BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBA世界フライ級タイトルマッチ

2010-09-25 22:09:49 | Boxing
王者 亀田大毅 VS 挑戦者 坂田健史

亀田 ユナニマスディシジョンで勝利

考察 ~亀田~

116は許容範囲。
117は疑問、118は考えにくい。
ただそれは坂田の試合をある程度見慣れた人間の感想なのかもしれない。
結末予想こそ外したが、鍵となると見た右ストレートもそれなりにヒットした。
事実、序盤から中盤までは親父(でしょ?)がしきりに
「ダイキーッ、ジャブに右かぶせ、右!!」と絶叫しまくってたからね。
フィジカルの強さはフライ級では出色で、坂田を下がらせるには至らなかったものの、
どんなパンチをもらっても効いた素振りすら見せず、それがくさいラウンドを引き寄せたかな。
ジャブの強さで挑戦者を上回り、右ボディと右ストレートは格段の進歩を見せた。
ただ技術的に優れているという印象を与えないのは、
パンチの多くがカウンターではなく相撃ちだからか。
(アレはカウンターとは認めたくない)
絶対的なアゴとボディの耐久力を誇るがゆえだが、
たとえば先日河野を破ったロハスのようなテクニシャン相手に勝負できるのだろうか。
河野には比較的楽に勝ちそうだが……

大毅の勝因を端的に挙げるならば
1.クリンチの際に先に打った、もしくは打ち続けた
2.ジャブの精度で上回った
3.相手に明白にダメージを与える瞬間を4度作った
となる。

正直なところ、微妙なラウンドは一つもなく、
坂田
 9  9  9 10 10 10 10 10  9  9  9  9
亀田
10 10 10  9  9  9  9  9 10 10 10 10 
管理人の採点は以上のように綺麗に序盤、中盤、終盤と分かれた。
スコア自体に疑義は生じても、勝敗にケチはつけられまい。
大毅の完勝である。
返上を示唆していたが、コンセプションも僅差判定で退けられると思うよ。

それにしても実況・解説のこれでもかというヨイショとは対照的に
入場時のブーイング、勝者コール時の静寂が物悲しかった。
興毅や親父はどこまでいっても認めがたいが、
大毅は確実にかつての過ちのイメージを払拭しつつある。


考察 ~坂田~

残酷な言い方をすれば年齢や歴戦のダメージによる衰えが敗因なのではなく、
ボクシングセンスの欠如をどうしてもカバーできない段階にキャリアが達した、
ということなのだろうな。
そしてそれが自らの哲学と他者からの期待に沿うものであったがために
この敗北という結末も不可避のものだったにちがいない。
大毅にボクシングセンスがあると言っているわけではないので誤解なきよう。
今宵は技術や戦術分析ではなく、
日本人のボクシング観をものしてみるとしますか。

なぜ日本人は前進を美徳とするのか。
以下に述べるのはあくまで私見であり、確たる根拠を持つわけではないのでご了承を。
このあたりについて明快な意見をお持ちの方はコメント欄でご教授をお願いしたい。

まずは別の国、別のスポーツをヒントに考えてみよう。
なぜアメリカ人はサッカーを好まないのか。
答えは簡単、滅多に点が入らないからだ。
バスケ、ホッケー、野球、アメフトはポンポン点が入り、
そこがアメリカ人の心を掴んでいる。
ボクシングでも派手なファイターが好まれ、地味なテクニシャンがウケないのはこの辺にある。

日本人がバスケ、ホッケー、アメフトをさほど好まず、
野球をことのほか愛し、サッカーを気に入り、
ボクシングでは勇猛邁進するボクサーを称賛するは何故か。
アメリカ人と嗜好の軌を一にするわけではなかろう。
バスケやホッケーやアメフトは究極的にはボールの行き来に分析される。
サッカー人気はフィールドの広さという錯覚と
世界的な熱気に飲まれて(流されて?)のことだろう。
思うに日本人は前進ではなく、継続の意思と反復の姿勢が好きなのだ。

スポーツ以外でも日本人は江戸時代から続く老舗の料亭や旅館が好きではないか。
伝統芸能を形式において頑なに守り抜こうとするではないか。
天皇制の虚構(その歴史性ではなく神話性)を支持するのも、
日本で最も長く継続と反復を経ている制度だからではないだろうか。
そう考えれば日本人の野球好きは説明されよう。
あれは継続と反復だけで構成されるスポーツだ。
前進型ファイターを好むのもこの延長線上の見方ではないだろうか?
そしてそれを象徴するのが最近では河野や坂田、川嶋ではなかったか。

そろそろこういう視点を脱却しても良い頃合いではないかと思う。
おそらくこの試合も勝敗ではなくスコアが議論の対象になるのだろうが、
その喧噪は亀田家絡みだからというだけではなく、
ボクシング観戦の視点の違いが理由の半分を占めているものと思われる。

PS.
実況は最低レベル、解説(特に鬼塚)は最悪レベルだった。

WBA世界フライ級タイトルマッチ予想

2010-09-24 21:56:21 | Boxing
王者 亀田大毅 VS 挑戦者 坂田健史

予想:大毅のKO勝利

ジャッジに関してなにやら穏やかならぬ話も一部メディアで騒がれているが、
もういい加減うんざり、そんなものまで考えだすと無責任に予想するという楽しみが薄れる。
だが、予想自体は若き王者のものである。
大毅のフィジカル、メンタルはさておき技術は世界レベルにはない。
だが誰もが目をそらしている事実、この男はどのような技術の開きがあろうとも
自分の展開を決して崩さないのだ。
そして兄とは比較にならないタフネス、プレッシャー。
それは坂田をも後退させるに違いないと勝手に期待している。
坂田の懸念、それは歴戦の疲れとダメージ。
デンカオセーンとの2戦、山口戦で喫したダウンはいずれも右のカウンター。
大毅に右のカウンターはないと思うことなかれ。
亀田大毅は常に予想を超えるのだ。
左フックだけの男と見せかけてきたのもこの試合に至るまでの伏線かもしれないのだ。
逆に坂田に大毅を倒せるパンチはあるか?
残念ながら無いのだ。
坂田が得意とする踏み込んでのからの左ボディから
打ち下ろし気味の右フックへのつなぎの合間に
まさかの大毅の右がドンピシャで合う光景が浮かんでくる。
そしてその瞬間は6ラウンドまでに現出する。

この予想が外れる展開を待つ!

ミドル級12回戦

2010-09-24 21:40:31 | Boxing
シェーン・モズリー VS セルジオ・モーラ

スプリットドロー

考察 ~モズリー~

プレッシャーをかける際にリードが出せず、
単発の強打に頼ろうとする悪い傾向から抜け出せていない。
たとえばバルガス、マヨルガ、マルガリートをKOしたのは
連打からの強打の積み重ねによるもので、
らしいと言えばらしいと言えるが、ファイター化の陥穽にも落ちている。
リズム、フェイント、プレッシャーで前進してからの強打の方が、
連打よりもスタミナを消費するのは逆説的だが真実なのだ。
たとえばJ・ペニャロサはファイター化することで選手寿命を伸ばしたが、
それはカウンターの上手さと防御技術を軸にしたもので、
軽量級と中量級の違いこそあれ、モズリーにはペニャロサほどには
近距離戦の素養がなかったということかもしれない。
相手のやりにくさにメイウェザー戦を思い出したかな。
ジャブを出してはみたものの、右につなげる意識が強すぎて、
効果的にヒットしなかった。
この日の相手を攻略するのならば、相手にあらゆるムーブを出させて、
それを一つ一つ後の先を取る形で潰すしかない。
モズリーに2勝したV・フォレストはリマッチでそれを忠実に実行できた。
それはジャブのバリエーションに尽きる。
利き腕の強打に頼るのは今のモズリーの個別性ではない。


考察 ~モーラ~

ラテンスネークの異名どおりに、まあクネクネ動くこと動くこと。
決してカクカクではなくクネクネ。
近接戦に長けた変則ジャバーで、相手に打たせるもその柔らかさで
相手のパンチをナチュラルに殺している。
カウンターの名手というよりはジャブ以外の全てのパンチがカウンターのようで、
本人は狙って打っているのだろうか?
それともナチュラルなリズムそのものが相手にとってカウンターになっているのか?
たとえば普段の練習ではどういうミット打ちをしているのだろう。
またパンチングボールは打つのかどうか。
実況・解説はスピードをモズリー以上と強調するが、
絶対的なハンドスピードではせいぜい五分だろう。
そこを速く見せるのは瞬間の意外性とインパクト。
この相手を明白に攻略できるのは超がつく正統派か、この選手以上の曲者しかいない。
Sウェルターに留まるにせよ、ミドルにリターンするにせよ今後も目を離せない。

管理人採点では115-113で勝利だが、これは好みが多分に入っている。
パブリックが噂どおりミドルに留まるならば、対戦が見てみたい。
モーラは番狂わせを起こすだけの可能性を秘めている。
マルチネスがウィリアムスとの再戦をクリアしたならば、
この選手を防衛戦に選んでもらいたい。

WBCシルバ-Sウェルター級10回戦

2010-09-24 20:56:31 | Boxing
サウル・アルバレス VS カルロス・バルドミール

考察 ~アルバレス~

一戦ごとに修正を見せるようになっており、
もはや若手と称される選手ではない。
若手であれば成長するか、欠点を引きずったままのはずだ。
コット兄には不覚の一発をもらったが、
左のガードの低さをそのままに左のリードの強さと速さでカバーするようになった。
リードを忘れない選手は劣勢を長続きさせないのだ。
ワン・ツーと同じく、右からの返しの左フックもしくはアッパーも巧打し、
中距離でのパンチの強さを見せた。
上半身の筋肉にばかり目を奪われるが、大腿四頭筋もかなり発達しているのだろうな。
強いというにはテクニックもあり、テクニシャンというにはパワーがある。
この日は良い部分ばかりが目立ったが、今後見たいのはスピードあるサウスポーとの対戦。
フェイントにつられるのか、それとも脚さばきとプレッシャーで追い詰めるのか。
リードのペースを保てるのか、カウンターへの対策は何を用意するのか。
世界王者になるのは時間の問題だが、証明すべきものは全て証明してほしい。


考察 ~バルドミール~

4ラウンドからか、積極的に相打ちを狙いだしたように見えたが
スピードでもパワーでも及ばないことを自覚させられたか。
頑張り屋と辞書で引けば挿絵に出てきそうな男で、
哀愁を漂わせる一歩手前でしぶとく踏ん張る様に喝采を送らざるを得ない。
こちらの攻防はキャリアの深みを見せるというよりはキャリアの下り坂を見せてしまった。
相打ち狙いでガードを解き、打ってこさせ、そこに被せる打ち方は狙い通りいけばクリスクロス。
残念ながら失敗したが、フィジカルや技術の衰えの結果というよりは、
若手に場所を譲る時期が来たということ。
face firstのダウンとともにウェルター、Sウェルターの門番が一人倒れたと思うと、
哀愁ではなく敬意が湧いてくる。

ウェルター級10回戦

2010-09-24 20:55:56 | Boxing
ビクター・オルティス VS ビビアン・ハリス

オルティス 3ラウンドTKO勝利

考察 ~オルティス~

攻撃はコンビネーション重視というよりも
攻防のつなぎを意識したもので、ガードの姿勢から
自分の得意とするパンチをぶち込むスタイルは
この選手の身体能力とmindsetにマッチしている。
ただし、マイダナ戦のときのような、打たれたら打ち返す、
というアツい部分は消えている。
これが良い方向に作用するのかどうかを判断するのは
マイダナとのリマッチが最も分かりやすいのだが。
うまく判定をもぎとれば確かな成長と言えるが、
為すすべなくノックアウトされる恐れもなしとしない。
右フックと左ストレートの思い切りの良さは買いだが、
その長所が光れば光るほど、短所も浮き彫りになるだろう。
この選手がaggressivenessとメンタルのノリが正比例するタイプで、
観客が感情移入しやすい分、対戦相手にも心理が読まれやすい。
Sライトの雄になるには、もう一年必要か。


考察 ~ハリス~

最近見ないので良く分からないが、アルセがこんな感じなのかな。
昔取った杵柄だけで戦い続けているようだ。
キャリアで培ったダメージコントロールは見られたが、
フィジカル自体の衰えは隠せない。
パンチの引き、振り抜き、ガードの固さのすべてで
若さの勢いを止めることができなかった。
サウスポーとの対戦ではリードで主導権を握ることが求められるが、
そこで経験を見せる前に隙を見せてしまった。
なまじ名前があるだけに今後も若手の踏み台となるのかな。

WBA世界Sフェザー級タイトルマッチ

2010-09-20 23:38:09 | Boxing
王者 内山高志 VS 挑戦者 ロイ・ムクリス

内山 5ラウンドTKO勝利

考察 ~内山~

攻撃の派手さに欠けること、それ自体がパンチ力を物語る。
謙虚な人柄であることは本当なのだろうが、
自身のパンチに関するプライドは人一倍だろう。
その哲学がボクシングによく表れている。

徳山好みのリードを決しておろそかにしないスタイルは
ボクシングの王道で、防御については見栄えするボディワークや
堅牢なブロッキングを駆使することもない。
しかし、前述のリードの効果により相手のカウンター機会を着実に潰しており、
この王者のボクシングIQの高さを証明している。
また相手との距離を相当長くとっていたが、
相手のパンチの伸びを警戒するのと同時に、
自身の踏み込みが最も生きる距離にもなっていた。

今後の相手は確実に右対策を練ってくるに違いないが、
結局は内山の打つ布石の一つ一つが丁寧にそれを攻略していくと思われる。
まあ、なんちゃって世界ランカー相手の防衛路線はもう終わり。
来年早々にはリナレスとの激突が待たれる。


考察 ~ムクリス~

正直この選手の実力は東洋太平洋タイトル争いレベルかな。
試合前の映像で泣きマネージャーを偲んで号泣するところでは
私も不覚にもウルっときてしまった。
クリス・ジョンよりも根性があるとジョンのトレーナーが評していたが、
ジョンは別に根性を売りにするボクサーではないので、
実際は大したことないなと感じたその通りに、
特に光る技術は持ち合わせていなかった。
打ち下ろし気味の右には一瞬ヒヤリとさせられたが、
当の本人は楽々はずされているとの感覚だったのではないか。
逆に相手の右がいつ自分に当たるかとヒヤヒヤしていたのでは?
それにしても、まあ、見事に仕留められたね。
効かされてからの詰めの6発は最後の一発を左肩で受けた以外は
全部顔面に入っていた。
担架で運ばれていたが無事なのだろうか?


PS.

今回のダブルのカードをテレビ視聴して感じたことは
徳山は実に解説向きだということ。
やたらに日本の選手を持ち上げる実況・解説が跋扈する中、
あまりにも冷静に淡々と戦局分析し続けるその様は
在日という反骨のルーツがあるからだろうか?
それとも、かつて自身が長期政権を築いた王座を求めて眼前で戦う
Sフライ級コンテンダー達に単に熱くなれなかっただけなのだろうか?
承認団体は違えど同階級の名城にもえらい辛口だったからね。

WBC世界Sフライ級王座決定戦

2010-09-20 23:04:03 | Boxing
河野公平 VS トマス・ロハス

ロハス 判定勝利

考察 ~ロハス~

どこかで見たことあるなと思ったらダルチニャンと対戦歴ありか。
ダッキングしたらパンチが飛んできたアレね。
ミハレスと似ていると実況が言っていた通り、
長身でリーチに恵まれ、フットワークも冴え、ボディワークも柔軟。
ついでにミハレスと同じくダルチニャンにKOされている。
肘の角度をキメたアッパーは射程が長く、タメが無い。
右はボディに突き刺さり、左は顔面を跳ね上げるそのアッパーは
試合全般を通じて面白いようにヒットし、
リズムを生命線とするボクシングをさらにリズミカルにした。
ディフェンスでは相手の雑さに相当助けられたが、
下げた右でレバーをカバーし、脇を締めた右肩で顎をカバーし、
左を貯めるスタイルはボクサー型サウスポーの定石のひとつ。
これでサイドステップとピボットが上手いのだから
直線ファイターではパンチは当たらない。
しかし、これまでの負け数からして河野にとっては千載一遇のチャンスかと
思ったが、調べてみるとキャリア序盤の負け+中盤での名立たる相手への負けなんだね。
叩き上げのメキシカンがようやく上昇気流に乗ったのだろうが、
穴はまだまだあるだろう。
この試合ではそれが見えにくかっただけだ。


考察 ~河野~

粟生-ラリオスⅠや名城-カサレスⅡのKamikaze Attackを
またも見ることになるとは……
顔面を突き出して前進してはいかんのだ。
本人はガードを固めているつもりかもしれないが、
なぜ最初の一歩を踏み出す前にフェイントなりジャブなりが出せないのか。
サイドにかわしていく相手を負うのに、状態から突っ込んで行くのを見て
「闘牛かいな!?」と呟いてしまった。
手数で押し切るスタイルから強いパンチを当てたい(≠当てにいく)スタイルに
変身したことでディフェンスの穴はそのままに、さらに隙が増えた。
7ラウンド以降のボディからの失速でTough Boyの異名も返上する時が
来たのかと感じたファンは多いと思われる。

肉体改造失敗?言い訳にはならない。
減量失敗?それも言い訳にはならない。
歴戦の疲れ?そういうスタイルだからしゃーない。
敗因はいくらでも出てくるが、それを分析しても虚しいだけだ。

最終ラウンドの見せ場はボクシングの神様が
ほんの少しだけ微笑んでくれたのかな。
……川嶋なら最終ラウンドの一発で沈めたのだろうか。

タイトルマッチ予想

2010-09-20 00:18:11 | Boxing
対戦相手をよく知らないので以下は全て勘に依ります。

WBA世界Sフェザー級タイトルマッチ
王者 内山高志 VS 挑戦者 ロイ・ムクリス

予想

内山の中盤KO勝利

戴冠、初防衛と評価を順調に上げている。
坂東ヒーローに不覚を取りかけたのも今は昔。
年齢的に肉体も精神も今がピークだろう。
リナレスとの激突が興味深いので、
勝手に内山勝利を確信している。


WBC世界Sフライ級王座決定戦
河野公平 VS トマス・ロハス

予想

ロハス スプリットディシジョンで勝利

今さら承認団体にケチをつけてもしゃーないが、
日本伝統のSフライ級歴代世界王者では
明らかにWBC王者の方が私的評価は上となる。
河野の評価は名城への惜敗が大きな割合を占めるが、
どうもこのチャンスを掴めないような嫌な予感がする。
川嶋、坂田の系譜に連なる泥臭いファイターなので嫌いなわけではない。

IBF・WBO世界ヘビー級タイトルマッチ

2010-09-19 23:52:09 | Boxing
王者 ウラディミール・クリチコ VS 挑戦者 サミュエル・ピーター

クリチコ 10ラウンドTKO勝利

考察 ~クリチコ~

初回の奇襲とも言えるローリングに一瞬狼狽したが、
1分30秒に右を一発、さらに2分10秒にもう一発を着弾させたことで、
明らかに相手の方が狼狽した。
一気に精神的優位に立つかと思いきや、サディストかと見紛うほどの
punisherに変身した。
相手の前進を止めるには

1.ジャブで止める
2.ワン・ツーで止める
3.カウンターで止める

という選択肢があるが、2.を選択したのは正解であろう。
この日の右は敢えて肩を残し気味に抑え、返しの軽い左を重視していた。
タイソンの飛び込みを意識したピーターを敢えて迎撃した形。
相手の左フックをカウンターで喰うことを避け、
なおかつ相手の左にカウンターを合わせる意図で、
トレーナーの指示というよりも自身の頭脳がはじき出した戦術と見る。
磨き抜かれたintelligenceと過去の苦いexperienceをうまく融合させていた。

高速道路の左車線を80㎞/hで走っていると後ろから煽ってくる奴がたまにいるが、
安全運転を保つのが事故を避けるもと。
だがボクシングでは追い抜かせるわけにはいかない。
とは言うものの、最後の瞬間までつかず離れずを保つのもどうかと思う。
クルマの性能で優っているならば一気に引き離してやればいいのだが、
それをしないのもウラディミールのPh.Dか。


考察 ~ピーター~

明らかにタイソンを意識していたように見える。
ピーターではモハメド・アリはduplicateできないからね。
左のスイングはところどころで期待感を抱かせたが、
踏み込みを封じられれば威力も脅威も半減どころか全減。
まさに「当たらなければどうということはない」
長距離射程を想定してきたばかりに、相手のワン・ツーよりも
覆いかぶさってくるようなクリンチに手を焼いた。
ピーターの体躯ではタイソンスタイルはそれだけで著しくスタミナをロスするだろう。
それだけのトレーニングを積んできてはいても、クリンチ対策は難しい。
ならばレフェリーがブレイクをかけるまでボディを打って打って打ちまくるしかなかったが、
ナイジェリアンの本能が冷静な戦術選びを許さなかったか、
それとも初回にヒビを入れられたハートが回復しなかったか。
正確さと精密さを旨とする相手に抗するにはそれ以上の正確さ・精密さで当たるか、
もしくは殺戮本能丸出しの獣の化すしかないが、
なぜかクリチコ兄弟を相手にするとピーターはレンタルキャット(借りてきた猫)になってしまう。
ビタリには泣かされてしまったが、ウラディミールにはボコられた。
ジョー小泉はビタリよりもウラディミールの方が完勝だというが、
管理人は正反対の見解である。

日本・東洋Sウェルター級タイトルマッチ

2010-09-19 18:04:46 | Boxing
王者 チャーリー太田 VS 挑戦者 湯場忠志

チャーリー 判定勝利

考察 ~チャーリー~

身長差をdisadvantageとせず、むしろ相手の打ち落としのパンチに対して
素直にブロッキングのみを選択することで、
ディフェンスから攻撃へのtransitionをスムーズにできた。
これまで専門誌で読むだけの選手だったが、
こんな良い選手が日本にいたのかと感心することしきり。

打たれ強さ ○
スタミナ  ○
フィジカル ◎
メンタル  ◎

リーチ恵まれ、肘の可動域も広く、ジャブと同じ距離からフックを打てるのは
中南米のボクサーでは結構見かけるが、日本のジム所属の選手でも出来るんだね。
型にはまった勤勉さと根性だけの指導者ばかりではないということか。
湯場のカウンター恐れるに足りずの突進力と
連打とプレスの中で小刻みにスイッチ(だよね、アレ?)も見せ、
柔剛、硬軟を併せ持つ見事な日米ハイブリッドだ。
日本の年間最高試合候補かな。

パッキャオのSウェルター進出を疑問視していた管理人だが、
コットやチャーリー見てると案外行けるかもという気がしてきた。
マルガリート相手というのは倫理的にも論理的にも危険だと思うけれども。


考察 ~湯場~

左の打ち落としの威力が頭抜けており、
苦戦した渡部との2戦でも結局それが勝負を決めた。
だが苦戦の理由は左を出す前に打たれた、
あるいは左を見事にはずされたからに他ならない。
長所と短所が表裏一体なわけで、
長所が通じないと短所だけが浮き彫りになる。
象徴的だったのが沼田戦だ。
右リードの不足を浜さんが嘆いていたが、
徳山かと見まがうほどのリード論だった。
そのリードも回を追うごとに数が減り、チョップ気味になっていった。
結局敗因はこれに尽きる……と思ったが、
意外なことに王者に挑戦するのはこれが初めてなんだね。
決定戦で王座を獲得する選手と言えばコットだが、
湯場もやはりキャリアのそこここで見せてきた
メンタル面の弱さをここまで克服できずに来てしまったか。
公式採点発表後に攻めに転じられないのは亀田興毅と同じだが、
やはり興毅もこの課題をキャリアの終盤まで引きずるのだろうな。

こういう強さと脆さを併せ持ったボクサーは時にたまらなく魅力的に見える。
後一試合、引退試合を望むのは酷だろうか。