BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBA・IBF世界フェザー級王座統一戦

2010-10-11 22:48:35 | Boxing
WBA王者 ユリオルキス・ガンボア VS IBF王者 オルランド・サリド

ガンボア 判定勝利

考察 ~ガンボア~

「調子に乗る」と日本語で言った場合、受け取り方は二通りあると思う。
すなわち「図に乗る」の意と「調子の波にうまく乗る」の意と。
この日のガンボアは言うまでもなく前者で、
いつも hit & break away の away ではガードが下がるが、
この試合では上げるつもりがなかった。
そこに呼び込んで打たせてカウンターを取る意図もなく、
ただ相手を舐めていただけ。
パンチ自体も90%が手打ちで、これはいわゆるパシャパシャのパンチではなく、
意図が込められていないパンチという意味。
それでもクリーンにヒットし、時にダメージを与えるのだから
評価できないわけではないが、10ラウンドまでその調子では
やはり相手を舐めていたと評されても仕方ない。
もちろんそれだけの力量差は認められたが、
早い段階で相手を見切ってしまった時に、
逆に一発でダウンさせられる絵がまぶたにちらつく。
そうなった場合には意識が朦朧としたままながら
本能的な部分で倒し返す予感も漂うのだけれど。

管理人がそれよりも気にしているのが、ガンボアのスタイル。
目と身体能力への依存度が高すぎるボクシングを
キャリアのどの時点で修正していくのか。
2年後はいいとしても5年後は?
それとも28歳や30歳で引退か?
ガンボアは試合、練習中のアクシデントで古傷と呼べるようなものを作ってしまうと
ボクシングスタイルを一気に崩壊させてしまうかもしれない。

コルテスの「一見」不可解な裁定に救われたが、
下手したら最終回に失格を宣告されていた。
今の方針・方向で成長させて本当に大丈夫か?


考察 ~サリド~

トランクスの丈のあまりの好対照にベテランvs新鋭以上の図式が見られた。
待ち構えても良し、追い掛けても良しとのイメージと戦略で臨んだはずだが、
初回でゲームプランは通用しないことが判明。
それでもプランに忠実に打ちにいくが、
相手の左フックにはカウンターを撃てず、右はスリップできず、
バックステップにパンチは届かず、追っても距離は縮まらなかった。
若造に舐められていることを知って相当カッカしていた部分はあったと思う。
その象徴が9だか10ラウンドのゴング後。
明らかにガンボアが先に手を出したように見えたが、
律儀に応戦するあたり、相当に血圧が上がっていたのだろう。
また最終ラウンドはラビットパンチをしっかりアピールしたりと
勝利への執念は衰えを知らなかった。

ゴング前に王座剥奪とか言うけどIBFも頭固すぎじゃなかろうか。
管理人はかつて某温泉のサウナで友人と減量合戦をしたことがあったが、
その時は確か55kgスタート。
2時間強でめまいがして思わず備え付けの水道から水をグビグビ飲んでしまったが、
それでも1.7kg減量できた。
その後は当然ソッコーで2kg戻しましたとも。
10lb増やすことなどSバンタムあたりでも楽勝で、
Sフライでも一晩で4kg強戻すのは珍しくなかろう。
○日前計量、△日前計量などには賛成できるけどね。

WBA世界ライト級挑戦者決定戦

2010-10-11 22:11:30 | Boxing
ブランドン・リオス VS アンソニー・ピーターソン

リオス 7ラウンド終了時失格勝ち

考察 ~リオス~

初回のボクシングではスピードとパンチのキレでわずかな、
しかし確実な差を見せつけられたが、2ラウンド半ばの
ショートの右アッパーで形勢を自分のものにした。
特定の距離、この選手は近距離で強さと上手さと柔軟さを見せるが、
それは長すぎないリーチと打たれ強さ以上に、
この選手の育った環境にあるのだと思われる。
ハイスクール時代では喧嘩で鳴らしたというような粗さはなく、
右ショートアッパーと左フックは目で捉えてではなく、
実戦で掴んだ感覚で当てていた。
ライト級戦線にまたひとり好戦的なファイターが生まれたわけで
マルケス戦よりカチディス戦が見たい。

デラホーヤのキャリアにおいて象徴的だったが、
このようなルーツを持つ選手が現れてくるほどに
アメリカ社会の均質化と差異化が見えてくる。

考察 ~ピーターソン~

5ラウンドのダウンはその直前にボディを効かされたから。
顔面をフリーにしてしまった瞬間にもらってしまったが、
アゴの強さとメンタルの強さが反比例するのは黒人選手の特徴なのか。
ボクサーファイターもしくはボクサー型であることを裏付けるかのように
ブロックを自分の正面のみに置き、中~近距離では面白いように
左フックと右アッパーを被弾した。
ディフェンスにおいては世界戦線レベルではなかった。
では攻撃は?
肘の角度をビシっときめた左右フックは体幹のバネが効いているが、
シューズがリングを噛んでおらず、この相手にはダメージングブローたりえなかった。
効いてしまった時の対処にローブローというとプエルトリカンの専売特許かと
考えていた時期もあったが、よくよく考えればそんなはずはない。
結局出てくる相手を止め切るだけの攻撃・防御のオプションを持たなかったということ。
非常に残念な人材だ。
2年後にWOWOWで会えるといいね。

WBO世界フェザー級挑戦者決定戦

2010-10-11 21:59:42 | Boxing
ダニエル・ポンセ・デ・レオン VS アントニオ・エスカランテ

レオン 3ラウンドEffectiveKO勝利

考察 ~レオン~

ドスンパンチの重さばかりに目を奪われそうになるが、
その重さを生み出すボディメカニクスに注目せねばならない。
右足の踏み込みを右膝で受け止め、そのkinetic energyを右腕に伝え、
戻しの勢いを左に伝えている。
一見してカウンターの餌食になりそうな瞬間も作るが、
右脚の角度がフェイントと牽制、そして懐の深さを作りだしているので、
よほどのスピード差がないかぎりは被弾はなさそう。
ただし、現フェザー級のトップどころはスピード豊かな選手ばかり。
ディフェンスにレベルアップが見られなければ2階級は厳しいかもしれない。
フィニッシュとなった右フックは長谷川がフェザーで撃てるかどうかを
試される、期待されるパンチだった。


考察 ~エスカランテ~

ガードが固い相手にパンチを当てるにはどうするか。

A 強打でぶち破る 
B 相手に打たせる
C 手数で押す

エスカランテはCを選択し、特にショートアッパーに冴えを見せた。
前進を伴う連打では自身にカウンター被弾の危険性(相手にもよる)があるが、
よくこの元王者に向かっていけたと思う。
ただ、初回から重圧に押されてボディを効かされたのは痛かった。
あっさりKOされたかのようにも見えるが、
フェザー王者時の粟生よりもハイレベルに見えたのは過大評価か。
試しに日本に呼んでみようと考えていい選手ではない。

WBC世界Lヘビー級王座統一戦

2010-10-06 21:28:47 | Boxing
WBC王者 ジャン・パスカル VS WBC暫定王者 チャド・ドーソン

パスカル 11ラウンド負傷判定勝利 

考察 ~パスカル~

僅差判定勝ちの予感を抱いていたが、こういう結末も悪くはない。
ノリの良さとノリの悪さが勝敗を分けてきた選手だけに
ノリが良→悪となった瞬間の試合ストップは福音だったろう。
自分よりも体格に優るサウスポーといえど、
クイックネスを活かして風穴空けて打っていけばポイントは取れるわけだ。
ノリが良ければ攻勢を取れるし、悪ければ崩れ落ちる典型的なボクサーで、
この試合ではまさに後者の展開が見られるかと思ったが、あのバッティングは事故だろう。

人間の心というのは不思議なもので、肉体的なダメージは一瞬で回復することはないが、
心理的なダメージは一瞬で回復することもある。
この選手は打たれ強さを除くすべての肉体面に秀でているが、
精神的なたくましさはさっぱりで、顔面でもボディでもガードの上でも
打たれるほどに心の防御力が低下していっているように見える。
どこかC・スピンクスの匂いが嗅ぎとれるし、A・ベルト的でもある。
打たれるのは嫌だし打ちに行くのすら時々ためらう、みたいな。
ホームでは強いが、敵地ではサッパリになる典型みたいな選手に思えてならない。

逃げ切りたい気持ちを前面に出して負けたり、
肩の負傷で泣きそうになりながら戦ったりと、
なかなか多難な試合を見せてくれるが、
黒人選手というのはやはり黒人選手相手もメンタルのひ弱さを見せる時は見せるのね。
パスカル、そしてディレルを下しているフロッチはやはり強いのか。
ホプキンス戦が決まったらしいけど、試合後には文字通り泣かされそうだ。


考察 ~ドーソン~

オッサン選手と戦ってばかりで、自分の中の何かが狂わされたのかな。
逆に、自分の中で何かが定まってしまったのか。
元々大上段に構えて「さあ、打ってきなさい、来ないならこちらから行くぜ?」
みたいなところがあったが、それはオッサンのメンタル。
オッサンではない選手がオッサンになってはイカンのだ。

パンチはキレるし、ボディワークも冴えるし、フットワークもスムーズだしで、
欠点は何一つ見当たらない。
だが飛びぬけて良いところも見当たらないという木村達也的(宮田評)な面が
この相手にしてようやくはっきり浮かび上がったのかな。
右ジャブを出しながら待つ、もしくは距離を詰めるのはサウスポーの勤勉さだが
オーソドックスの右の飛び込みを待っていたにしては無策だった。
というよりも反応できなかった。
技術に優れ、肉体的素養にも恵まれながら、頭もいい。
そのインテリジェンスゆえに速断速決ができず、
対応策をひとつひとつ検討してしまったに違いない。
オッサン選手は奇抜な戦法を採らず、経験を生かし試合中に微調整をしてくるが、
そんな試合を連続して戦ううちに思考の駆け引きのスピードが落ちてしまったのだろう。

ボクシングに限らず、スポーツは何か一部分に秀でていれば
総合力では劣勢でも案に相違して勝てたりする。
comeback boutはまさかのタイトルマッチになりそうだが、
クラウドも結構あれこれ考えながら戦うタイプなので興味深い試合になりそうだ。

それにしてもrematch clause(再戦条項)があるから気にしていないと
本人はメディアに語っていたが、そこまで老成、達観してどうするのだ青年よ。
ガールフレンドにもそんな調子かね?
若さは謳歌できるうちに謳歌しないとイカンよ。
いや、案外熟女キラーなのかも……

WBC・IBF世界Sライト級タイトルマッチ

2010-10-06 19:11:50 | Boxing
WBC・IBF王者 デボン・アレキサンダー VS 挑戦者 アンドレアス・コテルニク

アレキサンダー 判定勝利

考察 ~アレキサンダー~

ある相手に対して恐ろしく速く強く見えた選手が、
次の試合では凡庸に見えてしまうのはボクシングでは珍しいことではない。
モズリーがモーラ戦の結果で評価を落とされたのは不当であるように
アレキサンダーもまだまだ評価は落ちない(ただし上がりもしない)。

ハッハッ!と続くジャブはスピード、キレ、威力の全てを備えているが、
その意図もレンジも一つに限られているがゆえに、
ブロックの達人には効果を発揮しなかった。
この選手のジャブは連打につなげるためのリズム作りが主眼で、
初回からブロックの上を叩きまくったが、
いきなり返しを入れられてしまった。
捨てパンチもなく、フェイントもなく、動いて位置を修正しても
タイミングとリズムに微調整は施されなかった。
手数でポイントを奪取できたとしても、M・マイダナのように
一発でひっくり返すようなパンチャー相手には効果的だろうか。
またディフェンスにおいても、ラウンドが消化されるごとに
重心、顔面とも徐々に後方に置かれ、それでも対処しきれず
最後には決定的なダメージ一歩手前まで追い込まれた。
きっとこれまでの対戦相手に手古摺った時にはスピードを上げるか、
パンチの回転を上げるかで攻略出来てしまったのだろう。
キャリアの中で本格的な意味でのadjustabilityは涵養されていなかったのだと推察される。
逆に考えれば、この試合内容はゲームプランが機能しない時のresourcefulnessの
重要さを陣営に教訓として与えたものと思われる。
現代ボクシングにある意味一番必要なスピードはすでに与えられている。
テクニックもある。
単純なギアの上げ下げだけではなく、微妙なステアリングが今後は求められる。
そしてそれを身につける日はそう遠くはなかろう。


考察 ~コテルニク~

サウスポーに対する特段の苦手意識もなく、むしろ得意なのだろうか。
スピードあるサウスポー与し易しというボクサーはいないだろうが、
ジャブの位置取りに無関心、あるいはジャブを打つ際の相手の位置取りに
無関心というタイプは、こういうベテランには料理しやすいのかもしれない。
食べやすいとまではいかなかったけどね。
カーン戦でスピードに優る相手に対して後手後手にまわったが、
この試合ではスピードに対してスピードで対抗する愚をはなから知っていた。、
ジャブの差し合いで優る位置取りを早々に把握してからは、
相手の位置取りを読んだのかコントロールしたのか、
向き合う構図のイメージとしては「イ」の字。
半身の相手を半身で追う必要は実はなく、相手を左斜め後方に下げるようにすれば
自身の左のレンジからははずれない。
ただし、左フックは届かないという弱点があり、
さすがにこの物理的なジレンマには回答は出せなかった。
アマチュアの採点ならコレでも勝てるのだろうが、
プロでは旺盛な手数も要求される。
この日もジャッジに nod をもらえなかったが、
誰とやってもこのような展開になるのだから、
本人としては心理面のダメージはなかろう。
ブラッドリーと対戦しても似たような展開、似たようなスコアになりそうだ。
確たる哲学と信条に基づいてこのスタイルを貫ければ
40歳まで一線級を相手にできると思われる。
引退後はプロよりもトップアマの育成にまわりそうだ。

WBA世界バンタム級タイトルマッチ

2010-10-04 23:14:11 | Boxing
王者 アンセルモ・モレノ VS 挑戦者 ネオマール・セルメニョ

モレノ 判定勝利

考察 ~モレノ~

座ってではなく、一部立って視聴したが、
こいつの脊椎はどうなっているのか。
人間には生理的彎曲というものがある。
肘にも膝にもあるものだが、この選手で注目すべきは脊椎。
普通は背中の部分は猫背になり、腰部にかけて内反し、
臀部にかけて少し外反する。
それを無きが如く前傾し、パンチもフットワークも駆使するとは…
レントゲンを撮ってみたいよ。
クラウチングやアストライドなどのスタンスはその選手のスタイル以上に
その選手の肉体的な特徴にマッチするからこそだと信じるが、
サウスポーの端くれとして自分でやってみると前傾すり足両肘120度は無理だ。
ボディへの対処で後手に回ったが、ダッキングとスウェーだけで右ストを
さばき続けるのだから、ボディが一番の弱点というわけではないのか?
攻撃において右フックをいつもより多用したが、あれだけ脇を締めた状態から
よくクロス・ミドル・ロングのレンジでフックを使い分けられるな。
同じ人間ではあっても同じ生き物ではないように感じられる部分が見るほどに出てくる。

以前にこの選手のことを肉体的素養が先行してこのボクシングスタイルに
たどり着いた可能性が高いと書いたが、実はスタイルが肉体に先行したのか?
カバジェロを見るとやはり前者かとも思うが、この選手はなかなか惑わせてくれる。
パナマのボクサー育成事情ってのは実際どうなっているのだろうか。


考察 ~セルメニョ~

軽めで弛めのパンチを身上とする選手が変則ボクサーに対するに
とことんオーソドックスを貫くか、相手の度肝を抜くかは状況による。
再戦なればなおさらで、自身と相手のスタイル、前戦のスコア、開催地、
コンディション、試合前の神経戦、試合中のadjustabilityの全てをreviewせねばならない。
前半はラウンドごとに優劣がつき、中盤はラウンド内で流れが二転三転し、
終盤はもうなにがなんやららららのら。
じっくりと座って観ないとだめなのかね。
この試合ではいつものぬるい連打が影をひそめ、
踏み込みの大きい筋緊張をともなう硬質な連打を放ったが、
当たるも八卦当たらぬも八卦の感で、互いに相手にしか見えないフェイントで
間合いとタイミングを削り合ったからこその噛み合わない噛み合わなさに終始したに違いない。
王者もそうだが、この挑戦者のボクシングも観るほどによく分からん。
見慣れた日本人選手との試合があれば、あれこれ勝手なことをもっと書けそうだが。
終盤に腰を落ちつけてパンチを出すほどに軌道も引きもバラバラになっていくところに
この選手の非凡さを感じたが、非凡だから勝てるとは限らないのだ。
逆を言えば第一印象何だこりゃ?というパンチの方が勝てたりするわけだ。

ミハレスを連続で退けた時には正統派の曲者という印象だった。
この試合では回を追うごとにガチャガチャのボクサーになった。
どちらが本物のセルメニョかと言えばやはり前者だろう。
To cut the long story short, 相手の曲者度が一枚上だったということ。

WBA・WBO世界Lフライ級王座統一戦

2010-10-04 21:32:31 | Boxing
WBO王者 イバン・カルデロン VS WBA王者 ジョバンニ・セグラ

セグラ 8ラウンドKO勝利

考察 ~カルデロン~

体格差のあるファイター型との過去の対戦といえばカサレス戦があるが、
その時は相手はスタンダードなコンビネーションで詰めてきた。
対照的にこの日の相手は単発強打と強引なボディへの連打で攻めてきた。
キャリアとボクシングIQで読み切れそうなものだが、
リング上でしか分からない相手の迫力に初回から飲まれたようだ。
相手があれではサウスポー云々は関係ないはずだ。
クリンチ、カウンターの右フック、体重を乗せた左ストレート、
どれも自身のイズムとリズムに反するものだろう。
チョコン、パシャパシャパシャというのがノッている時のリズムだからだ。
これまでの相手は自身のリズムに苛立ちを募らせてくれたが、
顔面ブロックをプランに織り込んで来られては分が悪い。
さらにこれまでの相手は一発で眠らせてやるぜとばかりに顔面狙いで来てくれたが、
てめーが飲み込んだ俺の嫁の結婚指輪吐き出せやと言わんばかりにボディに来られては……

カウントアウト後にすっくと立ち上がったが、
肉体的ダメージ半分に心理的ダメージ半分だったか。
ラウンドを重ねるごとに体が小さく見えてきたが、
実際に腰が落ちていたし、弱気の虫が顔を出していた。
返り咲きは苦しいだろう。
展開としてはマルガリートに敗れたコットに似ている部分もあるが、
余力や将来のビジョンはコットほどには残されていまい。


考察 ~セグラ~

相手のカウンターを自分から相撃ちに持っていくその様は
ボクサーではなくストリートファイター(それも素人の)。
先日の河野は顔面を隙だらけにして前進を繰り返し、敗れたが、
セグラとの違いは迫力に尽きる。
迫力とは精神力や鬼気迫る形相から生まれるのではなく、
純粋な攻撃力から生まれるもの。
そのまま昇龍拳でも打つのかと思わせるほどの右アッパーは
視聴者にとって滑稽であるがゆえに対戦相手の心胆寒からしめるものがある。
が、それは威嚇であり、真のプランはボディへの連打攻撃。
メキシカンの連打力は、たとえば日本人ボクサーがバッグ相手に唸りながら
手を出し続けるような根性によって支えられるものではなく、
当てた反動を利した返しを打ち、それを当てた反動でまた打つ。
空振りしてもリズムがあるので返しがついてくるわけで、
練習ではなく実戦もしくは実践で身に着けたものだ。
日本式の練習でこれを習得しようとするならば
メキシコ並みの歴史と裾野の広さが必要になるか、
あるいは指導者層にオカルティックな『脳内革命』が必要になる。
WBOタイトルはひとまず措いて、この選手を日本に呼べるか?
あるいは日本人がメキシコに乗り込んで勝算はあるか?
井岡甥の出番ではないということだけは断言できる。

WBA世界Sバンタム級タイトルマッチ

2010-10-02 23:17:24 | Boxing
王者 プーンサワット・クラティンデーンジム VS 挑戦者 李冽理

李 ユナニマスディシジョンで王座奪取

考察 ~李~

徳山のシルエットが随所に重なって見えたファンは多いと思う。
自分もその一人だからだ。
王者のサンデーパンチ(左フック)を警戒した時計周りのサークリングからのジャブは
スクエアスタンスの左肩から真っ直ぐに伸び、自身の距離を構築した。
相手はガードを高く掲げるので、視界の両端が必然的に狭くなる。
豆タンク型の王者に細野は真正面から打っていき、逆に相手の高速ジャブを被弾した。
互いに正対した状態のジャブの差し合いは10cm以上のリーチ差が無ければ互いに届くのだ。
それを一切拒否し、視界の端から真っ直ぐに入るジャブと視界の外から回り込んでくるフックが
王者の焦り、苛立ち、迷いなどの負の情動を喚起したといえる。
まさに徳山の間合いを彷彿させた。
その徳山はペニャロサ相手に窮屈そうな左フックも使っていたが、
相手に左右の違いがあるとはいえ、これほど左フックや右アッパーを功打するとは思わなかった。
一つ下の階級、初めての長丁場、陣営内部の不協和音などマイナス要素ばかりを考えたが、
まさに徳山の世界初挑戦に優るとも劣らぬ鮮やかなボクシング。
コーナーに詰められても、目のフェイントと右の的確さ、ダッキングでたやすく抜け出し、
右ストの軽打から左フックの引っかけでピボットするところなど、
本人も徳山の映像を参考にして研究と練習を重ねたんだろうな。

試合前のロングインタビュー映像と試合後の放送席とのやりとりから、
ボクシングIQだけでなく、元々の頭の良さとプライドも感じさせる。
やたらと感謝の念とキモチだけを強調するスポーツ選手が多い中、
新王者・李の落ち着きと賢明さは特筆に値する。
冬場の減量も問題なさそうだ。

浜田剛史は100点満点をつけるが管理人採点では99点。
敵地タイで奪取していれば120点だった、というのは冗談。
オプションは一つ自腹で買い取って無難な相手を選ぶか、
細野あるいは下田の挑戦のために大橋や帝拳が買い取りに出るか。
敵地での再戦は必須だろう。
これをクリアすれば文句無しに徳山の後継者となることができる。
それにしてもこの内容と結果に底浅い我が洞察を恥じるほかない。
2010年の Upset of the Year 決定!!

考察 ~プーンサワット~

数えてはいないが、手数ではおそらく2倍ぐらい出したのでは?
そして前進度(そんなもんはないが)では4倍以上に達したのでは?
評価上々の盤石王者にして油断があったのだろうか。
コットを思わせる高速で真っ直ぐのジャブが機能せず、
ラウンドを重ねるごとに連打から一発強打にシフトせざるを得なかった。
だがジャブは長く、ストレートが速くとも、
クラウチングで構える王者は飛び込むワン・ツーを持っておらず、
攻勢を強めた後半は確かにジャッジにはアピールしたが、
KOの予感は遠ざかるばかりではなかったか。
打ち合いもカウンターにも全くひるむところを見せなかった王者にして、
この夜の挑戦者のカウンターにはひどく狼狽していたからだ。
体格とリーチから畢竟インファイトするしかなくなるが、
その距離を潰すための布石たる自慢のジャブにクロスカウンターを合わされた。
おそらく長いキャリアの中でも初めての経験で、
自身にもセコンドにも最後までプランを修正することができなかった。
elusiveなだけの相手なら中盤以降に捕まえる力はあるが、
近距離で打ち合いに応じるアウトボクサーもおそらく初体験だろう。
ステップ幅が大きい選手との対戦経験も豊富に違いないが、
全ラウンド摺り足でカウンターとフェイントを間断なく予感させる相手もおそらく初めて。
日本のリングや日本人挑戦者(ではないが…)には好感触しかなかっただろうが、
相手はコリアンファイターの”スピリット”を備えた日本製アウトボクサーだった。
しかし、これだけで評価を地に落とすことはなく、
当然リベンジの舞台がプロモーターからは用意されるはず。
長谷川に敗れた時のウィラポン的な存在になることが予想される。

WBA世界Sバンタム級タイトルマッチ予想

2010-10-02 16:56:42 | Boxing
王者 プーンサワット・クラティンデーンジム VS 挑戦者 李冽理

予想:プーンサワット判定勝利

李が足を使ってサークリングする展開に終始しながらも、
王者の分厚いブロックの前に有効打がヒットせず、
むしろ終盤にはダメージと疲労の蓄積でTKO寸前に追い詰められると見る。
榎を下した実績は見事の一語に尽きるが、
その榎はクリス・ジョンに完敗していることから、
日本の強豪とアジア発の世界のトップではその差が大きいものと思われる。
徳山が初回から行くようにアドバイスしているらしいが、
その言は正しいと思っていい。
現に徳山自身も初回から飛ばし、終盤に自分の展開を完成させていた。
(アレはスタミナ切れではなく徳山ワールド)
徳山が仁柱への挑戦で見せたような鮮烈なパフォーマンスを挑戦者に期待できるだろうか?
関会長の死、新井田、木村の陥落・引退から始まり、
最近の所属選手の試合のレフェリングへの不穏当な抗議までを見ると、
ジム全体がギクシャクしているように思う。
ボクシングは個人競技ではあるが、マラソンやF1並みにチームワークが物を言う。
挑戦者がキャリアのこの時点で世界挑戦するのは悪くないが、
セコンドが的確な指示を出せずに後手に回ってしまう光景が目に浮かぶ。


Sウェルター級12回戦

2010-10-02 11:23:37 | Boxing
ポール・ウィリアムス VS カーミット・シントロン

ウィリアムス 4ラウンド負傷判定勝ち

考察 ~ウィリアムス~

リーチを距離の支配に使わないことが特徴的ではあるが、
タイミングに割り込んでくる、あるいは打ち終わりにカウンターを狙う相手には
分の悪い瞬間を作ってしまう。
そこを手数で相殺する、あるいは上回るの持ち味ではあるが、
どこまでそのスタイルを貫けるのだろうか。
「どこ」とは階級であり対戦相手のqualityでもある。
セルヒオ・マルチネス戦ではカウンターに苦しめられ、
打ち終わりも狙われた。
この試合では打ち終わりと打ち始めを徹底して狙われた。
メイウェザーにはひょっとしたら明確に敗れるかもしれない。

試合をすればするほど精神的には円熟味を増していくのだろうが、
スタイル自体は体格面と同じくすでに完成の域に達しており、
対戦相手の研究により少しずつ苦しくなってくるような気がする。


考察 ~シントロン~

まあ、毎度物議を醸してくれる選手である。
マルガリートへのKO負けとアングロへの判定勝ちで
ようやく自分に合ったスタイルを見つけ出したのかな。
マルチネスとの分の悪いドローも精神的に良い方向に作用している。

一発の威力が鳴りをひそめたわけではないが、
明らかにパワーよりもスピード、スキルに重点を置くようになり、
総合力は各段に上がっていると思われる。
相手が距離を重視したジャブを打たないことを研究済みで、
打ち始めはショルダーブロック、バックステップ、あるいはジャブ的な左フックで迎撃し、
打ち終わりには自慢の右を的確に合わせてきた。
リングと平行なパンチが最も威力を有するかと思ったが、
上への軌道でもパンチはキレるし、ダメージも与えられるんだ。
それにしても4ラウンド含めて採点せよと命じられたジャッジの心境やいかに。
シントロン陣営とすれば皮算用が立っていたのかも知れないが、
前戦の結果を真摯に受け止めていればこんな戦術(ダイブ)は採用しなかったはず。
あるいは本当にアクシデントだったのだろうか。

ミゲール・コットと同じく、階級を上げてもパンチは維持しつつ、
よりテクニカルに、よりスキルフルになっていくタイプなんだね。
しかし、実のある対戦相手が見つからない。
アングロとの対戦も相手の事情で実現しそうにないしね。