BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ

2012-02-19 18:49:05 | Boxing
王者 ビタリ・クリチコ VS 挑戦者 ディレック・チゾラ

クリチコ 判定勝利

考察 ~クリチコ~

左手にトラブルがあるというジョー小泉の観察はおそらく正しい。
なぜなら復帰後のビタリの哲学はpunishment first(ダメージ優先)だから。
ボクサーとしてスタイルが噛み合わないというのではなく、
もともとテンション高めで常にラップを口ずさんでいそうなタイプが
人間的に苦手なのだろうか。
(政治家を目指す上では克服すべき課題だと思うが)

それはさておき、左を使えないハンデは予想以上に大きく、
しかし決定的なハンデとはならなかった。
重厚なボクシングを展開することはできないまでも、
ディフェンス面でこれまで見られなかった(見せる必要のなかった)
フットワークを披露し、またショルダーブロックにスウェーバック、
打ち終わりにカウンターの右をショートで放ったりと、
まるでテクニックのショーケースのような試合になった。
とくにスウェーは毎回見せていながら、それらは反射神経だけで行なっていたが、
今回は相手をじっくり観察し、その中で軌道、タイミングを読みきった上で
文字通り鼻先で避けていた。
初めてコンディション不良のなか戦ったわけで、
言葉の本当の意味に置ける経験の勝利。
この王朝の支配は今年中はまだ続くことだろう。


考察 ~チゾラ~

軽量後のFace-Offでなんらかのアクションを取る場合、
おそらくpromotional purposesがある。
つまり、ある程度事前に示し合わせているのがほとんどだと考えられる。
なぜなら、素手によるパンチで相手を負傷させれば傷害罪が成立し、興行も不成立。
莫大なキャンセル料や承認団体からの罰金、コミッションからの制裁もある。
ゆえにバレラ-モラレスのような例外的な=突発的なパフォーマンスはあったにせよ、
この手のパフォーマンスはどこまでもパフォーマンスなのだ。
(日本にも例外的な=確信犯的なパフォーマー一家がいるけれど)

ではチゾラのビタリへのslapping、そしてウラディミールへのwater spitting。
21世紀随一のパフォーマーの名誉をこれだけで得たと思われるが、その効果も大きかった。
ひとつにはナチュラルに威嚇的なオーラを放つビタリ相手に
まったくビビっていないということを本人に印象づけたこと。
これで王者の心理的な優位がいくぶん崩れたようだ。
ふたつに、カムバックからこれまで、相手をじっくりと痛めつけ、
後半にトドメを差すというペース配分に狂いを生じさせたこと。
最も警戒すべきは打ち落としの右ではなく、その前に突き上げられる左ジャブ。
その手数を減らせるのならば罰金もなんのそのだろう。
そして最後にウラディミールへの挑発。
勝っても負けてもクリチコ兄弟に絡めるという、
lucrativeな将来を見据えた行為だろう。
(たどり着くのに時間はかかるだろうが)

のしのしと前進し、頭を振り、左フックをワイルドにぶん回すさまは
かつてサミュエル・ピーターがウラディミール相手に初回だけ実行したプランと同じ。
そのフックは中盤には早くも見切られ、ここから二の矢三の矢があるかと
観る者に期待を抱かせたが、結局はワンパターンに終わってしまった。
L・ルイスの警告ほど一方的にはならなかったものの、
終わってみれば前に出てくるK・ジョンソンとでも言おうか、
テンションだけ高いクレイジーなボクサーという印象だ。
D・ヘイよりは楽しませてくれたが、それでもクリチコ王朝は揺るがない。

WBO世界Sバンタム級王座決定戦

2012-02-19 14:28:47 | Boxing
ノニト・ドネア VS ウィルフレド・バスケスJr

ドネア 判定勝ち

考察 ~ドネア~

前戦に続き世界レベルのコンテンダーがKOされないことを一義に戦ったわけで、
これはパッキャオにおけるvsコットやvsクロッティと同じ構図。
ここまで積み上げてきた旋律のKOシーンを思えば、それもある意味当然。

カウンターの左フックが持ち味であることは言うまでもないが、
対オーソドックスにおけるリードたる左ジャブも冴えわたる。
中間距離での主導権争いはジャブで決まるが、
ドネアのジャブはそのスピードと初動モーションの小ささ、
だらりと下げた位置からビシッと鞭のごとくしなる。
もしこれを間断なく撃たれたら、バンタム、Sバンタムでは
全選手が完封されてしまうのではないかと思わせる。
ただしドネア本人の哲学は判定ではなくノックアウト。
決め手は言わずもがなの左フックで、そのことはなにより対戦相手が分かっている。
実際に左フックを狙う局面は多かったが、相手があれだけ右グローブを
顔面から離さなければ、一発KOは難しい。
しかし、左アッパーは中間距離からスマッシュ的な角度でアゴにカツーンとヒットし、
実際にそこからの左フックでダウンも奪った。
barrage of punchesで決めきれなかったのは、敢えてそうしなかったから。
ドネア自身がカウンターの怖さを誰よりも知っているのだ。
最終ラウンドは倒しきれなかったことを観客に詫びるかのように
ロープアドープで華麗に捌き、避け、的確に打った。
ショーマンシップも旺盛だ。

試合後のバンデージの血の滲み方と人差し指の腫れからして、
骨折している可能性が高いと思ったが、皮膚が裂けただけらしい。
ただ今春の西岡戦がずれこむ可能性はある。



考察 ~バスケスJr~

下から上がってきたものの、自分よりも大きい相手。
パンチもスピードも上と考えられる相手に対して、
まず取るべき戦略が、倒されないこととなると、
これはO・ナルバエスと同じ心理。
おそらくシドレンコもそうだったが、
対策不十分でなぎ倒されてしまった。

アルセ戦よりもさらに高く、さらにアゴにピタリとついたグローブを見ると、
以下のことが考えられる。

1.ドネアのパンチへの警戒
2.自分のアゴの弱さの自覚

1への対策はガードの高さと位置。
2は悪夢のアルセ戦の大逆転KO負け。
アゴが弱いというよりも、ダメージがなかなか抜けないというか
効いてしまった時に心理的なダメージが尾を引くというか、
試合終了のゴングと同時に万歳していたが、
勝利がテーマだったのではなく倒されないことがテーマだったようだ。

もともと左フックに強さもスピードも宿り、自信も抱いていたようだが、
左を交錯させる場面もなく、またフックで展開を作るでもなかった。
ジャブが意外にもヒットし、中盤はそこから盛り返せるかもという期待が生じたが、
やはりディフェンス一義で練習してきたのだろうか、
ボディワークの冴えを随所に見せ、特にドネアの隠れたサンデーパンチである
右ストレートに対して細やかなスリッピングアウェイで対応した。
負けはしたものの善戦したと言っていい内容。
ただ下落した商品価値は上がっていない。

WBC世界ミドル級タイトルマッチ

2012-02-09 14:21:21 | Boxing
王者 フリオ・セサール・チャベスJr VS 挑戦者 マルコ・アントニオ・ルビオ

チャベスJr 判定勝利

考察 ~チャベスJr~

現ミドル級のラインナップの中では体格に恵まれており、
反則ギリギリの肘使いもあり、バッティングを厭わない前傾姿勢も手伝って、
インサイドでは抜群の強さを見せる。
その距離から繰り出す左フック、左アッパーは元々の威力に加え、
ボディの弱点(レバー、ストマック)にグサリと突き刺さる軌道で、
打ち合いの中では絶対的な武器だと言える。
反面、打ち合いにならなかった際に何か武器があるのかという
攻撃のバリエーションの乏しさを見せてしまったとも解釈できる。
これまでは若さゆえにムキになって露骨な打ち合いに持ち込んでいるのかと思っていたが、
もしかすると無骨に殴り合うスタイルでしかボクシングができないのかもしれない。
父親譲りと言ってしまうことに抵抗があるのはこの点。
SrはJrほど身長がなく、その代わりに下半身の強靭さと広すぎない肩幅、
厚すぎない胸板から繰り打されるパンチの回転力が武器だった。
Jrはその点で攻防のつなぎがスムーズでなく、
打たせるのではなく、打たれる瞬間があまりにも多い(ように見える)。
まるで亀田大毅を観ているようだ、と表現すると流石に言い過ぎだろうか。
世界王者となってからも少しずつではあるが着実に成長してきているのだが、
その分、試合ごとにボクシングの自由度を狭めているように思える。
”ジュニア”という名前が重石になっているのだろうか。
限界を超えるべく、本物のマッチメークが必要だ。
セルヒオ・マルチネスと戦わない限り、
本物の(≠本当の)評価は得られない。


考察 ~ルビオ~

パッと見て特徴に乏しく、じーっと見てもはやり特徴に乏しい。
D・レミュー戦と何か変わっているかと思ったが、何も変わっていない。
つまり、それだけ完成度が高い選手というか、
バランスの取れた選手ということだったのか。
タフネスと精神力もメキシコの世界ランカーなら当然といったレベルで、
体格に優る相手のラッシュに防戦一方とならず、
適度に打ち返すのもポイントを渡しても流れは渡さないという意思表示だ。
こういう選手は誰に対しても善戦してボロ負けすることは滅多にないのだろうが、
その代わりスカっとした勝ち方をするのも珍しいはず。
今後もミドル級戦線で王者から安全牌として招かれることも多いだろう。
そしてそのチャンスをものにできずにキャリアを締めくくる。
そんな気がしてならない。

WBA世界Sフェザー級統一戦

2012-02-07 07:37:35 | Boxing
正規王者 内山高志 VS 暫定王者 ホルヘ・ソリス

内山 11ラウンドTKO勝利

考察 ~内山~

同じ団体でも2ヶ月休みで休養王者にされる者あれば
10ヶ月休みでも休養王者にされないとは一貫しませんなあ。
正規と暫定の統一戦決定でまた暫定立てるとか、
そこまでいくとWBAのboard of controlは腐っているとしか言いようがない。
承認団体に信を置けないならば、我々は何をもって世界王者を認定するべきか。
それは我々自身の眼に他ならない。

内山の最大の特徴はそのパンチ力。
しかし、最大の長所はというとその洗練されたスタイルだと思う。
最近の日本の世界王者(あるいはその予備軍)は、
性急なマッチメークで当面のランクアップだけを目指し、
ボクサーとしてのレベルアップには目を瞑ってきたように見えるが、
この王者は近年の日本のボクシングシーンには珍しく、
世界王者になるまでに十分な経験を積み、
なおかつ世界を獲得してからもその伸びしろを着実に伸ばしてきている。。

坂東、三浦に一発を食ってきた不安要素は、
技術の欠如というよりも集中力の途切れによるもので、
相手のレベルが高くなるほどconditioningやconcentrationが
より高まるタイプだと推測される。
故E・バレロと互角のスパーを繰り広げたという業界の噂は
試合を観れば観ればみるほど事実だったのだと首肯せざるを得ない。

パンチ力そのもの威嚇としたプレッシャーと
全てに卒のないボディワーク、リングを巧みcut offするフットワークと
それらを総合したintelligenceは日本のボクシング史上において
屈指の完成度と言える。


考察 ~ソリス~

浜さんが言う「変なタイミングの持ち主」という評価は表現としては不適切だが、
評価としては当たっている。
正統派を極める王者の攻撃に対して、歴戦のキャリアで培った勘と防御技術で
対抗しようとしたが、それらを押しつぶす王者の重厚なボクシングに初回から膝を屈した。
中盤以降はカウンターに活路を見出すしか方策がなく、
あわよくばアクシデンタルなノックダウンでも、という心境だったようだ。
超一流相手にKOで沈む姿が様になってきた感すらある。
最後の左フックはそのコンパクトさにおいて日本人離れしたボディメカニクスを証明し、
そのインパクトにおいてドネアを彷彿させた王者。
ガンボアに敗れたところから超一流であることは証明されていたが、
それでも日本のリングでこのレベルの相手にKO防衛を飾った選手は
近年では見当たらない。
素晴らしい敗者(≠負け役)となってくれた。

WBA・IBF世界Sライト級タイトルマッチ

2012-02-03 23:42:32 | Boxing
王者 アミール・カーン VS 挑戦者 レイモント・ピーターソン

ピーターソン 判定勝ち

考察 ~カーン~

単純な体全体のスピードならばメイウェザーを超えているのでは?
そう判断させるほどのスピードがどの試合でも序盤、特に初回にある。
ジュダー戦、マクロスキー戦などもそうで、
相手にとってはこのスピードに煽られるか否かが勝負の鍵を握ることになる。
カーンからすると序盤はほぼ無条件に主導権支配に成功できるわけで、
一度掴んだペースを離さないことが最低ライン。
しかし、この最低ラインが存外に高いハードルであることが判明した。
アインシュタインならずともスピードは相対的なもので、
ボクサーにとってのスピードも、スピード以外の要素で速度の増減はありうる。
それがつまりテクニック。
カーンにとってのスピードはフィジカル面のそれのみで、
たとえば相手が眼のフェイントをいれてきたときに
「まっすぐ」引いてしまう癖があることが露呈した。
スピードスターに特有の脆さと言うべきか、
たとえばM・マイダナ戦で絶体絶命のピンチに陥った経験から
フットワークの真髄を学んだに違いないと(勝手に)確信していたが、
中盤以降にピーターソンが強めてきたプレッシャーに飲み込まれていたようだ。
と言うのも、そのプレッシャーをいなす、もしくは軽減するような策が
何一つ実行できなかったから。
詰めてくる相手をジャブで止めるのか、
ワン・ツーで止めるのか、
カウンターで迎え撃つのか、それとも脚で翻弄するか。
カーンは第4の選択肢をメインに選んだが、
そのフットワークは翻弄するというよりも翻弄されたもので、
たとえばコットがマルガリートとの2戦で披露したような
小刻みなサイドステップを交えるでもなく、
シントロンがアングロ戦で見せた効果的なカウンターを打つわけでもなかった。

何か本質的に弱気の虫でも腹の中に飼っているのだろうか?
プレスコット戦は事故で片付けてよかったのかもしれないが、
今後は対戦相手もかなり強気で向かってくるだろう。
28歳で絶頂のまま引退というプランの実現が困難になってきた。



考察 ~ピーターソン~

初回のスリップは明らかにダウンで、
その後のダウンはスリップに見えた。
第一ラウンド早々のダウンはレフェリーも心理的にダウンを宣告しにくい。
これは河野もフィリピーノ相手に初回いきなりダウンして
レフェリーにスルーしてもらったことがある。
立ち上がりは最悪で、早い段階で連打を浴びてのTKOもありうるかと思わせたが、
カージョ、オルティス、ブラッドリーらと戦ってきた経歴は伊達ではなく、
コテルニク、マイダナ、マリナッジ、ジュダーに勝ってきたカーンよりも
あるいは濃密なキャリアと言えるかもしれない。
そのブラッドリー戦ではプレッシャーをかけても相手に軽くいなされたものだが、
この夜の相手はプレッシャーにもろに圧されてくれた。
あれよあれよとカーンを追い回し、ローブに詰めたが、
そこからのパンチに威力はあるが精度に欠け、
攻勢は取るものの、ダメージを与えるには至らないという、
序盤戦とは異なる意味のサスペンスがあった。

この試合の決め手は最終ラウンドの減点。
hometown advantageだと言ってしまえばそれまでだが、
あまり露骨にそう解釈されてしまうレフェリングもいかがなものかと思う。
確かにカーンのプッシングは見苦しかったのだが……
IBFの役員がリングサイドでどうだこうだという
スキャンダル手前の情報も聞こえてくる始末。
リマッチの機運が高まっているので、決着はリング上でつけてもらいたい。

今後はJ・M・マルケスとの対戦が取り沙汰されているが、
そんなマッチアップになにか意味があるというのだろうか。