BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBO世界フェザー級タイトルマッチ

2011-05-30 23:23:25 | Boxing
王者 ファン・マヌエル・ロペス VS 挑戦者 オルランド・サリド 

サリド ラウンドTKO勝利

考察 ~ロペス~

試合一か月前の時点で離婚したり、その時のウェイトが150lb超だとか、
プライベートでゴタゴタが報じられ、心身ともにコンディションを作り上げるのに
苦労したことは想像するに難くないが、言い訳にはならない。

展開からR・ムタガ戦が想起されるが、内実としてはマルケス弟戦の方が近いか。
効かされた時にどう踏みとどまるかではなく、なぜそこまで効かされてしまうのかを
考えさせられる試合だったからだ。
もともと攻撃のバリエーションは多くなく、また自身のイズムもディフェンスではなく
攻撃に多大な比重を置いているため、穴を突かれると弱い面はあった。
マルケス弟はフィジカルで圧倒されながらも左フック一本で光明を見出していたし、
ムタガは右の相打ち同時打ちで食い下がってきた。
スタイルとして改造もしくは改良すべき点はあるが、
それをやると高い確率で長所も消える。
必要なのは意識改革の方だ。
5ラウンドに決定的な左から右のコンビネーションを喰った要因は
サリドの第三のパンチへの過剰な意識。
つまり、バッティングへの不安、苛立ち。
バッティングへの最善の対処はバッティングさせない位置取りに尽きるが、
中にはたとえば亀田興毅のバッティングを狙いすましたカウンターのバッティングで
撃退したポンサクレックなどの猛者もいるが、
真似できる技術ではなく、また真似すべき技術でもない。
(ロペスの顔がどうしても興毅にダブってしまう)
浜田氏がロペスの試合の度に指摘する右フックの引っ掛けが
ほとんど見られなかったことに気付いた人は多いと思われるが、
低い姿勢で頭から来る相手は止めるのではなく、柔らかく受け流すこと。
意識さえ変えればファンマにはたやすい。
Sフェザー級(に行くと勝手に断言する)での再起戦の相手のスタイルにもよるが、
次戦はそのあたりに是非注目したいと思う。

心配になるのはダメージの蓄積と表面化。
タフさを売りにするボクサーは数多いが、
その多くは勝っているうちはダメージが顔を出してこないことが多い。
しかしその反面、負けがひとつでもつくと急に打たれ弱くなることがある。
ロペスの今後についてはその辺りも注視していきたい。

この試合はリアルタイムで見ていて、アメリカ実況のAl Bernsteinの頭に
ストップ直後、観客席から飛んできたペットボトルが命中したということだが、
コロンビア以外の国だとこういう騒動は久々ではなかろうか。
相撲だとある意味かなりおなじみの光景だが、
日本ボクシングだと浜田vsレネが思い浮かべる方が多いだろう。


考察 ~サリド~

実況、解説の言う「戦績は数字だけではなく中身を見なければいけません」
というのは明らかに某兄弟への皮肉だろう。
帝拳は自前の世界王者を擁し、下田が海外防衛決定、西岡も機をうかがっているのだから
強気なコメントも出せようというもの。

この試合の勝因は一に第三のパンチの活用。
二にボディワーク。
三に前後左右に散らした連打。
相手に攻勢こそ許したものの決定的なパンチはもらっておらず、
また自身の威嚇の右のオーバーハンドはダウンを奪う前から
相手の顔面を捉えていた。
事前に相手を研究し、長所、短所、特徴、癖などを丸裸にしてきたのだろう。
また、メンタルもフィジカルも安定していて、これといった穴が見当たらない。
こういう選手は逆に研究される、もしくは総合力で上回られるとジリ貧になりやすい。
長射程または高速ジャブの連打で理論的には釘付けにできる(はず)。
経験豊富な選手ゆえに思わぬ引き出しを開けてくる可能性もあるが、
攻略手段の第一感は徹底的なジャブ攻撃。
勤勉かつ冷静でゲームプランに忠実なボクサーなら面白みに欠けながらも、
あっさりコントロールできるような気がする。
もし長谷川がこの新チャンピオンに挑戦すればどうなるか。
中盤以降にムキになって打ち合ってKO負けするだろう。

WBO中南米Sフェザー級タイトルマッチ

2011-05-30 21:07:30 | Boxing
王者 ルイス・クルス VS 挑戦者 マーティン・オノリオ

クルス 判定勝ち

考察 ~クルス~

典型的なカウンターパンチャーだ。
どこがというとパンチの起動/軌道やタイミングではなく、
一発当てる度に「どうだ?」と確認するところ。
カウンターパンチャーの魅力は一にかかってその美しさにあるが、
このクルスはたとえばドネアのような超スピードの一撃必殺型でもなく、
カサマヨルのようなパンチと位置取りのステップが調和しているタイプでもなく、
マルケス兄のようなカウンターからの連打の畳み掛けをするボクサーでもない。
明らかに格下相手には鮮やかな倒しっぷり、もしくは畳み掛けを見せるのだろうが、
この日は相手のtenacityに手を焼いた。
今後の伸びしろは無に等しいと思うが、そこが逆に怖い。
こういう選手が苦戦後に往々にしてエンターテイメント性を無視して、
いわゆる塩ボクシングを突き詰めるからだ。
コット叔父の舵取りが注目されるが、
コットがキャリアを進めるごとに(もちろん対戦相手が強くなっていたこともあるが)
テクニカルな面に磨きをかけていったことを思い起こせば、
クルスの近い将来のボクサー像もある程度見えてくるというもの。


考察 ~オノリオ~

風貌もボクシングもアルフレド・アングロからワイルドさを抜いたタイプだ。
ただ、リーチに振り回されるところがあり、
クロスレンジの連打でナックルがなかなか返らない。
似たような体型でもあるマルガリートはくっついてから
膝、腰、肩を使って突き上げるショートアッパーを武器にしているが、
それは自らのタフネスを頼ってのものであると同時に
ガードを顎もしくはテンプルから決して離さない姿勢からも生まれている。
この状態からインサイドに入れば畢竟すべてのパンチがショートになり、
ナックルパートを当てる意識も高まる。
具体的な指導はトレーナーの仕事となるが、
当人からすれば選手の特徴も弱点も見えているし、
負けを糧に成長できるキャリアの持ち主ゆえに
レベルアップできるのは間違いない。
内山の防衛相手としても面白い。

WBA世界Sフェザー級タイトルマッチ

2011-05-17 20:01:29 | Boxing
王者 内山高志 VS 挑戦者 三浦隆司

内山 8ラウンド終了TKO勝利

考察 ~内山~

立ち上がりのジャブの威力、正確さはサウスポー、オーソドックスを選ばず、
さらに攻めにおいて調子に乗ることもなければ、人気の面はともかくとして
この選手を崩せるボクサーは世界でもざらには存在しないと思われる。
それほどの立ち上がりの素晴らしさだった。
而して3ラウンドのダウンは、三浦のそれしかない武器を正面から直撃されており、
技術的な欠陥、肉体的コンディションの問題ではなく油断、慢心に他ならない。
右拳の手術を最近終えて、練習にも入ったそうだけれど、
それだけパンチ力がやはりあるんだね。
噂ではスパーで故E・バレロと互角に渡り合ったということだが、スパーはスパー。
本番ではない。
パンチ力は文句なく、技術的にも完成されていて、
フィジカルコンディショニングにも優れているのだから
残る課題はメンタル面のみ。
プロキャリアの浅さに対してそのボクシング自体は円熟味を持っているのだから
負傷休養期間は案外、自分を見つめなおす良い機会になっていそうだ。
vsリナレス、さらには粟生との統一戦が観たいが、
JBCトップがゴタゴタしているから、どうなることやら。
ベルトの価値、権威を守るとかなんとかいいながら
最も価値ある統一戦をほとんどしてこなかったのだから、
JBCの体制一新のためにもYさんには退いてもらったほうがいいかもしれない。


考察 ~三浦~

サウスポーのファイターは、いわゆる『オーソドックスなサウスポー』よりも
魅力が3割減、もしくは5割増しになることがある。
この日の三浦は後者。
puncher's chanceという言葉がボクシングにはあるが、
序盤のジャブの差し合いで勝負にならないと悟ったところで、
起死回生の一発が飛び出したが、ダルチニャン的でもありパッキャオ的でもある一撃だった。
通常、一発のある選手は威力を威嚇にして相手を退がらせるため、
踏み込みの幅がどれだけ適度に取れるかが勝負になる。
しかし、3ラウンドの一発に関しては相手の踏み込みに合わせた(合った?)形になり、
威力も浜田氏ふうに言うならば2倍となった。
魅力が増すのはこういうところ。
しかし、中盤以降はその左を数発当てはしたものの、相手のバックギアも入れてしまい、
相手はそれでも打てるが、自身のパンチにはトドメをさせる威力がなく、
逆に自身の肉体的ダメージを蓄積させることとなった。
精神的なダメージは仕草や表情から類推するしかないものだが、
あの顔面を見れば試合後のコメントを聞かずとも心中推し量るのは容易。
棄権時の顔面にシュトルムのジャブにしこたま痛めつけられた佐藤がダブって見えた。

NABA・NABO北米・WBC米大陸ウェルター級タイトルマッチ

2011-05-17 19:35:18 | Boxing
王者 マイク・ジョーンズ VS 挑戦者 ヘスス・ソト・カラス

ジョーンズ 判定勝利

考察 ~ジョーンズ~

ある年代以上になるとMJと言えばマイケル・ジョーダンのこと。
WOWOWでエキサイトマッチのみならずNBAを観てきたファンなら
なおさらだろう。
日本的な意味での名前負けという表現や概念がアメリカにもあるのかどうかは
知らないのだが、それはニックネームに関する日米の概念の違いにあるのだろう。
ゲームプランはシンプル。
ジャブは連打、コンビネーションは3発まで。
ミドルレンジを維持する。
打ち終わりにかぶせられる左フックにはブロック、スウェー、バックステップ。
ボクシングをroutine workにしてしまっても結構戦えてしまうことを証明した。
特にブロッキングはカウンター的で、パンチに反応するというよりは
自身と相手の体勢に呼応して組み上げている感がある。
素質も才能もあるように見えるが、現時点ではスター候補のまま終わる予感がする。


考察 ~カラス~

toughnessとtenacityで鳴らすメキシカンも、打ち合いにならなけれな
自身の長所は生かせない。
スピードと正確性が要求される現代ボクシングにおいてはトラッドともいえるスタイルだが、
それでもこのようなメキシカンの勇猛さには感嘆させられる。
左アッパーと左ボディを機軸にした攻めのためには
距離を詰めることが不可欠になるが、
それを徹底的に拒否されたときに打つ手に欠けた。
前進の意志において日本人ボクサーも負けず劣らずのものを見せることは多いが、
それを素直に称賛できないのは彼らに神風と見るからなのか。

マルガリートの網膜剥離の判明により暗礁に乗り上げたコットとのリマッチも、
もし実現するとすれば、このような試合展開になっていたかもしれない。

WBA・WBO世界ライト級暫定王座決定戦

2011-05-16 22:32:17 | Boxing
ロバート・ゲレロ VS マイケル・カチディス

ゲレロ 判定勝ち

考察 ~ゲレロ~

3ラウンドのダウン以外はパーフェクトとも言える内容。
実況はジョバンニ・セグラ、もとい序盤に両者のリーチ差を指摘したが、
ちょっと待て。
単純に腕が長い短いでパンチが先に当たり、
さらに相手のパンチが自分には届かないということはない。
ハンドスピードはもちろんのこと、タイミング、相手と向き合う角度、
相手の死角への移動、さらに各種のフェイントなど、
リードの取り合い、打ち合いには大まかに言ってもこれだけの要素がある。
たとえばリーチが身長より短く、さらに身長も階級に比して低いM・コットなどは
体格で大幅に劣るY・フォアマン戦でも、ジャブで常に優位を保っていた。
ハンドスピード、フットワーク、タイミング、フェイントの勝利で、
ゲレロにも同様のエッセンスが凝縮されているのが感じられた。
(対戦相手との兼ね合いもあるのだが)
現代ボクシングのサウスポーで真っ先に名前が挙がる面々は
マニー・パッキャオ、セルヒオ・マルチネス、ルシアン・ビュテとなろうが、
各人それぞれに突出したものを有しているので余人を以って代え難いが、
物真似の上手い粟生はゲレロの物真似に励んでもらいたい。

余勢を駆ってSライト、ウェルターまで上げると発言しているらしいが、
年齢、体格、ボクシングスタイルからそれも可能かもしれない。
リナレスとの激突はまだかまだかと2年ぐらい待ちわびているのだが、
GBPには早く実現してほしいもの。


考察 ~カチディス~

J・ディアス戦を別にすれば、カウンターパンチャーに悉く敗れているが、
まるでジャンケンのようだ。
序盤は遠距離でやたらガードを気にしていたが、
そのガードは効果的には機能せず、ジャブをビシバシ当てられ、
もぐりこんではアッパーを喰った。
またワン・ツーだけでなく単発の左ストレートも面白いようにもらった。
完全にジリ貧のままストップされる展開も頭に浮かんだが、
中盤以降はボディ攻撃に冴えを見せ、ローブローも交えつつ勝負になっていた。
ここからは完全な揣摩臆測となるが、カチディスはパンチに酔っているのではなかろうか。
矢吹ジョー的な意味ではなく(もちろんその要素も含むのだが)、
パンチをもらうと気持ちよくなり、体がほぐれてくるというか、
頭で考えていることを体で実行しようとしても、なかなか出来ないが、
パンチで意識がぼやけてくると練習どおりの動きができるようになるとでもいうか。
もはや頭や顔面に熱がこもるとか、体の節々が痛いとかいうのを通り越して、
眠気がするとかまぶたが重いという状態で闘っているように思えてならない。
引退後にコラレスのような交通事故を起こさなければいいのだが。

WBO世界Sバンタム級タイトルマッチ

2011-05-09 22:20:47 | Boxing
王者 ウィルフレド・バスケスJr VS 挑戦者 ホルヘ・アルセ

アルセ 12ラウンドTKO勝利

考察 ~バスケスJr~

バスケスSrと重ね合わせて見ても類似点はそれほどない。
Srと聞いて思い起こされるのは何といっても葛西戦。
ジャブに被せるクロスカウンター、ショートのアッパー、脇を締めた左フックで
葛西を面白いように転がした。
カウンターのタイミングにおいてSrは天稟があったが、Jrにそれはない。
それでもある意味セオリーとも言える右からの返しの左フックでダウンを奪ったのは見事。
長谷川がバンタム時代に愛用していたコンビネーションの対称形で、
近年の印象的なこのコンビネーションによるダウンといえば
A・アブラハムがゲボルに、コットがマヨルガに、内藤が清水に喰らわせ、
やや古いところでは竹原が豆タンク型のKorean fighterにダブルノックダウンしたこともある。
この刹那の交錯にカウンターの醍醐味がある。
また、過去のJrの防衛戦から判断するにパンチ力はそこそこありそうだ。
やはりどことなくコット的で、体形も階級において長身ではなく、
太腿周りとふくらはぎの筋肉が発達しており、脚も使えて、
さらに打たれてもどこか脆い。
プエルトリコの名王者は3階級が宿命づけられているように思えるが、
現状なままならフェザーあたりでもう一回こけるかな。


考察 ~アルセ~

パッキャオの前座というと対ミハレス以来かな?

頭から突っ込むスタイルはもはや芸術の域(皮肉ではなく)に達していて、
胴回りと太腿が太く、下腿と腕回りは相対的に細く、
頭蓋骨が固く、鼻梁はvulnerableという身体的特徴と自身の気性にマッチしている。
階級を上げることでスタイルチェンジを余儀なくされる選手もおり、
逆に減量苦から解き放たれることで、本来のボクシングがさらに活きるタイプもいる。
アルセの場合は後者で、額と額をこすり合わせるような極端な前掛かりの体勢から
バッティングとパンチが同時に出ていく感じ。
かつて鬼塚はvsキリロフの徳山のワン・ツーを指して「ワツッなんですよ」と評していたが、
左右どちらから入るにせよ、アルセの踏み込みもまさにそんな感じ。
節目とすべき試合で近年はことごとく負けていたが、ここにきてこの勝利はでかい。
メキシカン初の4階級制覇は本命ソト、対抗モンティエル、大穴アルセと思っていたが……
今秋もしくは年末年始あたりで西岡と激突してほしい。
場所はアメリカでも日本でもメキシコでもいい。

興毅がまたもアルセと対戦したいと言っているようだが、話半分に聞いておこう。
しかし、正味の話、アルセになら25%の確率で判定勝ちできるかもしれない。

管理人はアルセを評するにミハレス戦でひびが入り、ダルチニャン戦で割れ、
ノンクァイ戦で壊れたと感じていたが、どうしてなかなか頑丈にできている。
某分析ブロガーのAさんがかつてアルセを評して
「ガッティのような激闘王としてまだまだ3年は戦える」と評したが、
それから2年11か月にしてこの激闘。
氏の炯眼には脱帽するしかない。

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ

2011-05-08 23:58:08 | Boxing
王者 マニー・パッキャオ VS 挑戦者 シェーン・モズリー 

パッキャオ 判定勝ち

考察 ~パッキャオ~

ボクサーは誰しも最大の武器を持っているもので、
勝負の仕掛けはそれを当てるための布石作りから始まる。
この試合では初回、踏み込み幅を小さく取り相手の反応を観察し、
また顔面が遠かったこともあり、ボディに狙いをつけた。
以降のラウンドでは踏み込み幅を徐々に大きく取り、
3ラウンドには唐突に一発が炸裂。
その一発はスウェーする相手のアゴに向けてのものだったと思われるが、
実際にはダックしており、瞬間的に軌道修正したようだ。
あれがもし、モラレス3で喰らわせたような腕を伸ばし切る左だったならば
そこで10カウントが入っていた可能性もある。

ダウンと判定されたのはハードラック以外の何物でもないが、
ジャッジが10-8となるところを完全無視したのは面白い。
当然そうあるべきであるし、実際にそうなったことは救い。

またダウン後に明らかに感情的に激していたのも珍しい光景だった。
普段のパッキャオはクリンチ時に相手を打たないが、
11ラウンドだったか、ボディと後頭部にコツンコツンと当てていた。
明らかにパフォーマンス含みのフットワークや威嚇の姿勢よりも
こちらの方が明らかに怖く、不気味だった。
モズリーとしては猛獣と格していたような感覚だろうが、
観る側としては「パッキャオも人間だったか」とある意味安堵できた。
マルガリート戦では相手が不憫すぎて打てないという場面もあったが、
コット戦では思いっきり打っていた。
そのコット戦のように最終ラウンドに踏み込んでの左をぶち込めれば
レフェリーの裁量でストップに持ち込めたかもしれないが、
モズリーほどの選手があれだけ露骨に逃げればKOを逃しても致し方ない。


考察 ~モズリー~

1~2ラウンドは緊張感とともに期待感があった。
右を溜めているように見えたからだ。
当然のことながら、序盤に勝負を決めるプランはなく、
決め手となるのは必然的に距離、間合い、角度、タイミングとなる。
パッキャオの踏み込みの鋭さ、パンチ力、フェイント等々を測るに
ジャブを以ってするのが定跡ながら、それをしないことにcards up his sleevesの存在を臭わせたが、
見せたのはカウンターの左フックのみ。
それも牽制ではなく警戒。
仕掛けを作るのではなく、仕掛けられるのを明らかに恐れていた。
メイウェザーにぶち込んだ右ストレートと右フックが火を噴く展開を
自ら放棄したと言わざるを得ない。
パッキャオにあってメイウェザーにない何かがそうさせたのか?
それともモズリーもデラホーヤ同様、couldn't pull the trigger anymoreだったのか?
はたまたクロッティ、中盤以降のコットのようにsurvival modeに最初から入っていたのか?
答えはそのどれでもありえ、かつ、どれでもありえない。
状況に対する原因が一つに絞れるものなら、対応策も出てくるもの。
強いて一つ上げるとするならば、中盤のパッキャオが一瞬だけテレビ画面に映らせた
Eye of the Tigerに、正しく猛獣に徒手空拳で立ち向かう心境になったものと思われる。
メイウェザー戦ではあらゆる負の感情を顕わにしたが、
今回のパッキャオ戦で顕わになったのはただ一つ、a sense of alienation(疎外感)だ。
この言葉はseparation from selfともseparation from the worldとも受け取れるが、
モズリーも自分が自分でなくなる、世界の誰も自分のことを理解してくれないという
気持ちを味わったのではなかろうか。

実際のリング上での事柄に目を転ずると、バッティングの多さが気になった。
バッティングそのものを武器にしてしまう選手も存在する
(チ・インジンなどのkorean fighters、日本では徳山や内藤、亀田ら)
が、パッキャオ、モズリーともそういうタイプではない。
バッティングの原因には様々あり、意図的なものは論外として、
この試合で頻発した原因はモズリー側にある。
パッキャオの踏み込みに対して無策だったから。
左右の違いがある場合、基本的には頭の位置は非対称になり、
右vs右もしくは左vs左よりもぶつかる頻度は減るものだが、
そうならなかったのはモズリーの責任。
それを論じ出すときりがないので割愛。

唯一の意志としての左フックは、たとえばドネアのような圧倒的なスピードはなく、
それはスキルの違いとともにリーチそのものがその運動に不向きになった。
腕が長いということはそれだけで巻くのに時間がかかるものだから。
(0コンマ0何秒という差だろうけれども)
厳密な測定は不可能だが、左フックを迎撃ではなく警戒に用いたのは
相手の踏み込みの方が自身の左の巻きよりも速いという感覚があったからだろう。
このスピードに対抗できるのはS・マルチネスしかいない。
もしくはハグラ―戦時のレナードとか。

世紀の凡戦になってしまったわけだが、
何故こうしないという打開策をあれこれ探るよりも
何がそれをさせないのかという視点で改めて観れば、
発見するものも多い試合のはず。
ただし、それにはモズリーの次戦が必要。
観客のブーイングを浴びまくった彼にそれがあるのかどうかはプロモーターのみぞ知る。
うん?今、フリーエージェントだったっけ?

WBOウェルター級タイトルマッチ予想

2011-05-07 21:29:33 | Boxing
王者 マニー・パッキャオ VS 挑戦者 シェーン・モズリー

予想:パッキャオ 判定勝利

モズリーのスタミナ難はトレーニングやコンディショニングで
どうこうできる段階を超えているものと(勝手に)判断してのこの予想。
メイウェザーをトラブルに陥れた右の一発が火を噴く可能性も捨てきれないが、
すでにパッキャオ陣営は対応策を練っているはず。
モズリーといえばデラホーヤに2勝したことが光るが、
フォレスト、ライトには連敗。
また、ウェルター以降での鮮やかなノックアウトはバルガス、マヨルガ、マルガリートという、
並べて見ると「いかにも」な連中。
パッキャオのスピードを捉えきれるとは考えにくい。

パッキャオの側に不安要素はあるのか?
挙げるとするならば2つ。
一つ目はモズリーのパンチ力。
パッキャオがライト以降で翻弄してきた相手は基本的には体力型
(ディアス、ハットン、クロッティ)と連打型(デラホーヤ、マルガリート、コット)。
一発の威力は過去の対戦相手と比して最も危険であると考える。
二つ目は当日のウェート差。
マルガリート、クロッティはミドル級超まで戻してきたが、
圧倒的スピード差で振り切った。
モズリーがパッキャオに追随するほどのスピードを今も持つとは思えないが、
マルガリート戦で見せたホプキンスばりのクリンチで、
強引にパッキャオのスタミナを削り取ることも十分予想される。
そうなった際の対応策が早い段階で用意できなければ、
一発に沈む危険性なしとはしない。

まあ、今日はあまり面白くない試合を観たので、明日は楽しみたいと思う。

WBA世界バンタム級タイトルマッチ

2011-05-07 21:25:46 | Boxing
王者 亀田興毅 VS 挑戦者 ダニエル・ディアス 

興毅 11ラウンド終了TKO勝利

考察 ~興毅~

序盤(2ラウンドだったか)に見せたジャブ3連打から右にヘッドスリップしながらの
左ストレートに、一瞬セルヒオ・マルチネスのシルエットが浮かんだが、
4ラウンドに右アッパーを効かされた次の瞬間にさりげなくバッティングをかますところは
さすがとしか言いようがない。
いや、相変わらずと言おうか。
ラウンドが進むごとにジャブが減り、左ストレート以外はナックルパートが当たらず、
ボディワークはもともと皆無で、フットワークはどんどん鳴りを潜めた。
また、左をヒットさせるごとにニヤリと笑う様は、そのラウンドのポイント奪取を
確信したかのようで、KOを目指すというのはリップサービスであることを物語る。
また7ラウンドの開き直りのカウンターでダメージを与えた際には
すかさず自身の回復を目指すところなど、余裕の無さも見てとれた。
8ラウンドのダウンは足を踏んでいたように思うのだが、さて。
続く9ラウンドは露骨なローブローを連発。
10ラウンドのチャンスには猫パンチの雨あられ。
11ラウンドの詰めの段階ではジャブがゼロ発。
レフェリーストップを呼び込むにしても稚拙すぎる。

心身に染みついた親父直伝の亀田スタイルは、
どんなトレーナーを雇っても削ぎ落とせないのだろうか。
絶対的な強者との対戦が望まれる。
それこそが興毅の進化の無二の方法だと思われる。

今手元に一冊の本がある。
『ボナンザVS勝負脳 ――最強将棋ソフトは人間を超えるか』
150ページから引用しよう。
「格闘技にたとえれば5割の力で勝てるような格下の相手とばかり戦ってばかりでは、
自分の本来の能力を出し切ることができない。はるかに格上の強者と対戦し相手が
鋭いパンチを放ってきたとき、それを瞬間的によけることができるかどうか……。
自分の潜在能力に気づくことは強者との対戦でなければできない」


考察 ~ディアス~

なぜニカラグア国旗と旭日旗を持ち続けているのか。
それはテレビ向けのパフォーマンスだから、と信じたい。
試合前のインタビューが本音ならニカラグア国旗だけで充分のはず。
こういう演出がボクシングをチープに感じさせるのだ。

この選手は基本的にカウンターパンチャーだ。
しきりにリーチの長さが喧伝されていたが、初回のワン・ツーを見てガックリ。
体幹も細いので、ストレート系を打つと上半身と下半身のバランスが容易に崩れる。
反面、ショートアッパーのカウンターは相手の八の字ガードも手伝って
要所でヒットした。
ただし、当たったのはそれだけで左右フックの連打は王者よりもナックルが返っていたが、
威力は無いに等しく、それは世界戦の初防衛にちょうどいいというよりも、
世界前哨戦にちょうどいいレベルと見受けられる。
かつて興毅は「俺とやった奴をおれより早く倒せる日本人がおるんか!?」と
吠えていたが、さすがにこのディアスを山中や岩佐と戦わせたいとは思わない。
ミスマッチもいいところだからだ。

PS.
TBSの実況、解説はレベルアップしませんなあ。
なぜワセリンを塗り過ぎているとダメなのかを視聴者に解説できるようになってほしい。
そういうトリビアからボクシングの危険性や公平性を伝えられるのだから。

ところで、この前の亀田大毅の試合を見れるところをご存知の方、いませんか?
いらしたらコメント欄でご一報いただければ幸いです。

ミドル級12回戦

2011-05-02 21:34:52 | Boxing
セルヒオ・マルチネス VS セルゲイ・ジンジルク

マルチネス 8ラウンドTKO勝利

考察 ~マルチネス~

変則的とも正統派とも称されるボクシングをするが、
それらを分けるのはボクサーではなく観る側。
さらにもう一つの要素は対戦相手。
P・ウィリアムスのような規格外のリーチの持ち主や
ミドル級でも群を抜く上背かつパンチャーのパブリックを
向こうに回して披露したボクシングは変則的でもあり、正統派でもあった。
なぜなら前者に対しては反時計回りを見せつつ、インファイトで打ち勝ち、
後者に対してはスピードで煽りながら、終盤にストロングフィニッシュを決めたから。
出来そうで出来ず、しかしそう出来ればいいという。

観る側は上の前提と先入観を持ってこの組み合わせを観るとき、
火花散る打ち合いではなく、冷たいジャブの差し合いを予想するが、
その期待は見事に裏切られた。
スピードが違う。
パンチングパワーが違う。
勝負勘が違う。
実質的に試合を決めた3度目のノックダウンは、
かつてシントロンに叩き込んだいわくつきの一撃を彷彿させる。
その際にはジャブの返りにワン・ツーを撃ち込んだが、
今回は右フックのカウンターに後の先でワン・ツー。

ディフェンスにおいては2ラウンドにしてジャバー相手にノーガードを構築(?)したが、
反時計回りのサークリングはこの選手にとってのサウスポー対策か。
相手の右フックよりも自身の左の方が鋭角で速いという見切り、そして自信の表れだ。
ノーガードは打たせない自信があると同時に、打たせるための挑発でもあり、
打ち込むための布石になっている。
インタビューではこれまでに効かされたのはマルガリート戦、ウィリアムス戦Ⅰ、パブリック戦のみだと
語っていた通り、打たれずに(≠打たせずに)打つを実践する教科書的ボクサーだ。
帝拳の田中トレーナーが「全てのサウスポーが手本にすべき」と語っているそうだが、
手本ではなく理想にすべきか。


考察 ~ジンジルク~

無機質に右を繰り出すそのボクシングは高いディフェンス技術とも相俟って
D・サントスやJ・フリオらをほぼ完封してきたが、
どこかメカ的というかロボットっぽい雰囲気があった。
(イワン・ドラゴのようだ、と言っているわけではない)
打つに際して必ず布石を打ち、パンチの効果と意味を問う。
ボクシング哲学者とでも言おうか。

将棋をある程度指す方なら分かってもらえると思うが、
実力者同士の対局では自分の一手が強ければ強いほど相手の返しの一手も強くなる。
羽生名人はかつてTV番組のインタビューで「反撃を喰わずに攻撃する最善手を目指す」
という旨を語っていたが、ジンジルクのボクシングもそれに通じる。
それを突き詰めたのが右のジャブとカウンターのショートフック。
ただし、それを可能にするのはガード技術。
そのガードの隙間を縫うほどのprecisionとaccuracyを持つジャブが
相手から飛んでくるのは「想定外の事態」か。
ジャブ自体の精度やスピード以外にも、相手の巧みなフットワークとサークリングにより
じっくり見ざるを得なくなり、相手は動くのでじっくり見える、
自分は動かないのでよく見えない、というどこか矛盾した状況に陥ってしまったようだ。
ただし、セミで出てきたリーやマクイワンなら完封できるだけの力量はまだ保持している。
相手が悪すぎたということに尽きる。