BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBA世界Sミドル級タイトルマッチ スーパーシックスSTAGE 3

2010-07-29 09:55:37 | Boxing
王者 アンドレ・ウォード VS 挑戦者 アラン・グリーン

ウォード 判定勝利

考察 ~ウォード~

ケスラー戦のスピーディなジャブと出入りの立ち上がりから一転、
ジャブをpower shotとすることでいきなり相手の出鼻をくじくことに成功した。
もともとスピードには雲泥の差があるので今日はパワーで魅せますか、
と考えていたのならばそれは油断・・・ ではなく大いなる自信。
ダッキングを得意とする選手だが、中腰から頭を下げて潜り込んで打つのが
これほど上手いとは思わなかった。
懐に入ってからは低い重心と背骨を軸にした小さな連打でインサイドから
面白いように連打を打つことができ、なおかつ被弾することもなかった。
攻防一体を追求するとケスラー戦のようなスタイルになるのかと感じたが、
相手の懐でもアウトボクシングができるとは想像以上だ。
この手のボクサーは相手の全体像を視界に収めた状態で戦うことで
自身のスピード、技術を最大限に活かすものだと考えていた。
事実、同じ系統のメイウェザーはその距離で最高のパフォーマンスを発揮する。
しかし、ウォードがこの試合で披露したパフォーマンスは
相手の体重、重心の位置から息遣いまでを”目”ではなく”肌”で読み取ったからこそと思える。
アマキャリアで身につくものではなく、かといってプロの戦歴はまだ浅い。
トレーナーの優れた指導によるものか、両親から与えられたセンスの為せる業か、
はたまたsumo wrestlingを研究しているのか。
スキルのみならずボクシングIQの高さでもスーパーシックスをリードする存在であることを証明した。
カルザゲの後継者に最も近い男としての地位を確立したと断言できる。


考察 ~グリーン~

容易に懐に入られ、容易に両差しで寄り切られ、
容易にパンチを上下に浴び続けた。
まさに蛇に見込まれた蛙状態だったと言える。
カルザゲと相対した時のJ・レイシーを彷彿させるほど
何もせず、何もできず、また何もさせてもらえなかった。
相手の入り際にも密着してからも左ボディを狙おうという意図は随所に見えたが、
スピードの差、そして駆け引きの上手さの差で隙は何一つ見つけられなかった。
その様はさらにたとえるならメイウェザーvsモズリーの3ラウンド以降のようでもあった。
アウトボクシングを仕掛けられると予想していたものと思われるが、
想定外の超接近戦を挑まれ、軽いパニックに陥っていたように映った。
ボクサーの心理状態はring entryの際の表情によく顕れると言うが、
ラウンド終了後にコーナーに帰る際の表情、何気ない仕種、足取りの重さもしくは軽さには
フィジカルとメンタルの両方がより素直に現れる。
焦り、迷い、混乱から抑うつに至ったのではないかとも感じられたが、
次戦もタイトルマッチで相手もケスラーと汚名返上には申し分ない。
観るもの全ての予想を超越する展開続きのスーパーシックス。
この試合だけでグリーンをwrite offするのは時期尚早だろう。

ジョーは「アラン・グリーンはアカン・グリーンでした」
とか何とか言うと予想していたが外れてしまった。
俺もだいぶオッサンになってきたってことか。

NABF・NABO北米Sウェルター級タイトルマッチ

2010-07-26 22:35:14 | Boxing
バーネス・マーティロスヤン VS ジョー・グリーン

マーティロスヤン 判定勝利

考察 ~マーティロスヤン~

アップライトからのワン・ツーを基調とし左右ボディは単発気味だが、
相手と自身の距離と角度を常に計算しながら戦う習慣が身についている。
その割にはパンチの的中率がイマイチなのは相手のレベルもさることながら
タイミング取りの布石に欠けているから。
間断なくステップを踏み、小刻みにグローブを動かしながら
自分自身のリズムを作っているのだろうが、ハイレベルな攻防におけるタイミングは
自身のリズム構築と相手のリズム撹乱を同時に行うことを指す。
マルケス兄ならばカウンター、S・マルチネスならスピードとボディワーク、
モンティエルならフェイントという具合に、現代ボクシングはリズミカルな選手に味方する。
今後はアングロ、シントロンらと競っていくことが期待されるが、
まだライバル連中に一歩及ばないように見える。
それにしても同胞であるアブラハム、ダルチニャンのような豪腕タイプだけでなく
正統派のボクサーもアルメニアからは生まれてくるんだね。
アスリートのレベルの高さは人口を土台にするのではなく、
民族の背負ってきた歴史の悲哀に比例するのかもしれない。
支配されたことのないアメリカ、占領の歴史の短い日本が伸び悩むのはこのあたりに根があるのか。
だとすればやはり来るべき時代のリングの主役アフリカ、インド、そして中国から生まれてくるのだろう。


考察 ~グリーン~

サウスポーでありながら右ジャブを多用せず、
単発で当てるだけで満足しているように見えるのは
黒人特有のメンタルにその原因があると思われる。
ストレートは突き刺さるほどのスピードがあるが、
相手の位置取りの巧みさの前に不発。
あれこれできる器用さを持っているような雰囲気とは逆に
攻と防の大雑把な使い分けしかなかった。
体格、スタイルともにアンドレ・ベルトと共通点を多く持っているので、
マッチメイク次第で化ける予感もある。
ベルトは時節に恵まれて王座をゲットしてから苦労が続いたが、
この選手はここで負けたことでもう一つ上のレベルに上がるきっかけになったと思う。
その一段上のレベルはまだ世界王者レベルではないのだが。

ライトフライ級10回戦

2010-07-25 20:21:46 | Boxing
井岡一翔 VS アルバート・アルコイ

井岡 9ラウンドTKO勝利

考察 ~井岡~

効かせてからの仕留め方に課題ありあり。
詰めに関してはN・ドネアを参考にするとよい。
強いパンチでバタン、あるいはクリーンヒットでスッテーンと相手を転ばせたいのだろうが
生来のパンチ力はそこまで突き抜けてはいない。
自身もそのことは体感的に理解しているに違いなく、
だからこそ無闇に右と右のカウンターを狙っていたのだろう。
決まれば最高のフィニッシュシーンを演出するパンチになるが、
自分がもらってしまったときのことまで考えていたのだろうか。
本人からすればそこだけは見えているのだと思うが、
観ている側からするとかなりひやひやする。
実際に軽いパンチはきれいにもらっていたわけだから。
やはり国重戦が時期尚早だった。
積み上げたキャリアが少ない、ないしは足りないと
相手のごまかしを冷静に攻略できなくなるのだろうか。
名城や井岡甥を見ているとそう思う。
センス、素質、才能など、持ち合わせたものはどれも悪くないが、
それらが開花するのを待たずして世界戦まで突っ走りそうだ。

本人は辰吉みたいに壊れたいと思っているのだろうか。
また、陣営も辰吉のように壊れてほしいと願っているのだろうか。
最短奪取よりも長期政権。
話題作りのためだけの性急な世界挑戦には断乎反対!


考察 ~アルコイ~

フィリピン人らしく柔軟でダメージを逃がしやすい体を持っているが、
ボディから失速するのは、ある種のお約束か。
当て勘は結構良かったが、背中を丸めて打っては威力も半減。
相手のガードの隙間は見えていたのだろうが、
自身のガードをかいくぐって飛んでくるパンチに徐々に身も心も削られたか。
あとわずかに冷静さがあれば、相手のスタミナ難にもつけこむことはできたはず。
呼吸が苦しくともアゴを引く体勢さえ作っておけば
自然と相手の全体像も目に入るもの。
あとはフィリピーノ全体の傾向だが、明確な意志のあるジャブの欠如。
日本を主戦場にするなら身につけて損はない技術だ。
伸び悩みどころか落ちつつある嘉陽とならかなりいい勝負をしそうではある。

レフェリーストップは良いタイミングだったね。
あれが世界標準だということが日本のファンにも浸透してほしい。

Sバンタム級10回戦

2010-07-25 19:53:28 | Boxing
亀田興毅 VS セシリオ・サントス

興毅 4ラウンドKO勝利

考察 ~興毅~

ますます顔に険が出てきたな。
プレッシャーをふっ切った大毅と異なり、
ますます無様な格好は見せられないとの想いが強くなったようだ。
今までに何度も書いてきたが、興毅が目指すべきは徳山スタイル。
それは本人も渋々ながら理解しているはず。
(さもなければ今でも「パッキャオになる!」と息巻いてるはず)
強いパンチで華麗に倒したいという幻想はさっさと捨てるべき。
カウンターぶち込んでサッとガードに戻す様を見ていると
相変わらず打たれた際の脆さを必要以上に怖がっているとしか思えない。
ならば打たれせずに打つスタイルを完成させればいい。
それだけのpotentialもintelligenceもあるだろう。
相手に対する有形無形の嫌がらせの数々を身につけねばならない。
ミーハーファンではなくコアなファンへアピールせよ。
有象無象の相手をKOしただけでカメラの前で大見えを切るのは止めた方がいい。


考察 ~サントス~

ドネアに対して戦略的減量失敗を決行したコンセプシオンを思い出させたが、
肉体の締まり具合に「何じゃそりゃ」とがっくり。
明らかに調整不足(≠調整失敗)。
どうしても試合がしたい興毅の都合を読み切っての
計画的overweightならかなりの策士と呼べたはずだが、
グローブが重いぜと言わんばかりのパンチの軌道にさらにがっくり。
世界挑戦4度の経歴って、便利屋かいな。
どうせロートルを呼ぶならナバーロやキリロフ本人を
呼んでこんかいと思うが、どうだろうか?
日本に来たこともある選手たちだけにオファー次第では来ると考えられる。
ただし、本気で仕上げてくる可能性もあるので再起戦にはお勧めはできない。
興毅は世界前哨戦と銘打ちながらこの相手を連れてきたということは
今後3~4戦はスタイルを模索していくのだろう。
ぜひ徳山ばりの玄人”だけ”をうならせるボクシングを身につけてほしい。

サントスはまだまだ自国で若手の踏み台として体を張るのだろう。
壊れない程度に頑張ってほしい。

バンタム級10回戦

2010-07-25 19:52:50 | Boxing
亀田大毅 VS ロセンド・ペガ

大毅 判定勝利

考察 ~大毅~

斜に構える姿に軽い衝撃を覚える。
ボクシングの型はできたが形にはなっていない感じ。
大毅は悲しいかな、短足かつ上半身に筋肉をまとっているので
スウェーやウィービングの際に重心が不安定になる。
クラウチングもしくはアストライドで無理やり地に足をつけるスタイルが似合う。
(トレーナーはそうはさせないだろうが)
一発もらってから立て続けに顔面にもらう場面を幾度となく作ったが
急造ボクサースタイルと積み上げたキャリアの少なさが出た。
鬼塚の好きな「見栄え」が良くなかったね。
パンチの引きの速さをやたら意識する興毅のような右を見せるようになったのは
兄への憧憬ではなくトレーナーの方針だろう。
右は全力で打たずに7割程度にとどめ、左を8割の力でダブルで撃てるようになれば
かなりイイ線行くと思うがどうだろう。
亀パパの影響からは確実に脱しつつあると思われる。
ただ色々と技術的な部分を試してみたが、
結局どれも帯に短したすきに長しではなかっただろうか。
8ラウンド後半からは頭から突っ込むスタイルが復活したしね。
いずれにせよ、次戦までは時間が無さ過ぎるので
坂田戦では70%の確率でアウトボクシングかな。
115-114(坂田にダウン1)のユナニマスで坂田が勝ちそうな気がする。

PS.
大毅は滑舌が悪く喋りの内容も前後不揃いだが、
いい顔をするようになったと思う。
過去の言動や反則騒動は消しようのない汚点だが、
試合の内容と姿勢で返していくしかない。
優等生然とした言動だけではなく、
今日のようなボクシングが楽しいという表情を見せ続ければ、
新たなファンも生まれてくるに違いない。


考察 ~ベガ~

小松といい勝負をしたと聞いていたので
こりゃ駄目だと試合前から感じていた。
内容は案の定、グダグダ負け。
世界王者が世界前哨戦とはこれいかに?というマッチメイクだが
亀田流のマッチメイクだと思えば違和感なし。
左フックを鼻先でかわす技術を見せたが、
オープンガードの相手に打っていけないのは王者の重圧なのか、
この選手のやる気の無さなのかはなかなかに判別しづらい。
まあ、その両方だろう。
顔面にポコポコときれいにまとめる瞬間は作ったが、
気力・体力ともに大毅の相手ではなかった。
小銭稼ぎでボクシングをしているわけで、
無気力ボクサーとは一線を画す。

WBA世界Sウェルター級タイトルマッチ

2010-07-19 22:58:26 | Boxing
王者 ユーリ・フォアマン VS 挑戦者 ミゲール・コット

コット 9ラウンドTKO勝利

考察 ~コット~

リングをcut offするのが実に巧み。
そして自身でリングをwideに使うのも上手い。
必死に追っているようでいて実はリング中央でうろうろしているだけ、
というファイターが多い中、コットの技術は光っている。
相手が前後左右にせわしなく動くタイプなだけに尚更そう思う。
上体と上肢をいつもどおりのスタンスで構えたところに
前足と引き足の間隔を相手にそれと分かるようにオープンにしたりスクエアにしたりと、
新トレーナーのもとで間合いの駆け引きに新境地を開いたかな。
元々パンチがあるだけにこれ自体も立派なフェイントとして通用する。
身長、リーチのハンデなど無きが如く戦うのはcareerで培ったintelligenceの為せる業で、
そのことは4ラウンド以降の右ストレートへのadjustにも表れていた。
あれはモズリー戦のメイウェザーを意識したのかね。
承認団体さえまともならば次戦は石田のはずだが、
悲しいかな、コットにもアラムにも路傍の石同然だろう。

ヒヤリとさせられたのは4ラウンドだけだったが、
コットにはどこか一発で沈みそうな危うさが常につきまとっている。
3階級制覇だが、ジンジルク、アングロ、マルチネスの誰とも戦わないだろう。
パッキャオとのrematchかメイウェザーのvictimとなるか。


考察 ~フォアマン~

初回からパンチ力、そしてプレッシャーの強さは段違いで、
hit and break away(いわゆるヒット&アウェイ)をするつもりが、
そうせざるを得なくなった。
ボクシングであれ野球であれ将棋であれ、やることが同じであっても
自分の意思で選択的に行うことができるかどうかで勝負の綾は大きく動いてしまう。
隙のないガードでも上から打ち続けるプランを練っていたはずだが、
さあ打ってみなさいとばかりにその隙のなさを強調されると焦りや迷いが生じる。
結果、あらゆるパンチにブレーキがかかると同時にあらゆるステップにブレーキがかからなくなった。
そのことと無関係だと信じたいが、元々下半身主導のボクシング故に足に故障があったんだね。
6ラウンドの1分10秒ぐらいだったか、
何の変哲もないステップで表情をしかめた瞬間に古傷が再発したのだろう。
そして7ラウンドに限界が来た。
顔面、ボディともに相当苦しい状態だったと推察されるが、
膝のダメージがそれを上回っていたに違いない。
ベラルーシ、イスラエルというボクシングではperipheralなルーツを持つ稀有な存在だけに
この怪我はしっかりと治療しておきたい。

それにしてもレフェリーがとことん石頭だった。
NOマウスピースになった時間が2度あったが、
一度目は機を見て両者を分けて仕切り直すまでに相当の時間がかかり、
二度目は結局流してしまった。
極めつけはストップのタイミング。
"Only the referee can stop the contest."とは言うが、
そこまでmethodicalであるべきなのだろうか。
数十年前にはリングサイドの観客が見るに見かねて、
あるいは面白がってタオルを投げ入れる事件が頻発した故に、
USAではタオル即TKOを認めていないという話を読むか聞くかした記憶があるが、
状況によりけりだろう。
9ラウンドの"That's it"連発に至っては笑止千万。
だったらその前に止めろという話だ。


PS.
ぶどう膜炎はひとまず収まりましたが、見えにくさは残っています。
一時は、すわ網膜剥離か?とも感じましたが、主治医によると大丈夫そうとのこと。
眼底網膜のサルコイド結節がなかなか曲者ですが黄斑ではないので視力低下はほんの少し。
眼圧も正常、新生血管もなし、硝子体混濁だけは我慢することにします。
夏季休暇に入ったら溜まっているレビューを上げる予定であります。

WBA暫定世界Sフェザー級タイトルマッチ

2010-07-19 22:57:32 | Boxing
王者 ホルヘ・ソリス VS 挑戦者 マリオ・サンチャゴ

ソリス 判定勝利

考察 ~ソリス~

マルコム・ゲドーの如くインパクト時にフィストを握りこまないジャブが奏功した。
前腕が常人よりも微妙に長く見えるが、実際に長いのだと思う。
肘から先をインサイドにわずかにたたむようなジャブは
相手のタイミングと角度を狂わせることに利した。
また距離が縮まってからは肘のみを支点にした手打ちフックを的確に繰り出した。
ラリオスは同様のフックに前足の踏み込みと肩の入れ・回転で威力を付したが、
この選手は手数で威力を補うタイプ。
だがその拳はやはり軽い。
けれど、これはこれで可とすべし。
超がつくほど極端な喩えになるが、イチローには長打力が足りないなどと言えるだろうか。
ジョー小泉の提案をすべてこの選手に飲ませるとあらゆるメカニズムを崩すと考えられる。
伝統に則ったファイターを生み出すのも大切だが肉体的素養に合わせたボクサーを作るのも大切。

内山との激突が期待されるが、あっさり内山が料理しそうな気が。
メキシコでやれば内山の僅差判定負けの予感も。

考察 ~サンチャゴ~

前回観た時よりもバネ、リズム、メンタルのノリの全てが落ちている。
センスを感じさせるボクサーだったが頭から突っ込んでいく様は
そのマスク、髪型、こちら側の印象・記憶とマッチせず無様ですらある。
オーソドックスが苦手だということは考えにくい、というか考えられない。
階級を上げて体が重いなどということはあるまい。
指導者が変わったか?
故障でも抱えているのか?
敵地で臆したか?
それともガールフレンドに「攻めてるアナタが素敵」とでも吹き込まれたか?
ノリで戦えばワン・ツー一辺倒でもかなり戦えるが、
冷静沈着なテクニシャンを崩すには手持ちの武器が圧倒的に足りない。
粟生の前哨戦の相手としてセニョール本田に目を付けられたのではないか。