BOXING観戦日記

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Naito-Kameda: Why Networks Should Care (But Won’t)

2009-08-23 01:38:15 | Translated Boxing News
boxingscene.comでおなじみの辣腕記者Jake Donovan氏の許可のもと、当ブログ管理人の「涼しい木星」の文責において翻訳版をお届けします。アメリカ人記者が内藤対亀田をどのように見ているのか、それを知る貴重な手がかりになればと思うと同時に、日本という国のスポーツジャーナリズムを見直してみる良い機会にもなると思います(私はDonovan氏の見方に全面的に賛成しているわけではありません、念のため)。事実の誤認などがあれば、訳者の責任とお考えください。原文はhttp://www.boxingscene.com/?m=show&id=21712を参照のこと。

内藤vs亀田:アメリカのTV局が何故注目すべきなのか(そしておそらく注目しないのか)
2009年8月21日 ジェイク・ドノヴァン記

アメリカに本拠を構える他のプロスポーツがアメリカ国内だけに金を払って、滅多に国境線を超えないとすると、それらのスポーツはどうなるのか。ふと立ち止まってこういうことを考えた経験がおありだろうか?

おそらくだが、それらのスポーツは我々が愛するボクシングというゲームと肩を並べることになるだろう。

ここで主張しておきたいのは、我々は時代を超えるような秋のシーズンに目を向けているということだ。すべてが順調であれば、スケジュールがいっぱいになっていることに疑問の余地はない―はずだった。

スケジュールの中で最も注目されていた試合が早くもなくなってしまったのである。ケリー・パブリックがポール・ウィリアムスを相手にミドル級タイトルの防衛戦を行うはずが延期となり、試合そのものが中止されるのではないかという懸念も捲き起こっている。

もしこの試合が実現すれば、同一階級の最高の選手同士の対戦、あるいは2人のパウンド・フォー・パウンド候補が特定体重(所謂キャッチウェート、契約体重。別のケース、たとえばパブリックvsウィリアムスの場合は一方のボクサーがもう片方のボクサーの階級へと上げる)で戦うという最近の流行の試合の一つになることだろう。

上の記述に当てはまりながら、アメリカのどの放送局の経営上層部のレーダーにも捉えられていない特定のカードがある。注目されてしかるべき試合である。というのも、そこには拳二つで夢と金を掴むという最高レベルのプライズファイティングにあるべき要素の全てが込められているからだ。

掘り下げた視線で見れば、内藤大助が自身のフライ級リニアル王座をワイルドな人気者、亀田興毅を相手に防衛するというファン待望の一戦に当てはまる作為的アングルなどありえないということに気付くだろう。

だがインターネットで時折見かける報道を別にすれば、日本ボクシング史上最大のイベントの一つになるであろう一大興行をアメリカの主要放送局が購入・放送してくれるのを固唾を飲んで見守るのはやめたほうがいい。

試合は東京で11月29日に行われることが内定しており、日本中が関心を寄せている。それもボクシング界の悪童(=boxing bad boy)亀田興毅(20勝無敗13KO)のセレブ的地位によるところが大だからだ。

18歳を前にしてプロ入りし、20歳の誕生日を待たずしてライトフライ級の世界王者に上り詰めた興毅のボクシング人生は常に早熟の天才との評価とともにあった。興毅が14歳で元ジュニアフライ級世界王者でボクシング殿堂入りも期待される井岡弘樹(当時年齢差17歳)との2ラウンドのエキシビションへの参加を打診された頃から亀田家はTVドキュメンタリの題材だった。

興毅は20歳まで三か月という時点で初めての(そして現時点で唯一の)世界王座を、判定に関して疑義が沸騰したものの獲得した。興毅が2006年8月にファン・ホセ・ランダエタを相手に勝利をプレゼントされたと感じたファンの数は少なくなかった。同時に日本のスポーツファンでこの試合を観戦した者の数も少なくなかった。なぜならこの試合は五千万人という途轍もない視聴者を生み出したからだ。

4ヶ月後のリターンマッチで戻ってきた視聴者は実に三千万人、興毅はそこで文句無しの判定勝ちを収め、王座を返上しフライ級へと照準を向けた。

対決の萌芽はここに始まった。

当時のリニアル王者は内藤ではなく、内藤に黒星を与えた唯一の存在にしてフライ級の防衛記録を17にまで積み上げていたポンサクレック・ウォンジョンカムだった。連勝記録は他ならぬ内藤(35勝2敗3分22KO)によって終わりを迎えた。初回KO負けと7ラウンド負傷判定負けという過去の対戦成績を乗り越え、2007年7月についに宿敵に判定勝ちを収めたのである。
だが、内藤は日本で育ち、日本国外で試合も経験している(その点では興毅も同じ)が、今秋ようやく実現しそうな両者の対決をファン垂涎のカードたらしめるのは内藤が単に王座を獲得したからというわけではない。内藤の初防衛戦で明るみに出た亀田家の汚点によるものなのだ。

ポンサクレックからタイトルを奪取してからわずか三か月足らずで、内藤は興毅の弟、大毅を挑戦者に迎えた。試合は見るに堪えない反則三昧となり、大毅がボクサーからレスラーに変身し、王者をボディスラムでキャンバスに叩きつけたところで頂点を極めた。

幸いにも内藤は重篤な怪我を負うことなく、勝者として高々と両手を掲げ、大差の判定勝利でもってベルトを持ち帰ったのだった。亀田の次男は試合中に故意に犯した数々の反則のためにコミッションから謹慎を言い渡され、底浅いキャリアで喫した初の敗北を挽回する機会もなくそれから一年間を無為に過ごす羽目に陥った。

興毅もまたその夜に弟の「手段を厭わず勝つ」というメンタリティに一役買ったかどで厳しい批判にさらされた。テレビのマイクは、兄が弟に王者の目の上の傷をさらに広げるために「肘でもいいから目に入れろ」という耳を疑うようなアドバイスを与えていたのを拾っていたのだ。

内藤の人生は一転して順風満帆となった。ポンサクレックとの4戦目の12ラウンド引き分けを含む4度の防衛をそこから積み重ねた。当今では前代未聞の第5戦も視野に入っていたが、内藤が今年5月の熊朝忠戦で負ったまぶたの負傷のためその予定は未定となっている。

ポンサクレックは升田貴久を挑戦者に某承認団体の暫定世界王座を来週に防衛予定である。勝者は30年前にまでさかのぼるリニアル王者の称号(註:ミゲール・カント由来か)を懸けて内藤と戦うこととなろう。

興毅もまた弟の遺恨試合を年内に内藤と戦うに先立って試合が予定されている。目前に控えるははるか格下のメキシコのジャーニーマン、ウンベルト・プールを迎えての9月初旬の東京での調整試合である。

全ての役者が勝った時、11月29日のタイトルマッチには単なる『正当な』世界戦ということ以上のストーリーが生まれる。

この試合は2009年のHBOとShowtimeの全対戦カードを合計するよりも多くの視聴者を引き付けることが期待される。

チャンピオンとチャレンジャーの間には紛い物ではない本物の敵対関係が存在する。両者を隔てる14という年齢差が作り出すベテランと新鋭の交錯という究極のシナリオがそこに加わるのは言わずもがなだ。

勝者を待ち受けるのは同階級の最多防衛記録保持者のポンサクレックとなろう。そしてそこから3ポンド上の階級ではアメリカの視聴者にも馴染みのビック・ダルチニヤンやノニト・ドネアも待ち構えている。

NBAやメジャーリーグを前面に押し立てるアメリカの放送局の経営陣が、そもそもの始まりから世界的であり続けてきたボクシングをグローバルスポーツとして視聴者に披露するまたとない機会が整っている。

だが我々アメリカ人は皆知っているのだ。世界のこちら側のボクシングはどれほど国内の人気が縮小し続けようとも新鮮な才能を求めて北米地域を出ることは滅多になく、結局は旧弊に固執するしかないのだということを。

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2009-08-25 23:22:01
いつも素晴らしい邦訳をありがとうございます。
最後の段落は特にそれが顕著ですが、日本ボクシング界との奇妙な相似性が興味深い記事ですね。
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Unknown (涼しい木星/管理人)
2009-08-26 05:52:09
コメントをありがとうございます。我々からすればすでによく知っている内藤と亀田の因縁ですが、そこだけを取り上げて盛り上がろうとする日本と、国内の人気の起爆剤とするために国外にも積極的に目を向けようとするアメリカが一読して対照的だったのが、この記事を訳そうと考えた理由でした。そこを読み取っていただけると訳者冥利に尽きます。
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