BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBC・WBO世界ミドル級タイトルマッチ

2010-06-14 23:37:52 | Boxing
王者 ケリー・パブリック VS 挑戦者 セルヒオ・マルチネス

マルチネス 判定勝利

考察 ~マルチネス~

サウスポーのテクニシャンがオーソドックスのファイターを
血まみれかつほぼTKO寸前に追い込む構図の鮮やかさはアルセVSミハレス以来。
ドクターチェックが一度も入らないということにレフェリーにある種の不信感さえ抱く。

このブログで何度も使ってきた言葉だが、マルチネスほどelusiveという言葉が似合うボクサーはいない。
2ラウンド目からいきなり両の手をだらりと下げたが、あまりにも危険すぎる選択。
実際に中盤以降は相手が右の標的をheadからchestに変えたことで被弾も増え、
自身のギアダウンも重なり地味にポイントを奪われたが、それもこれもゲームプラン。
相手が自身のスピードについて来れないと見てとるや、
徹底的にそこを突くべく反時計回りからのジャブとワン・ツーでポイントをかっさらった。
相手が打ち返したときにはもうそこにはいないという出入りの速さと
打たせないための死角への回り込みはリズミカルでありながらannoying。
自分はリズムに乗りながら相手のリズムは乱れっぱなしという状態を演出した。
事実、終盤はほぼすべてのパンチを最小限のヘッドスリップでかわしきった。
またキモとなった9ラウンドはlateralかつcirclingなmovementを一気に
前後左右のverticalなmovesetからのに切り替え、
ワン・ツー、ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー・フォーを織り交ぜ
王者を両目からの流血状態に陥らせた。
前戦では七色のカウンターでウィリアムスと互角の戦いを演じたが、
今回は自分から展開をコントロールすることを選択。
集中力、スタミナ、スタイルのすべてが見事に融合した勝利。
まずは一戦楽な相手を挟んで、マルガリート、シントロン、ジンジルク、アングロ、シュトルム、
あるいはウィリアムス、まさかのメイウェザー戦など売り手市場を存分に謳歌するのだろう。

それにしても、この選手はクルマに喩えるならばセルシオ。
車体は大型で重量もあるが、高速域でのアクセル&ブレーキの軽さ、
コーナーリングの柔らかさ、ハンドルの重みと繊細さが特徴的。
数年前まで親父が所有していたが、最高のクルマだったな。


考察 ~パブリック~

斜に構えての引きを意識したストレートはらしくはなかったが機能した。
中盤のわずか数ラウンドだったが・・・
ジョー小泉がいう攻防分離というのはスタイルよりもメンタルに当てはまる気がする。
パブリックの攻めない、攻められないというもどかしさは身に染みついたスタイルよりも
精神的な動揺のしやすさ、心のvulnerabilityゆえとでも言えばいいか。
攻め方が分からない、攻め方を忘れてしまったような表情をコーナーで見せるのは
少年のあどけなさゆえと好意的に解釈したいが、
ホプキンス戦では最後の最後に威嚇され、この夜は相手に随所とニヤリとされては
少年の幼さ、ひ弱さとしか評価できない。

この試合の技術的敗因も今後の課題も明々白々。
それは攻防のつなぎの稚拙さ。
だが両者を一度に改善しようとすると往々にして大失敗する。
優先順位はおのずとディフェンスとなる。
近距離では両脇を締めL字に近い状態から左ボディ、右ショートアッパーと打ち下ろしを狙えるが、
密着時間が長くなければ根性勝負にならない。
この状態は打ちつ打たれつを前提とするが、スピードスターからは手数をまとめられたところで
あっさり逃げられてしまう。
遠距離ではグローブを高めに置いてパーリングからのボディメカニクスでストレートが打てるが
この日の相手はそもそも目の前で静止する瞬間が皆無だった。
そこから索敵に移る瞬間を常に狙い続けられ、流血も手伝ってまさに”見えない”状態だったと思われる。
中間距離では自身のパンチのselectionがジャブとワン・ツーに限られるゆえに
位置関係にアングルをつけられると射程をリセットするところからやり直しとなる。
だが、この日の相手はパンチの選択が早く、パンチそのものも速かった。
おそらく自身の右の引きと相手の体の引きが同じぐらいの速度だったのでは?
これだけスピードに差があれば打たれた時にどう守るかよりも、
打たせないためにどうするかを考え、かつ実行していかなければならない。
手持ちの材料をフルに活用するならば、一撃をintimidationに使ったフェイントしかない。
魅せる打ち合いで自身の商品価値を上げようとするスタイルはすでに限界を露呈した。
返り咲きを狙うにしても2階級制覇を目論むにしても
現状のままでは世界タイトルマッチを3試合やれば壊れてしまう。

WBC世界ウェルター級タイトルマッチ

2010-06-01 21:23:49 | Boxing
王者 アンドレ・ベルト VS 挑戦者 カルロス・キンタナ

ベルト 8ラウンドTKO勝利

考察 ~ベルト~

初回ダウンとラッシュの息切れを除けば上々の出来。
サウスポーの不意の左を喰うのはもはや欠点ではなく特徴。
大地震のaftermathをメンタル面が乗り切ったことで一皮剥けたかな。

とにかく瞬発力と反射速度が格段に優れているので
相手の打ち終わりにナチュラルに打つことができる。
左ストレートボディの引きに打ち下ろし気味の右を幾度となくかぶせたが、
キンタナ側にはショートアッパーのイメージが戦前に植え付けられていたはずなので
これは無条件に効くパンチとなる。
リーチがさほどではなく、肩幅、胸板がでかい、なおかつずんぐりむっくり体形というと
とてもボクシング向きには思えないが、上半身のパワーとハンドスピードは
体形を活かしたものになっており、経験を積むごとに自信も増し、
キャンバスを踏みしめたgut checkもできるようになるのではなかろうか。

このレベルとコンディションをさらに向上もしくは維持することができれば
コット、モズリー、マルガリート、クロッティ、シントロンらと互角以上の
勝負を演じることができるのではと感じさせるが、残念ながら全てが地味すぎる。
その存在感の薄さはセンチェンコやザベックに優るとも劣らない。
パッキャオ、メイウェザーを中心に回っている現ウェルター級では
はっきり言って役者(≠実力)が違い過ぎる。
メイウェザー引退で転がり込んだベルト(beltね)が枷になって
勝負に打って出られないベルトの不遇を嘆くべきか。
それともパッキャオ、メイウェザー引退後の切り札たりうるのか。

PS.
ジョー小泉の日米比較文化論は首肯できるようなできないような・・・
アメリカ人の言うヒューマニタリアニズムはどこか我々東洋人には馴染まない。
21世紀は格物致知から修身、斉家、治国、平天下に至る思想の方が
『隣人とは誰か』をアホのように追求しようとする
ivory tower-esqueな思潮に対して優れると思う。
と考えるのもまた相対主義の陥穽か。


考察 ~キンタナ~

上体を前方に傾け気味にしつつスクウェアスタンスでジャブを繰り出しながら
左のカウンターを狙うスタイルはサウスポーの定石ではあるが、
スピードがあってサイドのみならずlateral movementもこなすオーソドックス相手には
サウスポーの利点が活きなかった。
スピード型というよりはタイミング型のカウンターパンチャーで、
どこか粟生に通じるところがある。
自身の左の引きよりも相手の踏み込みが速い場合どうするか。
右フックの使いどころが一つの解答となる。
相手の入り端に合わせて左脇を締めグローブを頬に付け、軸を作って右一閃。
あるいは左を撃ち込んでから引きのムーブとの連動、つまり長谷川式の右。
もしくは脚を使って常にcounter clockwiseに回るのも一興だが、
これは前後には動けてもそれ以外には実は動けないキンタナには無理だったかな。
今後はコラーゾとウェルター級のgatekeeper合戦でもやりますかね。

Lヘビー級12回戦

2010-06-01 21:23:21 | Boxing
バーナード・ホプキンス VS ロイ・ジョーンズJr

ホプキンス 判定勝利

考察 ~ホプキンス~

徳山昌守がかつてボクマガだかワーボク(ボクワー?)だかで
自身の戦術とメイウェザーのシルエットを重ね合わせて語っていたことがあったが、
バッティングとクリンチをセットにした右の飛び込みはホプキンスとダブる。
脚を動かさない時は頭および上体を動かし、打つ際にはバッティングとクリンチを意識し、
呼び込もうとしながら常にフェイントをかけている。
ダッキングからのクリンチで組み合ったまま前に歩く様は
川嶋にKO負けした後の徳山そのまま。
中盤以降のツー・ワン・コンビネーションが光った試合で、
即座にショルダーブロックに移行できる体勢を維持していた。
相手が打ってこなかったので機能させることもなかったが。
観客からすれば度重なるオーバーアクションによる中断は
もはやお約束として受け取られていたことだろう。
モハメド・アリはloved by few, hated by many, but respected by allと評されたが、
ホプキンスもその域に達したと判断してもいい頃合いかと思う。
観客、レフェリー、ジャッジ、メディア、あらゆる関係者にとって
愛すべきか憎むべきかの判断を迫る選手は、凡百のナイスガイよりもはるかに希少価値がある。

それにしても・・・
6ラウンドだったか、ゴング後の乱打戦は完全に故意。
かしこに散りばめられたローブローと頭突き(バッティングとは呼ばない)。
こりゃカルザゲが復帰しても同じリングに上がることはないかな。
D・ヘイ戦はさすがに賛成できないし。


考察 ~ジョーンズ~

肉体改造が失敗したとはよく指摘されることだが、
細胞レベルで衰えていると思わされるほど随所に精彩を欠いた。
これはここ数年言われ続けていることだが、
稀代のspoilerを相手にしてはその色褪せっぷりは一世風靡セピア。
フィジカル面ではなく勘が鈍ったのか、
防御に際してバックステップができなくなったのが目につく。
衰えの一番の原因は加齢でもウェイトの上げ下げでもなく、
除脳硬直を思わせるターバー戦の後遺症なのかもしれない。

グリーン戦は内容も結末もアレだったので比較対象にならないが
カルザゲ戦よりもさらに力が落ちたのでは?
かといってトリニダード戦のコンディションでも勝てたとは思えない。
結局この再戦はやる必要はなかったということか。
ついにcall it a dayとなったわけだが、
ラップのリズムで刻んだハイライトの数々は
今後もyoutubeで永遠に再生され続けることだろう。

WBA世界Sフェザー級タイトルマッチ

2010-06-01 21:22:46 | Boxing
王者 内山高志 VS 挑戦者 アンヘル・グラナドス

内山 KO勝利

考察 ~内山~

長身痩躯でいかにもジャバーな体形の相手に相対するには
当然ながらジャブをもらわないことがprimary choiceとなる。
取るべき選択肢としてはブロッキング、パリー、ボディワークとあるが、
王者はブロックとスウェーを選択した。
左の差し合いに応じながら自身の右を貯めたスタンスを構築したことで
攻防を一体としたスタイルで戦うことができた。
強打のオーソドックスが右を貯めると膝、腰、肩を硬くする選手もいるが、
内山には一切当てはまらず、逆にリラックスしているようにも映った。
強打を軸にしながら防御にも穴が無いスタイルで、
動いていない時のシルエットは良い時のカーミット・シントロン的と言おうか。
ボディでくの字に折らせたところを仕留めるかと思ったが
あのフィニッシュの右フックは練習してきたものだという。
ワン・ツー気味でクロス気味というか、名状しがたいパンチだったが
それゆえに練習してきたものという言葉に説得力がある。
結果的に素晴らしいノックアウトとなったが、
やはりボディで崩してから攻略するのが定石。
おそらく初回で彼我の戦力差を見切ったと思われるが
これはゴングが鳴る前から分かっていたこと。
今後は真価を問われる防衛路線が期待される。
A・マルガリートやS・マルチネスを攻略するK・シントロン。
ある意味、最高に痛快ではないか。


考察 ~グラナドス~

A・フネカと同身長でさらに一階級下で、
リーチもSフェザーでは規格外、顔も小さいとなれば
攻略の糸口はボディしかなく、また射程外から飛んでくるパンチも要警戒。
初防衛に選ぶにしては厳しいかもしれないと思えたが、
戦績、醸し出す雰囲気ともにまったくの期待はずれ。
ストレートが伸びず、フックも打たず、最も怖いアッパーは完全に見切られていた。
どっしり構えたボクシングをするのか、手数がうるさいボクシングかに徹すれば
相当の脅威になるだろうが、インテリジェンスもフィジカルも完全に足りない。
パンチ力もこの階級では並みレベルだろう。
身体的な特徴を活かすボクシングを身につける伸び代もないと思われる。

最後は"Arriba, arriba"とせっつかれれば立ったのだろうか?
いや、いくらなんでも"C'mon"やジェスチャーが分からないはずがない。
結局はええかっこしいが意地を張る振りをして見せただけだったのね。