BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBA世界ウェルター級タイトル アントニオ・マルガリートVSシェーン・モズリー

2009-01-28 21:36:52 | Boxing
モズリー 9ラウンドTKO勝利

久々に "Sugar" を観た気がする。
スピード、パワー、スキル、コンディショニング、ゲームプランの全てで王者を上回っていた。
マヨルガを沈めた左フックを軸にするのかと考えていたが、
その場合はマルガリートの左も相撃ちでヒットし、パンチ力に優っても、耐久力で勝てる保障はない。
しかし、コットとパブリックの敗戦を良く研究しており、
launch & leave とヒット&クリンチを織り交ぜてきたのはdeterminationの表れだ。
ことに序盤のクリンチはB・ホプキンスを彷彿とさせ、額で相手のアゴ(=jaw≠chin)に
ぐいぐいこすりつけるのはまさに「死刑執行人」のシルエット。
つまりはホプキンスとスパーしてきたわけだ。
高速ジャブの連打とスイング気味のカウンターの右でこの相手を止めるのは、
プランを立てることはできても実行に移すのは難しい。
弱点を見出すことと、弱点を突くことには雲泥の差があり、
後者を実行できるボクサーにはセンスが備わっているということができる。
メイウェザーを引きずり出すのはハットンでもパッキャオでもデラホーヤでもなくこの男かもしれない。

嗚呼、アントニオ・マルガリート。

8ラウンドのノックダウン、そして9ラウンドのストップと我が目を疑った。
「ボディが死ねば頭が死ぬ」とジョー小泉が以前に話していたが、
初回のボディブローを相当効かされたように見えた。
コットはリーチの無さと耐久力への不安からマルガリートのボディ狙いには来なかったが、
モズリーはそこから学習していた。
ジャブや軽いパンチでこの男を止めるのはウェルター級では不可能に近いが、
理にかなったカウンターならそれが可能であることが証明された。
マルガリートは3発目の左を強く打つ意識があるので、
ジャブ(左)・ストレート(右)・フックもしくはアッパー(左)につなげる際に、
右腕を引く勢いで左足親指でリングを噛み、左膝、左腰、左肩、左腕とパワーを乗せていく。
これを打たせないためには1発目あるいは2発目にカウンターを合わせるしかないが、
オーソドックス同士なら相手の左ジャブに自身の右を合わせるのが定石。
さらに実際に体を動かしてみると分かるが、上記の1・2・3の動作では1の時点で
かなりの体重が左足にかかることになる。
結果、相手の右カウンターの威力が増すことになる。
沈められた原因はダメージの蓄積だが、この試合だけでのものかそれとも以前からなのか、
そこは判断が難しい。
坂田がノックアウトされたアンダー・ジ・イヤーを中盤にもらったが、
あそこからはもう意識が朦朧としていたことだろう。
半年から一年は休養が必要かもしれない。
コットとの再戦も延期すべきだ。

若かりし頃は裏街道、実力は認められながらも表舞台にはなかなか上がれず、
蓄積された鬱憤をすべてぶつけて掴み取った座は三日天下だったという、
まさしくボクシング界の明智光秀(そんなふうに考えるのは管理人だけだと思うが)。
一方で後世この男がどう評価されるのか、そんなことを心配してる人は結構いると思うが、
歴史とは現在からの遠近法で捉えられるべき構造物(奥泉光)で、
20年後のボクシングがアメリカンスタイル主流かヨーロピアンスタイル主流かで
21世紀初頭のボクシングも見直されるだろう。
ちなみにモズリーは秀吉ではないはずだ。
家康はどこで息を潜めているのだ?

IBOスーパーライト級タイトル リッキー・ハットンVSポール・マリナッジ

2009-01-28 21:34:18 | Boxing
ハットン 11ラウンドTKO

前回のラスカノ戦ではメイウェザーのカウンターの左フックの残像が
ちらついていたのが見て取れたが、この日のハットンは別人のようだった。
無造作に左を振り回して飛び込む様は相撲のようで相撲の立ち会いのようで面白いが、
ヒット&クリンチは面白くも何ともない。
それにしても、左ジャブ・右ストレートを基調にこれほどボクシングをこなすとは
正直予想外だった。
膝を終始柔らかく保ち、リズミカルに戦うことを意識していたので、
ジャブもストレートも伸びる。
パンチを喰ってもその衝撃を受け止めることなく受け流すことにもつながった。
まあ、相手のパンチの無さに救われた面も否定できないが。
この試合ではメイウェザーSrのトレーニングが有効に作用したと見る。
それにしてもこのスタイルでパッキャオと戦うのだろうか?
J・L・カスティーリョを沈めた、そしてメイウェザーJrに沈まされたスタイルの方が
対パッキャオには効果的な気がする。

A・ターバーに続き、またもMagic Manが敗れた。
どんな奇抜なヘアスタイルで登場するか楽しみにしていたが、
丸刈りはいただけない。
変則リズムと伸びる左を軸とするが、左ガードの低さが仇になった。
フックはダックできても、高精度のジャブとストレートはボディワークだけでは無理で、
練りに練った策が見事に空振りしたという感じ。
カウンター狙いでもイージーに被弾してしまうのは、ハットンの成長と見ることもできるが、
この男自身の油断、そしてメンタルの強さとフィジカルの凡庸さの乖離に原因を求められる。
Sライトでは一方の雄だったが、宿願果たせずこれでフェードアウトか。
たとえモチベーションを維持できても、今後は新鋭の踏み台になるしかない。

WBC世界Sミドル級挑戦者決定戦 ジャーメイン・テイラーVSジェフ・レイシー

2009-01-23 14:03:33 | Boxing
強敵を次々に退けながらも何故か人気を博すことが出来ず、
「だったら次はブッ倒してやるぜ!」と臨んだパブリック戦では、
先にノックダウンを奪いながらも逆転KO負け。
キャッチウェートの再戦でも判定負けという(管理人的に)悲劇の男、テイラー。
しかし、この日のconditionとconcentrationは素晴らしく、
5ラウンドのダウン(でしょ?)を除けばperfect。
ジャブの多彩さは中重量級では特筆もので、リズム・テンポ・アクセントに富む。
ジンジルク、マルチネス、ケスラーなどの強く速く正確なジャブ、
つまり基本をハイレベルに仕上げたジャブと比べて質的に異なるも見劣りしない。
Sミドルという階級で減量苦から解放されたこと以上に、
精神的な重しが色々と取れたのだろうと推察される。
カウンターの左右とも冴え渡り、ミドルレンジからのアッパーはレイシーを
たびたびトラブルに陥れ、自身のトラブルは5ラウンドのみ。
技術で攻防をコントロールするお手本のような試合だった。
きれいなアッパーを放り込むのは技術ではなく度胸だと
八重樫を観て喝破した記憶があるが、撤回させていただきます。

浜田氏はレイシーを見るたびに「カルザゲとやるのが1年早かった」と言うが、
今やっても勝ち目が無いのは火を見るより明らかだ。
代名詞だった左フックも往年の(と評するには若いが)輝きを失い、
馬力とワン・ツーで勝負するブルファイターに見えてしまった。
一撃必倒のパンチを失ってしまえば、テイラーのような懐の深いボクサーには敵わない。
L・アンドラーデあたりと戦っても根負けしそうな雰囲気がある。
結局この男もE・ミランダ的なポジションに落ち着くしかないのか。
順風満帆だったキャリアが衝撃的な敗戦で一転して奈落の底へという
ボクサー人生の陥穽からいまだに脱け出せず、今後も脱け出せそうにない。

IBF世界ウェルター級挑戦者決定戦 カーミット・シントロンVSラブモア・ヌドゥ

2009-01-20 22:43:47 | Boxing
シントロン 判定勝利

右の一発に無類の強さを秘めるが、その他の能力には若干疑問符がつく。
シントロンに対しての大方のイメージはこうだろう。
以前にエマニュエル・スチュワードとフィーリングが合い、
師事するようになったと聞いたが、この男にハーンズ・スタイルは馴染まない。
近距離では長いリーチをもてあまし気味で、パンチを振り抜かなければ威力が出せない。
かといって回転力を活かすタイプでもない。
eliminatorに勝利して言うのも何だが、ぎりぎりでtop contentionに残っている感が強い。
ボクサーとしてどう分類すればいいのか判断に困るが、一つ発見もあった。
予想以上の打たれ強さだ。
マルガリートに格の違いを見せ付けられてギブアップ、
または肝臓を突き上げられてKOされた印象ばかりが強いが、
顔面のタフさはかなりあることを証明できた。
ガンガン詰めてくる、あるいは出入りしてくるタイプが苦手であることが暴露されたが、
それでも一撃KOの期待を抱かせるのはスター性の証左。
そのスター性を開花させ、マルガリートとのtrilogyを3戦3KO負けまで伸ばしてほしい。
と書くとシントロンファンの方々の顰蹙を買いそうだ。

タフさで生き残ってきたヌドゥだが、正直KO負けを予想していた。
噂によるとA・マンディンをも挑発したらしいが、
ミドルあるいはSミドルでも本当に耐えられるのかもしれない。
こういう選手はチャンピオンの選択試合、トップどころのテスト、新鋭の踏み台と
使い勝手(?)がよく、今後も世界戦線以外でも十分に戦う価値がある。
相手の予想外のタフさに計算を狂わされた面もあるが、
スピードもパワーもスキルも及第以上。
身体能力も高く、スタミナもあるので、モチベーションさえ喪失しなければまだいける。
ミドルかSミドル契約で、先日引退を表明したクレイジー・キムと日本でやってくれないかな?

テーマがボクシング

2009-01-17 19:56:44 | Boxing
気がつけばブログエントリが200を超えてました。
これを記念(?)してちょっと皆様にお尋ねしてみたいことがあります。

アクセスランキングによるとこのブログには一日平均で70~100人の方が
訪問してくださっているようです。
ほとんど落書きレベルで試合の感想などを書き殴っているわけで、
「こんなもん読むなんて奇特な人もいるもんだ」と書いている自分を棚に上げつつ、
同好の士が結構たくさんいることに励まされてもいます。
時々見かけるコメントもボクシング愛またはボクサー愛にあふれたものが多く、
人気も芳しくなく閉鎖的で問題点も多いスポーツながら、
熱心なファンはまだまだいるということが分かります。

そこで皆様に尋ねてみたいことというのが、
タイトルにあるようなボクシングをテーマにした作品についてです。
平たく言えば、「とりえずこれ読んどけ」「これを観ないと始まらない」という
小説、文学、漫画、ドキュメント、TVドラマ、映画などを
教えてくださいということです。

一応自分なりに消化してきたものは

映画:ロッキーシリーズ ファイトクラブ ミリオンダラーベイビー
漫画:あしたのジョー がんばれ元気 リングにかけろ はじめの一歩
雑誌:ボクシングワールド ボクシングマガジン
書籍:ルポ的なものを何冊か

という程度なんですが、上記以外で皆様が読んで、観て感銘を受けた作品があれば、
是非教えてください。
ボクオタ歴が比較的短いですので、どうぞよろしくお願いします。

WBO世界Sウェルター級タイトルマッチ セルゲイ・ジンジルクVSホエル・フリオ

2009-01-13 21:40:42 | Boxing
ジンジルク 判定勝利

ジャブのスピードが相変わらず出色だ。
短いリーチを活かすというより、短いリーチだからこそ達成できるスピードなのか。
協栄のS・バクティンのジャブは前腕部と二の腕を連動させること、
そして肩を入れることでスピードを切れを生み出しているが、
これは肉体の合理的可動性を追求したもの。
ジンジルクのジャブは、スピードに重点を置きつつ、
肉体的素養よりも、むしろ対戦相手の意識に軌道とスピードを刻み付けるという
ボクシングメンタリティによって身に着けたもののように思える。
アクション自体は比較的乏しいが、構えた左が常に睨みを利かせる形になっており、
ビッグパンチ狙いの相手との相性もあっての快勝だった。

ミドルとウェルターの花形階級に挟まれたSウェルターだが、タレントも揃ってきた。
セルヒオ・マルチネスとの激突が期待される。

コロンビアンスラッガーの負け方にはなぜか共通項がある。
E・ミランダしかり、R・トーレスしかり、負けるときはあっさりと負けてしまう。
1~2ラウンドには自慢のパンチでなぎ倒せるチャンスもあったが、
intelligenceで上回る相手が早期にadjustしてくるのは予想できたはず。
攻撃のバリエーションが限定的で、世界ランカーと世界王者の間の壁を見せ付けられた感がある。
しかし、こういう選手を器用な選手に改造しようとすると往々にして大失敗する。
今こそトレーナーの腕の見せ所なのだが、この年齢での世界初挑戦失敗という事実が、
吉と出るか凶と出るか。

WBA世界ヘビー級タイトルマッチ ニコライ・ワルーエフVSイベンダー・ホリフィールド

2009-01-13 00:34:11 | Boxing
ワルーエフ 判定勝利

ワルーエフの勝利でも敗北でもどちらでも妥当な気がするが、
クリチコ兄弟との激突の機運からこういう結果になったのか。
管理人採点では116-112(ホリフィールド)なのだが。

これだけの体躯、リーチ、しかも最近はジャブに磨きをかけてきているにもかかわらず、
この大巨人ワルーエフは懐の深さを感じさせない。
何故だ?
間合いのコントロールをジャブ(と自身の体格から生まれる圧迫感)に頼りすぎで、
呼び込んでのパンチを欠いているからだ。
右ショートアッパー、もしくは左のショートフック、左のショートでボディ狙いなど、
相手の出入りを封じるようなパンチがあればこの試合は明確に勝利できたはずだし、
チャガエフにもリベンジできるだろう。
前回も書いた気がするが、もう少し自らの攻撃力と耐久力を信じてみてはどうか。
この男がA・マルガリートのごとく戦えば1試合で$2000万は稼げる。

ジョン・ルイスは試合のペースを必死に手繰り寄せようとするが、
ホリフィールドは自分から試合のリズムとテンポを生み出す。
たとえばこの試合、リングに立っていたのがホリフィールドではなく
モハメド・アリだったなら、ジャッジの採点はどうなったのだろうか。

イブラギモフ戦ではボディを効かされてしまったが、
脚さえ動けばまだまだ試合をコントロールできることは証明した。
ジャブ、カウンター、サークリング、ステップバック、クイックターン、
ダック、スウェー、ウィーブ、パリー、コンビネーション、
さらには無数のフェイントを駆使しながらも膝、腰、肩で奏でるリズムとテンポは
最後の最後まで衰えることはなかった。
また、クロスレンジでの相手の武器の欠如を読み取り、
左フックをダブル、ないしは右・左・右・クリンチないしは出入りを多用し、
要所でジャッジにポイントを印象付けるという作戦は奏功したかに見えたが・・・
この男はまたイブラギモフ戦後と同じコメントを出すのだろう。
「また列の後ろに並ぶだけさ」と。

IBF世界ミドル級タイトルマッチ アルツール・アブラハムVSラウル・マルケス

2009-01-05 23:26:23 | Boxing
アブラハム 6ラウンド終了TKO勝利

サッカー選手やプロゴルファーと違い、ボクサーは一試合観れば大体のデータは頭に入る。
が、それが当てはまらないボクサーもいる。
そういった個人的に不可解なボクサー筆頭がこのアブラハムだ。
サウスポーに不快感を持っているようでいて、いつもより攻めが強気。
打ってこいと挑発しながらも自分からクリンチ。
ただ、この男のdefensive mindはシュトルムのそれと違い、
倒してしまえばそれでいいという豪腕の哲学に裏づけされており、
事実ここまで5連続KO防衛。
サウスポーを相手に、普段はあまり見せないレバーブローをコンビネーションの軸にするなど、
対策もしっかり立てられていた。
シュトルムとのディフェンスの違いは体幹の使い方。
動体視力でパンチをブロックするシュトルムと、
腕力でパンチを受け止めながらスウェーし、一歩下がって衝撃を柔らかく受け流すアブラハム。
意外とこういう繊細というか柔軟な面も持っていることを披露した。
どうやら浜田氏はミドルの3強ではキング・アーサーを推しているようだが、
管理人も同意見である。
ホプキンス、テイラーと4団体統一が達成されている階級だけに
今年はこの階級が主役の一つとなるに違いない。
2009年の目標はずばり4冠王者輩出だ。

マルケスも解説者と現役の2足の草鞋は結構だが、
あそこでquitするのは自分自身を客観的に見過ぎだろう。
右を下げてボディワークとフットワークを駆使し、
手数とコンビネーションでポイント奪取するプランだったと推察するが、
王者の当て勘とパンチの重さにガードを上げるしかなくなり、
サウスポーのデメリットである肝臓をさらすスタンスが
ここ数戦で左フックの新境地を開拓したアブラハムには相性が悪かったのだろう。
レバーを打たれて勝利への意欲が削られたか。
クールにキレるのがボクサーだが、古豪というポジションに落ち着いてしまうと、
冷静さだけが勝ってしまうようだ。
こんな中途半端なギブアップだと晩メシの消化不良を起こしそうだ。
しかし、この男が試合後に流したと思われる血尿に比べれば、まあマシか。


それにしてもつのだ☆ひろの楽曲が意外にエキサイトマッチに合わないな。
前の前の"I'm not supposed to love you anymore"は名曲だったのに。
個人的にはSEVENDUSTの"Enemy"なんかボクシング番組に合うと思うのだが。

Step up to me! Step up to me!
Step up to me! Step up to me!
Step up to me! Step up to me!
You wanna be a big time player it's not to be!!

WBA世界ミドル級タイトルマッチ フェリックス・シュトルムVSセバスチャン・シルベスター

2009-01-05 22:27:19 | Boxing
シュトルム 12ラウンド判定勝利

同級の対立王者パブリックやアブラハムに比べると豪快さでは一枚も二枚も落ちるが、
通好みの試合運びはますます冴えてきていると感じる。
デラ・ホーヤ戦ではワンー・ツーを基調にもう少しaggressiveだった気もするが、
自身のアゴの強さというか弱さを自覚してからは
ブロックとジャブにさらに磨きがかかった。
ジャブを打つ軌道と引く軌道がきれいに一致しており、
それがリズムの構築と射程の確認に寄与している。
前戦まではパーリングやストッピングを多用していたが、
統一戦をにらんでのことか、瞬間的なクロスアームブロックも採用した。
ヘッドハンターのイメージが強かったが、左ボディは教科書通りで、
なぜもっと打ち込まなかったの不思議だった。
ストレートでガードの真ん中をぶち破るパブリック、
ガード越しにもダメージを与えてくるアブラハムとの対戦も視野にあるのだろう。
3強の中ではunderdogだが、アブラハムとパブリックの潰し合い次第では
この男が漁夫の利を得ることも考えられる。
だが、対立王者陣営の交渉の道具にされることはあっても、
自陣営から統一路線に歩みだすことは考えにくい。
アメリカが舞台となるであろう現状では、KOを売り物にしないと
ドル箱スターにはなれないからだ。

地域タイトルコレクターと紹介されたシルベスターだが、
ヨーロッパの中重量級のレベルと層を色んな意味で垣間見せてくれた。
やや消極的だが、根は真面目で練習熱心だと分かる。
奥目なドイツ人アスリートを見るといつもボリス・ベッカーを思い出す。
若い頃は破天荒なテニスを繰り広げ、20代後半からは哲学者然とした風貌で
世界の趨勢に逆らうサーブ&ボレーで一世を風靡した名選手だった。
不器用に見えて実は違う。
自らの構築した理論を実践することに一生懸命なんだ。
ハリケーンの二つ名は完全に名前負けだが、ゲルマン魂を持っていることは読み取れた。
A・フレイタスみたいな気質のヤツならとっくにギブアップしていたはず。
ジョー小泉が「左が引ききる前に右で顔面を狙えばいい」と指摘したが、
理論的には正しいが、それが出来れば苦労はしない。
引き腕からそれほど速いパンチが打てればとっくに世界王者になっているはずだ。

WBA世界ライト級タイトルマッチ 小堀佑介VSパウルス・モーゼス

2009-01-04 18:55:02 | Boxing
モーゼス 12ラウンド判定勝利

論語に『教えありて類なし』と云うが、
ナミビアから来たこの新チャンピオンについては二律背反の命題に思える。
論理学的に記述すれば

逆:類なくて教えあり
裏:教えなくて類あり
対偶:類ありて教えなし

となるはず(管理人の記憶が正しければ)だが、
逆も裏も対偶もボクシングに限って言えば真ではない(かと言って偽とも断定できないが)。

トレーニング次第で様々なボクサーが作られるうるし、現に作られてきた。
しかし、モーゼスのボクシングの土台にあるのは間違いなくその身体能力とスペック。
黒人アフリカン特有のスラリと伸びた四肢としなやかな筋肉は、
超高速のジャブを可能にするとともに、リーチの長さに振り回されない
まとまったコンビネーションが繰り出せるのは足腰、膝、腰、肩、肘、手首の
運動がcoordinateされていることを証明する。
が、ボクシングに限らずスポーツは肉体的な素養だけではトップには辿り着けず、
畢竟、トレーニングとキャリアが物を言うことになる。
耐久力にやや疑問があるが、総合的にスピードがありバネがあり、スタミナもある。
打ち合うことを公言していた挑戦者だったが、相打ちに持ち込まれた際の
王者の気迫と自身の耐久力を秤にかけ、ポイント奪取のボクシングを目指したのは、
intelligenceの証明でもある。

孔子の教えも学問の道においては至言だが、
このようなボクサーを見せられるとやはりかの聖人も東洋人だと無意味に納得してしまう。

いま最も面白い試合をする男と紹介された王者・小堀だったが、その看板に偽りなし。
往々にして羊頭狗肉が跋扈するボクシング界、特に日本において、
このような男が不遇をかこつのはあってはならないことだ。
小堀のサンデーパンチはアルファロを沈めた左フック。
そのパンチを軸に回転力を活かした攻撃を随所で見せ、
またパーリングやボディワークなど防御勘に優れていることも証明したが、
いかんせん相手の力量が上だった。
攻防のスイッチに間断がない挑戦者に対し、射程距離の違いから、
防から攻へのtransitionに半呼吸分遅れたが、これはもうどうしようも無い差。
一番の見所はハートだった。
有効打を浴びながらも必ず反撃し、時に自分のアゴを指しながら相手を挑発。
クイックネスで劣る部分は威圧感でカバーし、ロープやコーナーに追い詰めて
連打する様はがむしゃらなようでいて的確。
とぼけた言動と風体だけではなく、リング内でもショーマンシップを持っていることを見せ付けた。
新井田や坂田の失冠と同じく、挑戦者の力が上だっただけ。
この敗戦は小堀の魅力をなんら損なうものではない。
2009年になったばかりだが、今年の国内最優秀ボクサーの称号を小堀に贈る。