BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

ミドル級8回戦

2011-04-18 19:17:36 | Boxing
ジェームス・カークランド VS 石田順裕 

石田 1ラウンドTKO勝利

考察 ~カークランド~

J・フリオ戦を基に判断するならば、打ち合って勝つタイプ。
この敗北でタフネスに疑問符をつける向きも多いだろうが、
これだけで打たれ弱いと考えるのは早計。
フリオのハードパンチにたじろく場面もあったが、
結局最後は打ち合いに持ち込み、ギブアップに追い込んだ。
防御力(≠防御技術)、もしくはRPG風に言えばヒットポイントは高いようだ。
予想している、あるいは目に見えるパンチならば技術ではなく、
肉体的素養と根性で耐えるタイプも中には存在する。
つまり、歯を食いしばって痛くないと思い込むこと。
カークランドはまさにそれ。
そんなタフガイでもスピードに乗ったショートのカウンターがアゴ先をかすめれば
脳も揺れるし、身体にダメージの兆候も出る。
3度目のダウンではレフェリーに半ば強制的に立つのを邪魔された形だが、
それをbad callと呼んでは今後のキャリアで不利になるかもしれない。
審判を敵に回すのはあらゆるスポーツにおいてご法度だからだ。
続行はできたとおもうが、1分強の残り時間があればダウンをもう一回追加されたはず。
ホープであるからこそ早めに止めてくれたのだから。

前戦では無名のコロンビアン相手に効かされたらしいが、
コンディションがピークではなかった可能性がある。
けれどstay busy fightのためにland of nuclear disasterからcannon fodderを
呼んだのは自分たちであることを忘れてはならない。
"He didn't hurt me, I'm still ready to fight. That's what it is, you know"
なんて発言すれば地元人すらも敵に回してしまう、というかもう回ったね。


考察 ~石田~

アベンダーニョ、アルバレス戦を見る限り、どこか徳山をでかくしたような印象があったが、
この鮮烈なパフォーマンスを見てもその印象は変わらない。
なぜか。
それは徳山の口癖、「恐ろしいくらい右が切れている」「いつ倒してもおかしくない」という、
決して実現しなかった”もし実現していたとすれば”という幻想を実現したから。
無論、そこには様々な要因があるわけで、一つには対戦相手。
あれだけ顔面丸出しで身長、リーチに優る相手に突っかかってくれば、
意図しなくてもパンチはカウンターになる。
また、恐ろしいほど両脇が締まっていながら筋肉が強直しておらず、
むしろハンドスピードのあまりの速さに唖然としてしまうほどだった。

これはごく稀に入るというゾーンに入ったのかな。
たとえばゴルファーがゾーンに入れば芝目に鮮やかなグラデーションが付き、
上空を舞う風が目に映るという。
また野球選手ならばかのホームラン王は「ボールの縫い目まで見えた」というし、
極端な例ではミズノの公式認定マークまで見えたという猛者までいる。
(このブログを読む人ならば世代的に知っている筈)

ノックダウンそのものよりも素晴らしく、かつ上記を裏付けるシーンも2つあった。
1分過ぎの4連打に相手の返しの左が来たところを超速で右でブロックしたところ。
さらに3度目のダウンを奪う直前の相手の左の引きに合わせての右、左、右。
自分がレフェリーならばあそこで止めていたかもしれない。
とにかく相手の隙という隙が見えて見えて仕方が無いという感じだったろう。

西岡がジョニゴンをセンセーショナルにぶっ飛ばしたときには
ビッグマッチは近いかと思われたが、今に至るまで実現せず。
石田が真にビッグマッチに参戦するとすれば、
それはフォアマン、ジェイコブスもしくはルビオのいずれかに勝利せねばならないと思われる。

それにしても痛快無比な内容かつ勝利だ。
早くも今年のUpset of the Year決定ですかね。

WBC世界フェザー級タイトルマッチ

2011-04-08 22:59:14 | Boxing
王者 長谷川穂積 VS 挑戦者 ジョニー・ゴンサレス

ゴンサレス 4ラウンドTKO勝利

考察 ~長谷川~

希望的観測込みで判定勝ちするだろうと考えていたが、
まったく異なるこの結果にも不思議と驚きを感じない。
それはやはり試合の過程がこの結末を物語っていたから。

前戦でも見せたアッパーの被弾に対して策がなかったのか、
相手が上回ってきたのかは知らず、問題はやはり自身のウェートか。
パンチの返りの遅さが目についたのと同時に目のカット後に軽やかさを
取り戻した前戦と同じく、前半から打ちつ打たれつは長谷川のボクシングではない。
またパンチの交錯の瞬間だけに着目すれば、
ボディワークそのものもキレていないように見えたのは、
実際にそうだったからか、それとも挑戦者がブルゴスよりもsharpだったからか。
その両方だろう。
左フックを警戒していたのだろうが、西岡との対応の違いは明らか。
西岡は右ガードの置き所を調整するとともにスウェーで2度ほどアッパーもかわしたが、
長谷川はスウェーとダッキングで避けようとしていた。
ボクシング哲学の違いもあるだろうが、相手のサンデーパンチを受けとめる力(ウェート)が
長谷川にはなかったということか。
そこに迂回してきた右を放り込まれたわけだが、スローで見るとアゴではなく
顔面にめり込まされてたね。
大脳が揺れたというより脳幹まで響いた感じか。
序盤のラウンドから打ち合いに応じたのは「このぐらいの相手には楽勝せなアカン」という
自身の言葉へのプレッシャーか、それとも威圧感、体格差、パンチ力、耐久力の差からくる
余裕の無さの表れか。
まあ、これも両方ですね。

しかし、SバンタムはACともにすでに埋まっている。
フェザーで戦うにしてもフィジカルが足りない。
引退というのは馬鹿げた選択肢。
バンタムにもし帰れるのなら亀田興毅とAll Japan Showdownがあるのだが……


考察 ~ゴンサレス~

打たれ弱さに定評のある挑戦者にして、王者のパンチに怯むところなく
むしろ期するところあり気に左フックのフェイントを織り交ぜていたのは
この右の伏線でしたか。
弱点を複数見つけたというのはハッタリではなく事実だったと受け取らざるをえない。
色々見直してから書きたいが、見返す気になれないよ。
鳥インフルで誰も彼もがメキシコに寄り付かないなか、
敢然と乗り込んできた西岡への遠回りな返礼として
放射線被害に蚕食されている日本に乗り込んできたその男気はズバリ、買い。
西岡が統一路線に乗り出せず、階級アップとなればpelea revanchaですね。

WBC世界Sバンタム級タイトルマッチ

2011-04-08 22:39:18 | Boxing
王者 西岡利晃 VS 挑戦者 マウリシオ・ムニョス

西岡 9ラウンドKO勝利

考察 ~西岡~

ジョニゴン戦前に綿密なプランをもって臨み、
ダウン後の対応を2通り用意していたとかつて語っていた通り、
試合展開に応じて自身のボクシングを調整していくだけのキャリアが
今の西岡にはある。
しかし、この試合では自身のコンディションもあるだろうが、
それ以上に相手のフィジカルとメンタルのタフネスにかなり手を焼いたように見えた。
というのも、アッパーの功打やコンビネーション、もしくはカウンターを状況に応じて
使い分けたというよりも、プランを実行しようとした矢先に相手の反撃があり、
それに対し脳ではなく拳で先に反応したように見受けられたから。
タフで回復力があり、気持ちの強い相手を倒す(≠勝つ)には
ダメージを蓄積させていくか、一発で沈めるかのどちらか。
それを決めかねていたということ。
3ラウンド中盤に攻勢をかけられたところを左ショートアッパーを連続で巧打し、
同ラウンド終盤には明らかに挑戦者がインサイドへ入り込むのを躊躇した。
これでクロスレンジの主導権を握ったかに思えたが、
4ラウンド以降も同様の展開でポイントをrack upしたが、
相手に一発が残っている中、勝負を決めたのはやはりMONSTER LEFT。
それも、踏み込んでの一発ではなくスリップからのレフトクロス。
心理的に迷わないこと、刹那に反応する眼力、勝負どころの嗅覚、そしてパンチ力。
下り坂の始まりと見る向きもあろうが、管理人はそうは感じない。
また一つ王者は階段を上った。


考察 ~ムニョス~

変則的なパンチャーはハマれば強いタイプとハマらなければサッパリ型に大別される。
相性次第でいくらでも強さが変動するわけだが、相性の悪さを克服するのはメンタル。
この挑戦者にはその強さがあった。
その要因は2つ。
一つには王者が王者の貫録を示すべく正面に立つ時間が長かったこと。
もう一つはアッパー被弾の覚悟で王者のボディを打てたこと。
石の拳というのは正直ニックネームとしてはどうかと思うが、
硬質なパンチの持ち主であることはガードの上を叩いた時の衝撃で見てとれた。
自身の耐久力と攻撃力を上手い具合に配分させたとは思うが、
キャリア不足が一番の敗因。
相手の逡巡を読み切り、最適なオプションを選択できていれば、
王者のコンディションからアップセットもありえたかもしれない。
中盤以降、王者が左を溜めているところに警戒心を抱いたのだろうが、
下がりながらのカウンターが来ないことを読み切れていれば、
ジャブから崩せる場面もあった。
それができないのは、しかし、挑戦者のキャリア不足だけではなく、
王者のキャリアの充実があることも事実。
アッパーで蓄積したダメージにモンスターレフトを上乗せされてはたまらない。
下田あたりでは危なかったのでは?

WBC世界Sフェザー級タイトルマッチ

2011-04-08 22:38:37 | Boxing
王者 粟生隆寛 VS 挑戦者 ウンベルト・グチェレス

粟生 4ラウンドKO勝利

考察 ~粟生~

鬼門の初防衛戦、対サウスポー、相性が合うのかどうか分からないメキシカンと
観る側の不安要素はいくつもあったが、課題のリードは常に先手を奪い、
inからoutでは右フックの返しで相手の左のリターンを極力抑えるなど、
実力差を見せつける勝利となった。
ヘッドハンターな挑戦者に対して、元々冴えのあるボディワークが見事にはまり、
自身の右はみぞおちへ、左はレバーへとボディから面白いように崩すことができた。
また、対サウスポーにおいてリードで先手を取るだけでなく
相手のカウンター志向も読んで高速ジャブを採用、相手の一瞬の反応に反応して
コンビネーションをまとめるなど、メンタル面の成長が確実にボクシングに生きている。
ダウンを奪った右ボディは映像で見る限りみぞおちから右季肋部にかけてのようで、
内臓や皮膚そのものへのダメージというよりは横隔膜が強直した感じ。
意外だったのは、直後に素直にニュートラルコーナーへ向かったこと。
あの両腕を広げてややしゃがみ込むようにしてくるくるまわるダンスは封印したのか、
それとも自然に出なかったのか。
粟生も大人になったということなのだろう。


考察 ~グチェレス~

何度も書いてきたように思うが、スキンヘッドの特徴は強面か優男。
なぜかこの両極端に分かれてしまうように感じられる。
挑戦者は当然のことながら後者で、肝腎のボクシングも優男。
スタンスは背筋をピンと伸ばし、左右ともに高く掲げるという
見ての通りのカウンターパンチャー。
その左ストレートは踏み込みを伴わず、
右の腰と肩を軸にした打ち出しと返りのタイミングのみに重点を置いたもの。
ファイター相手には有効なスタイルで、また2年前の粟生相手なら
榎戦のような三者ドローという結果も予感させるようなスタイルだ。
現代を代表するサウスポーはパッキャオ、S・マルチネスなど
脚を使うことに長け、パンチに威力も乗せることができ、カウンターもとれるということになろう。
田中トレーナーはS・マルチネスを絶賛し、またそのエッセンスを粟生に注入中と思われる。
対して挑戦者は手持ちの武器が足りず、また数少ない武器も揺るぎないものではなかった。