標準」によって完全に浸食されてしまわずに、農耕文明以前の自然崇拝的で、縄文的な文化が現代にまでかなり濃厚に受け継がれたことだ。これは世界史上でも稀有なことである。儒教や仏教を受容したときも、自分たちが元来持っていた自然崇拝的な宗教にうまく合うように変形した(神仏習合など)。

「世界標準」とは、まずはキリスト教、イスラム教、仏教、儒教など、それ以降の文明の基礎を築くことになった普遍宗教であろう。そして、それらの普遍宗教に基づいて生まれた文明の原理であろう。たとえばヨーロッパ文明は、キリスト教をひとつの基礎としながら、また一面ではそれと対抗しながら、近代の各種原理を生み出していった。「自由」「民主主義」「人権」「合理主義」「科学」「進歩」「自由主義経済」などがそれにあたる。そして、それらが現代のもっとも強力な「世界標準」になっていったのである。

「世界標準」の普遍宗教は、激しい闘争の中で民族宗教の違いを克服することによって生まれたとも言える。それもあって、それぞれの普遍宗教を背景にもつ「世界標準」自体は、お互いに相容れない傾向がある。自分こそ「世界標準」だと言い張って互いに争うのである。現在までのところ、その勝者が近代ヨーロッパだったわけだ。

ところが日本人は、そうした「世界標準」の原理原則にこだわらずに、自分たちに合わせて自由にいくつもの「世界標準」を学び吸収してきた。自文化のアイデンティティを根底から脅かすものはほとんど無意識に拒否するという強固な傾向により、一神教だけではなく、奴隷制も宦官も科挙も日本には入ってこなかった。しかし、一度取り入れたものは、その背景にある原理原則にこだわらず自由に組み合わせて、そこから独自のものを生み出すことができた。神道を残したまま儒教も仏教も西欧文明も自己流に消化し、併存させたのである。その受容性、あるいは相対主義こそが日本文化に豊かさと発想の自由さを与えた。

《引用・参考文献》
(1)「原型・古層・執拗低音―日本思想史方法論についての私の歩み」(『日本文化のかくれた形』加藤周一・木下順二・丸山真男・武田清子編、岩波書店、1991年所収)
(2)『日本辺境論』内田樹著、新潮新書、2009年
(3)『日本とは何か』堺屋太一著、講談社、1991年
(4)「日本文化の選択原理」小松左京著(『英語で話す「日本文化」』講談社インターナショナル、1997所収)
(5)『ユニークな日本人』グレゴリー・クラーク、竹村健一著、講談社現代新書、1979年
《関連図書》
日本人にとって聖なるものとは何か - 神と自然の古代学 (中公新書)
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見
ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)
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